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005 パッチワーク・スカート

 スカートの裾(すそ)の、片側が持ち上がっている。

 めくれたスカートの先が、細い膝(ひざ)を斜めに横切って、マリモの履(は)いた下着が、見えてしまう。白いズロースだ。

 お尻の辺りを、スッポリ包み込むタイプ。肌も、体の線も、出にくい。女児のプライベートな部屋着としてなら、セーフかもしれない。

 とはいえ、下着は下着だ。やたらと人前でさらすものでもない。


 柔曽(じゅうぞ)は苦笑して、視線をそらし、顔を横へ向けながら、

「駄ァ目だよう、女の子がそんな真似しちゃア」

 マリモのニコニコ顔には、屈託(くったく)がない。

「痛くないよってこと、先生に見てほしくて」

「だとしてもさ」

 たしなめながら、右腕を伸ばし、スカートの裾を、軽く下へ、引っ張る。ズロースが隠れて、太ももから下だけが出た状態となる。

 柔曽の指は太い。半袖ブラウスから伸びる腕も、丸太のようだ。いずれも、発達した筋肉である。


 前を向き、しゃがんだ柔曽は、マリモの左脚、銀色の人工関節・義足(ぎそく)の部分をざっと眺めて、

「確かに、安定してるようだナ」

 うなずく。

 柔曽は外科医であり、生体工学の専門家でもある。

 かつて、街なかで重傷を負ったマリモを、柔曽は治療し、この義足を付けたのだ。


 スカートから手を放し、立ち上がって、

「じゃあ、具合が悪いってわけじゃないけど、ふらっと遊びに来てくれた感じかイ? 無論、それも大歓迎だがな」

 マリモも、握っていた左手を開く。バサッと、ロングスカートがもとに戻って、足首まで覆(おお)う。


 パッチワークのスカートは、古着を縫(ぬ)い合わせて、ボランティアが作ってくれた物だ。

 破れた白シャツも、裂け目が大きくなりかけており、腕を上げると、おなかの素肌が見えてしまう。

(かと言って、僕が服を買ってあげるのも、違うだろうしなア)

 医療など、自分の専門分野なら、いくらでも提供したいと思う。が、それ以外となると、バランスが難しい。周囲との調和、マリモのプライド。考えるべき点は、多々(たた)あるのだ。


 小柄なマリモの背丈は、柔曽のジーンズのベルトを、やや越すぐらいである。

 柔曽を見上げる少女の、切れ長の黒い瞳は、浅黒い顔に溶け込みつつも、青空を映して光っている。

 柔曽が、大きな手で、マリモの巻き毛をなでる。マリモの小さな頭は、柔曽の手の甲に、すっぽり隠れてしまいそうだ。


 うれしそうに、

「えへへ」

 ニカッと、マリモが照れ笑いをする。前歯が二つ、抜けていた。成長期、生え替わりであろう。

 ――が、柔曽が手を引っ込めた直後、なぜか真顔になって、スッと姿勢を正す。

「……?」

 不意に。

 ずっと背中に隠していた右手を、マリモは前に差し出して、

「――柔曽先生、五十歳のお誕生日、おめでとうございますっ」

 まさに、これが用件であった。サプライズである。

 マリモの右手には、何と、花束が握られていた。最初から、隠し持っていたわけだ。

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