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004 宙端 柔曽

「宙端診療所 【SORABATA】」


 白地に、青い文字。はげたペンキ。

 こんな大看板が、入り口に取り付けてある。わざわざローマ字でふりがなが書いてあるのは、珍しい名字だからだ。


 白い洋館。()もれ日が、屋根をかすめる。ゆうゆうと、カラスが一羽、青空を横切った。

 二階建て。バルコニーが付いている。若干、老朽化しているが、なかなか「味のある」(さび)れ方だ。

 まゆをひそめたくなる汚い家、という感じではなく、どちらかといえば、昔懐かしい映画に出てきそうな、レトロな建物。


 九月の日差しなのに、暑くない。

 まるで、庭に冷房が()いているかのようだが、これは高原の涼しさだ。

 小山の上にある、古ぼけた診療所。


 その(あるじ)が、朝の散歩から戻ってくる。中年男性。巨体。筋肉質の長身だ。

 宙端(そらばた) 柔曽(じゅうぞ)である。

「おや」

 声を上げたのは、家の入り口に女の子が立っていたから。門を入って、ドアの前。

 女の子は、やせており、小柄だ。後ろに、両手を組んだ姿勢。

 ところどころ破れた、白いシャツ。

 くるぶしまで隠れたスカートは、まだら模様のパッチワーク。

 浅黒い肌から、白い歯を見せて、

柔曽(じゅうぞ)先生!」

 しわがれているが、少女らしい高めの声。やや、舌足らずな発音。「先生」が、「シェンセー」に聞こえる。


「おー」

 よく知った顔であった。受け持ちの患者である。孤児なので、正確な年齢は不明だが、恐らく十歳前後であろう。

「マリモちゃんじゃねエか。どうしたんだい、こんなに朝早くから?」

 柔曽も、ちょっとダミ声だ。響きは、太くて低い。

 そこに、心配の口調が混ざって、

「……脚の調子が悪いとか、かい?」

 質問を付け加えた。

 柔曽は、百九十センチの大男だ。少し身をかがめる。

 すると、少女・マリモは、まぶしそうに瞳を細めた。

「おお、ごめんよォ」

 柔曽のスキンヘッドに、日光が反射したのだ。一歩下がり、首をかしげるようにして、柔曽は頭の位置を変える。照り返しの光が、マリモの顔面の外へと、ずれた。

「ん……。大丈夫」

 マリモは、目をこすって、そうつぶやいてから、質問に答え、

「脚は痛くないよ。調子いいもん」

 ブンブンと、強めに首を横に振った。

 髪は揺れない。もしゃもしゃの巻き毛なのだ。

 柔曽はホッとして、

「そいつア、よかった」

「うん。ほら」

 左手だけを前に出し、マリモは、自分のロングスカートを、ひょいとつまみ上げる。

 めくれたスカートの中から、左脚が、上の方まで(あら)わになる。太ももの途中から、足首のあたりまでが、銀色。

 金属製の脚。左の脚は、機械なのだ。

 ネジ、ダクト、人工関節、コネクタなどが、精密に組み合わさっている。細さは、生身の右脚と、さほど変わらない。

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