003 我が子二人。育てた「娘」、宿した息子
服を脱いだ紗良葉は、身をかがめて、囲いをまたぐ。素足の裏が見えた。
傾いた背中へ、豊かな金髪が、スルリと肩を滑った。突き出されたお尻が、左右、交互に躍動する。
続いて、箱の中のベッドで横になる。いわゆる「人工冬眠」用のカプセルだ。
シーツや布団はないため、あおむけの紗良葉の体は、そのまま、さらけ出されている。
「――」
大事なところを確かめ、守るように、紗良葉は、へその下へ片手を這わせて、脚のつけ根の毛先を、そっと指先で撫で付けた。うっすらと生えそろった逆三角形は、髪と同じ色であった。
冬眠カプセルのサイズは、百七十センチほど。高さは、床から約八十センチ。大まかな形は、横置きの直方体。
外見は、棺桶にも見える。もっとも、最新機器にぎっしり覆われた、メカニカルな棺桶だが。
裸で寝る少女を気まずくさせないために、カヲルコは、さっさとボタンを押す。
すぐに、自動開閉の装置が作動。カプセルのフタが閉まり始める。ウイィーンと、機械音。
横たわる紗良葉の、足の方から、半透明のフタが、せり出してくる。平らではなく、山なり。
ゆるやかな曲線で、フタの中央は盛り上がっている。ドームの屋根に似た形状だ。
伸びるフタは、紗良葉の首の下で止まった。
裸体が隠れたためだろう、紗良葉は、明らかに安堵している。
カプセルベッドのそばに、カヲルコが歩み寄っていく。カッ、カッと、靴の音が響いた。
「とうとう、お別れの時が来ましたね」
ベッドを見下ろして、カヲルコが述べた。
紗良葉の表情も暗くなるが、取り乱すことなく、態度は落ち着いている。既に、お別れのための期間は、たっぷりと過ごしたからだ。
今回のこの方法については、二人で何度も話し合って、お互いに、何度も泣いた。それを乗り越え、ようやく、出した結論なのである。
これ以外に、有効な解決策はない。
何の解決策かといえば――。
「……私の病気、治るといいな」
それを聞いて、カヲルコは、努めて大きな笑みを投げかけつつ、しゃがむ。二人の顔が近づいた。
「きっと治りますよ、紗良葉さん。大丈夫、五十年もあれば。医療技術が進歩して、新たな治療法が確立されているはずです。私も、頑張って研究しますしね」
子宮・心筋難結。
一昨年に罹患が判明した、紗良葉の病気だ。残念ながら、現代の医学においては、治療法は全くない。
あお向けの紗良葉が、ぽつりと、
「ジューゾも……」
「そうですね。我が子にも、頑張ってもらわなきゃ」
と、カヲルコが、自分の白衣越しに、ふくらんだ腹を撫でる。紗良葉も、青い瞳を細めてほほえむ。
カヲルコは、既に第一子を妊娠していた。もう、名前も決めてある。
必ずや、自分以上の優秀な医師、学者に育て上げるつもりだ。




