028 宙端 紗良葉
少女が一人、濡れた金髪をバスタオルで挟んで、しごくように、上から下まで丁寧に拭いていた。
ここは、女子校のシャワールームである。
スペースとしては、二人分くらいの広さ。花柄の壁とタイル。清潔だが、やや老朽化しつつある。伝統ある女学院なのだ。
部活の後、お湯で汗を洗い流したところであった。
水滴がポタポタとバスマットへ落ちる。
髪の次に、顔、上半身、お尻――真っ白な裸身を一気に拭き取る。
続いて、両手で広げたショーツを、またぐように、片方ずつ足首へ通す。膝の外側に当てた左右の手で、指を曲げ、ウエストのゴムを、へその下まで引き上げた。
ショーツは青。
脚の高い位置にカットがあり、太ももは隠れず、露出する。が、大胆さや、際どさはない。レースの飾りも少なく、おとなしいデザインだ。十代の女学生としては健全で、常識的な下着だと思う。
ふくらんだ胸に、同色の青ブラジャーをかぶせたところで、声が聞こえてきた。
「サリー! 私、先、帰ってるね!」
シャワー室のドア越しだ。部活仲間の少女、春菜である。先にシャワーと着衣を終え、隣の更衣室から叫んできたのだ。
前かがみになって、背中のホックを留めながら、
「分かった! バイバイ!」
青い下着姿の少女――紗良葉が、目の前のドアへ叫び返す。「サリー」は仮の名前であり、本名は紗良葉である。
ブラの上にセーラー服の上着を、ショーツの上にスカートを着ける。いずれも紺色。
下着の上に制服をじかに着ることには、年頃の乙女として、いつも抵抗感がある。本当は、間にワンクッション置きたい。すなわち、上着の下にインナーシャツを着て、スカートの下には短パンを履きたい。
だが、いろいろ試しても、はじかれる。どうやら、「この世界」では、その着方自体が、「設定」されていないようなのだ。
下駄箱で、上履きからローファーに履き替え、昇降口を出る。下校する生徒たちが、ちらほら。
夕方の空。雲は少ない。薄暗くなる一歩手前といった感じ。自転車が横切った。遠くには、マンションと歩道橋が見える。
校門を抜けたら、バッと、立ちふさがるように、眼前に再び、春菜が現れる。
「ばあ! びっくりした?」
黒いショートヘアが、サラリと揺れる。ニヤッと、白い歯がのぞけた。楽しげに細められた、つぶらな瞳。
「どうしたの、先に帰ったはずなのに」
答えながら、紗良葉は、
(ああ、また、たい焼きかなあ)
内心、そのように予想した時、春菜は、後ろに隠していた両手を突き出し、
「じゃーん! そこで、たい焼き売ってたから、買ってきちゃった!」
まさに、その通りのセリフを返してきた。
(やっぱりな)
苦笑。
手に、たい焼きを一個ずつ載せた春菜。
イラスト入りの、紙の小袋。正方形の封筒を、切り開いたような形。
それに挟まれており、白い湯気、甘い香り。
「あんことカスタード、どっちがいい?」
左右の手を交互に見比べつつ、春菜が尋ねてくる。セーラー服のカフスは、紺色と白のしましま。手首部分の布は、モコモコとたるんでふくらんでおり、かわいらしい。もっとも、紗良葉も今、同じ服装だけれど。
(えーと、前回はどっちを選んだっけ?)
ちょっと考えたが、思い出せない。両方とも、特に嫌いではない。
――放課後に、ひと足先に帰った友人・春菜が、たい焼きを買って、正門前で待ち伏せをしている――この「イベント」は、何と、既に五回以上は繰り返されている。毎回、春菜は、初めてのようにそれをやってくるのだった。どうやら、記憶がリセットされているらしい。
(やっぱり、『この世界』も、架空の、作り物なんだろうなー。それとも、私が、同じ夢を何回も見てる、とか?)




