027 捜索手段なき生存説
この仮説――サリーの正体が紗良葉だとする説――を裏付けるものは、他にもある。
そもそも、「ゼルヴォールク・プロミス」自体、実は、ゼルボク王国をモチーフにしたゲームなのだ。
滅亡したゼルボク王国をモデルにした、架空の王朝「ゼルヴォールク帝国」が舞台。
プレイヤーは、そこの風土、文化を味わいつつ冒険をする、というのがテーマであった。
ゆえに、「五十歳になったらゼルボク王国の姫が届く」と予告されていた柔曽が、このゲームに興味を持つのは、しごく自然な成りゆきであった。ゼルボク王国がどういう国なのか、その雰囲気だけでも、分かればと考えたのだ。
まして、姫本人である紗良葉は、当然、見逃すはずもなかろう。
(僕とサリーちゃんの出会いも、まア、ある程度までは、必然だったわけかィ。運命……と呼ぶのは、さすがに、きれいに言い過ぎ、だろうけどナ)
「――」
……しかしながら、だ。
問題は、ここから先である。
大きな壁がある。立ちはだかっている。
現在も、紗良葉の意識が、ネット空間のどこかをさまよっているのだとすれば。
柔曽が、ぼやく。
「どうやって探し出すか、だよなア……」
コーヒーをすすってから、ため息をつく。
ほぼ無限大とも言うべき、広大な電子・電脳空間から、紗良葉を見つけ出すのは、まず不可能に近い。
かつてゲーマーだった頃のように、ヘッドマウントディスプレイ等を用いて、柔曽自身がサイバー空間へ入り、紗良葉を捜索する方法もあり得る。
しかし、気が遠くなる話だ。一個のゲームですら、全部を回り切るのに数年は掛かる。
また、柔曽は普通の人間であり、当然、行かれるネット空間は、範囲が限られている。
「……となれば、こっちから呼び寄せるか? その方が現実的かな。でも、どうやって?」
まさか、バカ正直に、「ゼルボク王国最後の姫を探してます」などと、ネット上に広告を出すわけにもいかない。これは極秘事項なのだ。
(一番いいのは、紗良葉さんと僕しか知らない情報を、暗号みたいに流すことなんだろォけどよ……)
とはいえ、そんなものがあるとは思えない。
三十年前、ゲームの中で、「ゾッド」こと柔曽と、「サリー」こと推定・紗良葉は、一応、同じパーティーではあったが、ことさら、仲が良かったわけでもないのだ。二人だけの特別な思い出など、ない。
(仮に、あったとしても、そいつをインターネットに書き込んだところで、紗良葉さんが気づくとも思えんしなァ。膨大な情報に、埋もれて終わりだワな)
「くそッ!」
消失したはずの紗良葉の意識が、実は、まだ残っているかもしれない。
紗良葉が、生きているかもしれない。
せっかく、思いがけない希望が出てきたのに。
何一つ、なす術も無いというのか。
コーヒーを飲み干した柔曽は、とりあえずマグカップを片付けに、台所へ向かう。
「どうすっかなア。何か、手は……。やっぱり無理か?」
途中、リビングを通り抜けるために、部屋の明かりをつけた時だった。
「んッ? いや? 待てよ……」
――ふと、柔曽に、一つの考えが浮かんだ。
視線の先には、愛用のキーボードがあった。白い鍵盤が、照明に光っている。黒の鍵盤は、その輝きを、ガッチリと挟み込んで支えていた。




