025 ゾッドとサリー
サリーの服装も、柔曽に似て、かぶと無しの、よろい姿であった。
女の子向けで、肩や背中の素肌が露出している。すき通りそうな白い肌。瞳は青い。顔つきには、あどけなさも残るが、美人である。
よろいから、サリーの脚の方へ、ひだのような防具が垂れている。草摺と呼ばれる物だが、走る馬の風圧で、スカート状にパタパタとめくれている。
中に履いている青いボトムスがチラチラ見えて、柔曽は横目でドギマギしてしまう。
「見せパン」だから気にしてないよ、とはサリー本人の弁。だが、そうもいかないのが男心というもの。何せ、この時の柔曽はまだ、二十歳そこそこの青年なのだ。
目をそらした柔曽は、馬にむちを当てつつ、左のサリーに話しかける。
「生き残ったのは、僕ら二人だけかィ?」
右後ろも、一応、軽く振り返るが、他に騎馬は見当たらぬ。
サリーはうなずき、
「そうみたい。みんな、今のドラゴンにやられちゃった感じかな」
五秒ちょっと、互いに沈黙。二頭の馬の、足音が響く。
みんな、このゲーム内で知り合った、気のいい奴らだった。もう、会えない。しんみりしてしまう。
このオンラインゲームは、最初の入り口がランダムなのである。しかも、ストーリーが長く、多岐にわたり、仲間集めも、パーティー結成も、容易ではない。
すなわち、一度ゲームオーバーして関係が切れ、現実世界へ帰ってしまえば、同じゲームで再会することは、極めて難しいのだ。寂しい。
柔曽が、
「まあ、僕もヤバかったしなア。……まったく、サリーちゃんの魔法は大したもんだよォ。光の矢、スゲエよな」
サリーは、左腕に提げた弓をちらと見て、
「ありがと。苦労したからね、この魔法を修得するまでは、私も――っ!」
サリーの言葉が、途切れた。
「ぐワあッ!」
と、柔曽も悲鳴。
――不意に、前方から、強風が吹き始め、二人の行く手を阻んだのだ。
ただの風ではない。柔曽とサリーの前進を、壁のように、完全に止めてしまった。両者がまたがった馬も、どちらも静止画になってしまい、ぴくりとも動かなくなる。
ゲーマーの柔曽には、何が起きたのか、即座に理解できた。恐らく、隣のサリーにも。
(くそーッ! 時間切れかよ!)
まさに、ゲーム自体の、タイムオーバーであった。
(確かに、ドラゴンを倒すのに、ちょっと時間食ったかもなア)
もはや、これでは、どうしようもない。この風によって、すぐに、強制退場・ゲームオーバーとなる。
柔曽は、向かい風の息苦しさに耐えながら、左を見て、声を振り絞る。
「ざっ、残念ながら、ここまでだな。せっかくだから、お互い、記念に本名を教え合わないか? 僕は、ハンドルネームは『ゾッド』だけど、本名は、柔曽っていうんだ」
ビュービューと強風が吹き荒れる中、サリーがこちらを振り向いた。
サリーも、静止した馬にしがみついて、何とか、飛ばされないように耐えている。
豊かな金髪が、ばらけて、サリーの口もとに掛かる。片手で、髪をはらいのけながら、目を閉じたままで、
「えっ、きみ、ジューゾって名前なの? じゃあ、も、もしかして、お母さんはカヲルコって名前だったりする?」
と、サリーが、ひどく驚いた様子で聞いてくる。
――直後、二人は同時に、後方へ吹き飛ばされた。
残念ながら、ゲームオーバーだ。
柔曽とサリーはバラバラに別れて、その後、二度と会うことはなかったのだが――
……
「はッ!」
ここで、柔曽は目を覚ました。
眠っていたベッドで、ガバッと上体を起こす。
「――」
荒い鼻息に、自分の汗の臭いが混ざる。
スキンヘッドの後ろを、片手で撫でると、やはり汗ばんでいた。
いつもの自宅。
紗良葉の手術を終えてから、数日後だ。
部屋も、窓の外も暗い。まだ、明け方にもなっていないのか。
「何だ、ゆっ、夢か……」
――そう、今までの、馬で荒野を駆けたり、ドラゴンと戦ったりした場面は、全て、夢であった。
だが、衝撃の余り、柔曽は呆然とする。
なぜなら、ただの夢ではないからだ。
今見た夢は、昔、オンラインゲームで実際に体験した内容、そのままであった。
遠い記憶が、よみがえったわけである。
「そうだ、思い出した。はっきりしたぞ……。やっぱり、僕は、若い頃、紗良葉さんに会ったことがあるんだ! 場所は、ゲームの中……」




