024 馬上嬢 VS 巨大竜
まさに、ロックオンされた柔曽。
「クうッ」
大ピンチ。こんな至近距離で火を吐かれたら、おしまいである。
ヒヒィーンッ!
またがっているペガサスも、怯えて、滞空したまま、動きが固くなる。
無理もあるまい。相手は、体が何倍も大きなドラゴンなのだ。その気になれば、ドラゴンの片側の翼一枚だけで、簡単にペガサスを叩き落とせるはずだ。
グワッと、ドラゴンが口をあける。鋭い歯が並ぶ。歯、一本だけで、一メートルはあろう。
のどの奥が発光する。大き過ぎて、吸い込まれそうだ。
(うわ、やべー)
よけ切れない。
(……ゲームオーバーだな。裏技もないし。僕も、ここまでか)
柔曽は、覚悟を決めかけた。
――ヒュン、ブスッ。
だが、不意に。
下から、棒のような細い光が飛来して、ドラゴンの顎に突き刺さる。
ガァッ?
困惑し、うるさそうに首を振るドラゴン。
それは、光の矢であった。
「何ィ?」
下を見ると、遠くに地面。
坂道――ではない。滞空している自分が傾いているので、大地が斜めに見えるのだ。
馬上から、弓を構える者がいた。つがえた矢だけが、光り輝いている。パーティー仲間だ。女の子。
その少女は、走る馬から、次の矢を撃ちかけてきた。光の矢、二発目。
ヒュン。またも、ドラゴンの口もとに刺さる。
ギャウ! グアッ!
痛がって、ドラゴンが身をよじる。
ドラゴンの巨体からすれば、こんな矢ごとき、縫い針くらいの小ささだ。
しかし、ただの矢ではない。魔法で、高温の熱線を矢状に固めた物なのだ。殺傷能力は高い。
「おお、サリーちゃん、いまぞ!」
笑った柔曽が、叫んで、
「ハイやっ!」
むちをペガサスに当てて、高度を上げさせる。
左右、ぶ厚い羽をうねらせ、波打たせて、柔曽が乗ったペガサスは、ドラゴンの背後へ回り込む。光る羽毛が、白く、周囲へ舞い散った。
柔曽が、剣を振りかざす。
「食らえッ! くたばりやがれ!」
パーティー仲間「サリー」の援護射撃によって、数秒の隙が出来た。
そこを突いて、ドラゴンの首後ろへ、力いっぱい切りつける。
グファア! ムガッ、ギャウォーグッ!
最初は低音、やがて高音の、けたたましい絶叫。
それと共に、ドラゴンが攻撃をやめる。……いや、飛ぶのもやめる。
――空気が抜けた、バルーンのように。
糸が切れた、操り人形のように。
金色の巨体は、だらしなく、無残に揺れて、縮んで、フニャフニャと落下してゆく。翼も、首も、ペローンと丸まっている。
地面に激突した瞬間、お菓子のビスケットか、ガレットみたいな脆さで、ドラゴンは粉々になってしまった。
「ィよォし!」
剣を腰に収めてから、空中で、柔曽はガッツポーズ。
このゲーム世界では、ドラゴンは首の真後ろが弱点なのである。
「お疲れさん。じゃあ、ゆっくり下りようぜ」
またがったペガサスに話しかけ、たてがみを撫でてやると、羽ばたく速度が遅くなる。
バサバサッ、バサッ、バサッ、バサッ……バサッ……
徐々に、ペガサスは高度を下げ、荒野へ着地した。
「ッとォ!」
鞍を通して、尻に衝撃。
再び、馬体は、四つ足で大地を駆ける。
と同時に、背中に生えた羽根が、ブルンと引っ込む。ノーマルな馬へ戻ったのだ。
視界の左右を、まばらに生えた枯れ木が、後ろへ飛び去ってゆく。
顔面にぶつかる風圧が、耳元で、うなっている。
そこへ――。
ド、ド、ド、ド、ド、
背後から、蹄の音が追いついてくる。
左へ振り向けば、さっき、強敵ドラゴンに弓矢を射ってくれた少女だ。
高い声で、少女が叫ぶ。
「――お見事、ゾッド!」
この「ゾッド」は、ゲーム内での柔曽のハンドルネームである。
柔曽も、叫び返す。
「何言ってんだ! サリーちゃんの援護のおかげだぜィ! ありがとよ」
柔曽が前へ向き直るのと、ほぼ同時に、サリーが追いついて、横に並んだ。白い右肩が見える。
並走する騎馬。
サリーの長い金髪が、風になびいている。




