022 死化粧
しかしながら、このあと、具体的なビジョンがあるわけではない。
残酷で冷厳な事実だが、何をしたところで、二度と、紗良葉が目覚めることはないのだ。肉体と意識は、明確に切り離されているからである。
紗良葉の意識を移し替えたサーバーは、海底に沈んだ。浸水したサーバーは、即、故障したはずである。
まして、それから四十五年も過ぎ去っている。もはや、取り戻す方法はない。
だから、今回の手術は、言わば、紗良葉の「死化粧」と言っても良かった。
つまり、現時点での、持てる技術を全て用いて、せめて、紗良葉の肉体だけでもきれいにしようというわけである。
それが、柔曽の決意であった。
ミイラ化した部分は切除し、サイボーグに置き換えた。ついでというわけでもないが、サイボーグの左手、左脚で、少しだけ、衣服の脱ぎ着も出来るようにした。
大もとの病気、子宮・心筋難結についても、今回の大手術の一環として、しっかり治療を行い、完治させた。
もっとも、ミイラ化の影響か、こちらの病気は既に勢いを失っており、症状はかなり治まっていたけれど。
柔曽は、腕組みをして考え込む。
(あとは……風呂をどうするか、かな。ずっと寝かせたきりで、ほったらかしってのも、気の毒だしなあ。全自動の機械浴を導入して、定期的に、体を洗うようにすればいいかな。まア、それぐらいは、してあげられそうだよなァ)
それと――。
(散髪の問題もありそうだワな。今後、金髪が伸びてきたら、切るか、放置するか、検討しなきゃな。そうだそうだ、あと、爪切りもあるか)
もっとも、そこから先は、もう、特に展望はない。
五十年前に、カヲルコが紗良葉に施したコールドスリープは、既に、ほぼ効力を失っている。点滴などで栄養だけ与え続けても、いずれは衰弱していくに違いない。
(頃合いを見て、生命維持の装置を徐々に取り外して、自然な形で死なせるのがいいのかもな。まあ、具体的なことは、今後、追々考えていくとしても……)
いずれにせよ、生まれてこの方、ずっと柔曽を縛り付けてきた呪縛から、解放されたと言うことは出来る。
人生の宿題が、ようやく片付いた気分であった。
(僕も、もう五十歳だ。そろそろ、老後の準備を始めてもいいやな。もともと、ここ数年は半分引退状態だったわけだし、これからは、のんびり暮らすとするかア)
たとえ「抜け殻」だとしても、お姫様と二人きりで生活する日々である。悪くはないかもしれない。
静かな日だまりで、目を閉じた無言の紗良葉に、一人で語りかけている柔曽――。そんな自分の姿を思い浮かべて、柔曽は軽く、ほほえんだ。
もうじき、季節も冬になる。




