016 蓼ノ磐島
その直後、
ザウッ!
落ちる機体は、青い海面に叩きつけられた。
海は、ある程度の規則性で、段々の形に波立っていた。
しかし、
ドボン!
機体が飛び込んだ所だけ歪んで、穿たれ、縦長の穴があく。
巨大な波紋が、しわしわに水面を拡げて、周囲へ伝播する。白い、塩の泡も広げつつ、
バシャアァーッ!
ゴゴゴゴゴゴ……
激しい水しぶき。狭い艦内が揺れる。
「ウオっ」
うめく柔曽。
しかし、コックピットの座席は厳重にガードされており、衝撃は吸収された。
現代は、このような「飛行・潜水両用艇」が広く普及しており、事故も減ってきている。
両用艇が、海中へ深く、潜ってゆく。
柔曽が座る、一人乗りの席。
真っ正面に、パノラマビューの広い窓。
窓越しの視界を埋め尽くす、無数の泡。それらが晴れて、消えてくると、薄暗い海中の景色が広がり出す。
「――」
魚群、海藻、横切る流木やプラスチック片――。海中としては、ごく平凡な眺めである。殺風景だ。
小型潜水艦は、徐々に深く潜りながら、投光器で、前方と下方を照らす。同時に、探知ソナーで周辺を探る。
AIのアナウンス。
「まもなく、水深二百メートル。まもなく、水深二百メートル」
答えは分かり切っている気もしたが、一応……
「――どうでェ、何か、人工的な痕跡とか、郡星研究所の名残とか、かけらとか、観測できそうかイ?」
柔曽の質問に、AIは即答する。
「残念ながら、観測はされませんね。この海域に蓼ノ磐島が沈んでから、既に四十五年が経過しています。当時の人工的な痕跡を、当機で発見するのは困難です。もし、様々な角度から、大規模な調査を実施したなら、あるいは可能かもしれませんが」
「やっぱりそうかア……。だろうなァ」
柔曽はため息をついた。
2011年3月11日に発生した、東日本大震災。
この巨大地震により、海底地殻変動が起きて、福島県沖にあった小島、「蓼ノ磐島」は、沈んでしまった。
幸い、住人や滞在者は避難できたが、この島でほぼ唯一の施設だった「郡星研究所」は、跡形もなく海底へ消えた。
さほど広い建物ではなかったが、こまごました研究を行う科学者にとっては、自由で使い勝手の良い、知る人ぞ知る研究拠点であった。
柔曽も、科学者だ。存在だけは知っていた。言わば、海に沈んだ伝説の研究所として。絵本になったり、映画の元ネタに使われたりもしているのだ。
そして――電子化された紗良葉の「意識」は、この研究所のサーバーに保存されていた……。
(もしかして、何か手がかりはねエかと思って、居ても立ってもいられずに、来ちまったが、まあ、あるわけないよなア)
紗良葉の肉体は、一部ミイラ化。意識は、海に沈んで消失。これで、いかにして復活させればいいと言うのか。どうしようもない。
状況は、絶望的と言うほかなかった。




