011 対面・あり得ない回想場面
強化ガラスか、あるいはプラスチックであろうか。
透明な素材を通して、中に寝ている人間の、顔を見下ろす。
あどけなさの残る、少女であった。
鼻から下は、あごまで、透明なマスクが装着されていた。呼吸を補助する酸素マスクであろう。
ただ、マスク越しでも、顔のつくりは、はっきりと見えた。
少女は眠っており、両目は閉じているけれど、
(なーるほどなァ。この顔つき。整い方が、普通じゃないや。きれい過ぎる。確かに、お姫様だナ)
混じりけのない金髪、真っ白な肌、小さな頭、通った鼻、形の良い唇。
目、鼻、口、それぞれの距離。ひたいの狭さ。
何世代にも渡って、美貌を持った遺伝子を、一族へと取り込んできた――嫌な言い方かもしれないが、これが、柔曽の抱いた第一印象であった。
かつて、ヨーロッパに存在した小国、ゼルボク王国。
その末裔、最後の王女。
日本名、紗良葉。本名の現地語の発音を、なるべく忠実に、漢字で当てた名前だという。
この姫は、国際的な行事へ出席したこともなく、公の場へもほとんど出ていない。よって、事実上、無名と言ってよい。
顔写真の類いも、残されていない。
そのため、眼前のこの「眠る少女」が、果たして本物の「ゼルボクの姫」なのか否かを、実は、柔曽には確かめる術がない。少なくとも、現時点では。
けれど、目を閉じた顔を見ただけで、ただ者じゃないことは、容易に悟ったのだった。
(美貌だけじゃア、ねェやな。気品というのかなァ。僕ら庶民には、手が届かネエような……)
などということを、考えているところへ……
(!)
突然だった。
全く別の場面が、柔曽の頭の中に、割り込んできたのである。
――
荒野のような、広い屋外。背景には、とがった山脈。空は薄暗い。全体的に、灰色だ。
強風がビュービュー吹き荒れる中で、目を閉じ、乱れる金髪を手で押さえつつ、この少女が尋ねてくる。
「えっ、きみ、ジューゾって名前なの? じゃあ、も、もしかして、お母さんはカヲルコって名前だったりする?」
……
我に返り、柔曽はギョッとする。
再び、手術室で、冬眠カプセルを見下ろしている。
「! ……っ! なんでえ、今のは?」
あり得ないことだ。
この少女は、柔曽が生まれる前に、冬眠カプセルに入れられている。その後、写真・似顔絵などは全く見ていない。
まさに初対面であり、たった今、顔を知ったばかりなのだ。
なのに、今、イナズマみたいに浮かんだ場面。
急に、ここだけを思い出したわけだが、しかし、この前後の記憶はない。
(どういうことだ? 以前、僕は、この少女に会ったことがあるのか……? だが、それはあり得ない。ならば、誰か別の人と間違えているのか?)
考えても、分からない。
「とっ、とにかくッ」
柔曽は、動揺をやわらげるため、深呼吸をする。
「カプセルをあけるのが、先だワなァ」
その手順についても、既に、母・カヲルコから教わっている。暗証番号を入力してから、横のレバーを引けばいいはずだ。




