010 体温21度
銀のコンテナ付近に置かれた、生体情報モニターをのぞき込み、
「体温が二十一度、心拍数は毎分二十八回、か……。信じられンな。よく、これで生きてるもんだ。安定もしてるようだし……」
柔曽がつぶやく。
余りにも低すぎる数値だが、死には至っていない。とりあえず、「冬眠」は成功したと見てよいのだろうか。
いずれにせよ――。
「さて、次だ、次」
中にいる人間の、当面の安全は確保した。お次は、この大きな箱そのものを、あけなければならない。
こちらについても、もちろん、母から情報は引き継いでいる。そのメモを取り出し、横目で確かめながら、柔曽は作業を進める。
(まず、さっきの赤・青ボタンを、同時押し、交互押し、長押しを三回ずつ)
すると、コンテナの一角が小さく割れて、パネルが出現した。
(よし、想定どおりだ。次に、パネルに僕の指紋を認証させ、このパスワードを入力して、ええと、もう一度、指紋を読み込ませる。で、次に――)
長い手続きを済ませると、ようやく、外側の箱が、除かれ始める。
グッウィーンッッ、ドッ、ドッ、ガッガッガッガッ。
パキッ、パキッ、バキバキ。
金属の板がずれて、たたまれる音。及び、電子音。
広い手術室の床に、振動が伝わる。
大規模な仕掛けが、起動しているのだ。
頑丈な金属の箱が、まるで段ボールのような手軽さで、いとも簡単に片付けられてゆく。
フタは、四方へ分かれて引っ込み、同時に、箱の四面の「壁」も、じゃばら状にパタパタと折りたたまれていくではないか。
(へえー、かなり規則的に、整然と開くんだナ。よく出来てるワ)
柔曽は、感心して眺める。
巨大な銀色の直方体は、外側へめくれて、周囲の邪魔にならない形で、手術室の床の方へまとめられた。
「――」
――さあ、そこでだ。
中から、ひと回り小さな直方体――ただし、上にかぶさる半透明のハッチは丸みを帯び、中央が高めだ――が出現した。
いわゆる「冬眠カプセル」である。
それを見た柔曽は、
「こいつかァ……」
無意識に、唇から声が発せられた。
棺桶の外側を、機械部品で装飾したようなイメージ。
ノズルや配線、パイプ、外部タンク、アンテナ、排気口、あるいは、エンジンカバーに似た、出っぱり。
イメージ的には、映画に出てくる一人乗り小型宇宙船に、見えなくもない。
五十年という歳月のためだろう、全体的に、ボディーのツヤは失われ、すすけて見える。
(どえらい物を作ったモンだなア、母ちゃんも)
しばし呆然としてしまった柔曽だったが、
「おや?」
あることに気づく。
よく見れば、半透明のフタの、上の方だけが、三十センチほど、透明だったのだ。中が見える。
(もしや、顔の部分だけ透明になってる、とか?)
まさに、そのとおりであった。
カプセルへ歩み寄ると、中に横たわる人物の、顔をはっきり見ることができた。




