九 公爵家の夜会で 四
ブラッド公爵家の嫡男、サディル様は以前お会いした時よりも光り輝いており誰もが称賛の眼差しで見つめそして無意識に一歩後ろへと下がる。
「公子!」
「リーナ!?」
馴れ馴れしく公子様へと手を伸ばしたリーナにクルト様は一瞬遅れを取ってしまう。
リーナは公子様へ近付くとさも特別な間柄かの様に公子の腕に触れる。公子様はリーナを拒否する事もなく周りを見渡すと同時に一人の護衛と先生が現れた。
「ウィル、ザーラは?」
「直ぐにこの場へ来るように伝えてあります」
「レイモンド、この場を収めろ」
「はい」
公子は二人に声を掛けるとリーナの手を振り払うと私の姿を見て近くまで来ると
「せっかくのドレスが台無しになりましたね・・」
「・・お目汚しして申し訳ありません・・」
「いや、そう言う意味では」
私は汚れたドレスが今の私の様で恥ずかしくなり、顔を上げることが出来ないままその場に立ち尽くす。
「サディル様、支度が整いました」
「そうか、ではザーラ後をたのむ」
ザーラさんは公子様に頭を下げると私の元へ来ると、さぁこちらへ と言って先導する。
私はそのまま馬車乗り場へ連れて行かれるのだと思い公子様へ謝罪の意味も込め深く頭を下げると、ザーラさんと共にその場から離れた。
長い廊下を進むが一向に外へ出る気配がなく、私は恐る恐るザーラさんへ声をかけた。
「あのザーラさん、馬車乗り場へはあとどのくらい・・」
「馬車乗り場?フローラ様には今から新しいドレスへとお着替えをしていただきます。さぁこちらです」
そう言って通された部屋は私の部屋の二倍はあるのでは?と思う程の広さの部屋だった。
すでに五名の侍女が控えていて何が始まるの?とその場で足が止まってしまった。
「フローラ様、こちらへお越しくださいませ」
「えと・・何が始まるのでしょうか・・」
私が扉の前から動かないからか?ザーラさんに手を引かれるように部屋の奥にあるお風呂場へと連れて行かれる。すると後ろから三名の侍女も付いてきて
「時間がありません!急いでお願いします!」
ザーラさんは三人の侍女にそう言い残すとその場から立ち去って行った。
私は恐る恐る振り返ると嬉しそうに微笑む侍女たちに着ていたドレスを脱がされると、湯船の中へ押し込まれた。
「私、あんなに広いお風呂は初めてです・・」
湯船から上がると待ち構えていたのは全身のマッサージ。
それがあまりにも気持ち良くて短い時間だったけれど眠ってしまっていた様だった。
目覚めると五名の侍女たちの手により完璧なヘアメイクを施されており、トルソーに飾られたドレスへ袖を通し完了した。
が?
「まあまあ恐ろしくサディル様の色のドレスですねぇ〜〜〜」
「えと・・私には大人っぽいと言いますか・・」
公子様の瞳の色と同じ赤のベルベット生地に、金色と緑の糸で施された刺繍の素晴らしさに息を飲んでしまう。
私は鏡の前で全身を見ているとザーラさんが宝石箱を持って現れる。覗いてみればヒュッ!!と一瞬息を吸い込む程の宝石が付いたネックレスとイヤリングのセットだった。
「こちらのドレスに合う物をお持ち致しました」
「いえいえいえ、ダメですこんな高価な物を私のような者に付けては!!」
そう全力で拒否していてもザーラさんの耳には届いていないのか、他のメイドさんが持ってきた椅子へ腰掛けるよう促される。
すでにザーラさんの手には宝石箱から出されたネックレスが
「早くしないとサディル様がこちらの部屋に押し掛けて来ますよ?」
「ゔっ・・」
そう言われてしまうと言う事を聞くしかない。その前に公子様がこの部屋まで足を運ぶのか?と疑問に思いながらも私はザーラさんにされるがまま、ただ大人しくしていた。
「お嬢様!とてもお似合いにです!!」
「本当に、こちらのドレスもですが宝石もまたお嬢様に良くお似合いですわ!」
手伝ってくれた侍女たちが代わる代わる褒めてくる。それもそうだろう、これだけの生地と宝石。公爵家の侍女たちの腕にかかれば平凡中の平凡の私でも変身する。
私はザーラさんをはじめ、侍女たちにもお礼を言いながら頭を下げる。
するとザーラさんに
「フローラ様頭をお上げください。貴女様はかんたんに頭を下げて良い方では有りませんので」
そう言いながら私の腕をさする。
頭を上げれば他の方たちも同じように頷いている。
「私はただの子爵令嬢です・・そのように言って頂くほどの身分ではありません」
「今はまだ・・でございますよ」
また意味深な言い方をされる。
先生もそうだけど、公爵家の方たちまで何故私にここまでしてくれるのか・・
嬉しいけど怖くなってしまう。そう一人考えていると
コンコンッ!!
扉をノックする音が聞こえる。扉の前に控えていた侍女が扉を開けると同時にひょこっと顔を出したのはザーラさんの双子のお兄さんのウィルさんだった。
ザーラさんは慌てて私を隠すと
「ウィル、サディル様にご準備が整ったと報告して来て!サディル様より先にフローラ様のお姿を見たと知られたらあなた、間違いなく領地の警備隊に飛ばされるわよ!」
「えっ!!それは困る!」
ザーラさんの言葉に慌てたウィルさんは走って部屋から出て行った。
私は二人のやり取りに思わず笑いが溢れてしまい、しばらくの間止まることが無かった。




