八 公爵家の夜会で 三
入場を終えると主催が現れるまでの間は食事を楽しんだり、知り合いと談笑する時間となる。
私は先生に連れられて色々な方たちと交流を深める事となる。私にとっては初めましての方たちばかりなのに、相手の方から出る言葉は皆
「ああこの方が例の・・」
とか
「お話を聞いていて一度お会いしたかった」
とか言われた。
私は先生から
「例の薬の研究に手を貸してくれた方たちだよ」
と聞かされていたからお礼を伝えていたが、皆の反応が何か違っていて気になった。
ある程度の方との挨拶が終わると、先生は私を連れて料理が並ぶテーブルへと誘ってくれた。
見れば見慣れない料理も並んでいて
「今日の主役が留学帰りって聞いたでしょ?ここに並ぶ料理はその留学先の郷土料理なんだって」
「だから見た事のない料理が並んでいたんですね!」
我が国の料理は食材を焼くか、焼いたものにソースをかけるが殆どだがテーブルに並べられた料理は食材を煮込んであったり、絡めてあったりと見た目はあまり食欲をそそる感じがしない。
けれど少し気になり・・
「こちらの料理は気になりますが・・ソースでドレスが汚れそうですね」
と、率直な意見を述べた。
「なるほど!だから料理が減っていないんだね!味は確かなのに減っていないから不思議だったけど・・フローラの言う通り、このまま食べたらソースが垂れそうだね」
先生は料理が減っていない事が気になったが、そんな理由があったとは気付かなかった!とお礼を言われた。
その後ドレスが汚れない料理を選ぶとソファーへと移動する。コルセットのせいでたくさん食べられないのが残念だったが、それでも選んだ料理は全部美味しくて満足出来た。
料理を食べ終わると知り合いに呼ばれた先生は
「フローラ、ここで少し待っていて」
と言い残し奥へと消えて行った。
私は久しぶりの夜会と、人の多さに少し疲れてしまいソファーにもたれかかった。すると目の前に見覚えのあるドレスの裾が目に入り顔を上げるとリーナが立っていた。
「お義姉さま、オードレ様は?」
「先生はお知り合いの方に呼ばれ奥へ下がったわ。それよりリーナ、クルト様は?」
私がクルト様の名を呼べば更に不機嫌そうな顔になる。私は理由が分からずリーナの言葉を待つと
「クルト様はお父様たちと一緒にサマーン伯爵の元へ行ったわ。お父様はクルト様が私の側から離れない事で周りから・・」
「嫌味を言われたのね」
私の言葉にリーナの顔が更に歪む。
それはそうだ、姉の婚約者が妹の側から離れずしかもエスコートまでしている。婚約者が入れ替わった話も無いのに姉は他の男性にエスコートされていれば噂の的になるくらい簡単に想像出来たはずだ。
「それで?なぜリーナがそこまで不機嫌になっているの?」
私は思った事をそのまま言葉にすれば、リーナは眉間にシワを寄せた。まるで私が悪いと言わんばかりに・・そして
「お義姉さまに魅力が無いからクルト様が私を選んだだけで、どうして私が悪いと言われなければいけないの?」
震える声で言ってきた。
「お義姉さまがクルト様のお相手をなさらないから、私が代わって相手をしただけなのに・・」
もしそうだとしても二人で出掛けていれば嫌でも目に付く。どうしてリーナはそれに気付かないのか?
「例えそうだとしても姉の婚約者と二人で出掛ける事は、噂の元になると気付かなかったの?私は何度も注意したわよね?二人で外へ出掛けてはダメよ!と。誰が見ているか分からないからと・・」
私はこれ以上リーナと二人で話すのは無理だと思いソファーから立ち上がる。本当はもう少し休んで居たかったが仕方ない。
リーナはまだ話は終わっていない!と叫んでいたがこれ以上一緒にいたらダメだと思いその場から離れた。
ちょうどその時主役である公子が入場したのだろう。前の方が賑やかになり自然と人々の目線が前に集中した時に突然
「ごめんなさいお義姉様!!ワザとでは無いのです!お許しください!!」
リーナの叫びに近い声が響いた。
私は訳が分からず振り返るとリーナが震えるように涙を溜めながら震えていた。
そしてその声に反応した周りが一斉にこちらを見てざわつき始めた。周りは私とリーナを見ながら何かを囁いている。
そして自分の足元を見た瞬間血の気が引いた・・リーナが私のドレスにワインをかけたのだ。そしてリーナの様子を見て気付いた、私を会場から追い出す為にワザと私のドレスにワインをかけたのだと・・
「リーナどうしたんだ?!」
リーナの叫びに気付いたクルト様が駆け付けて来てリーナの方を抱く。そして私のドレスを見て怪訝な顔をする。
誰が見てもリーナに非があると思うのに何故かクルト様から出た言葉は
「見苦しい姿をいつまで晒すつもりだ。早くこの場から去れ!」
だった・・
常識的に考えたら婚約者である私を庇うはずの人が、その妹を愛おしげに庇いながら婚約者を疎ましげに見ている。
なぜクルト様はそこまで私を嫌うのだろう・・
私は悔しさと恥ずかしさでその場から離れようと一歩を踏み出した時
「そこで何を騒いでいるんだ?」
人の波が引くように現れたのは今夜の主役であり、主催者の嫡子サンディ・ブラッド様だった。




