30 その後の二人 キャロルとセリル 二
どのくらい時間が過ぎただろう。
きっと時間にしたら数十秒だと思う。でも勇気を振り絞って言った返事はその何倍もの時間に感じた。
「頭を上げてください。私何とも思っていませんから」
「でも!」
「確かにキツイ言葉を投げられたと思います。それだけ一生懸命だったからだと今ならそう思えます」
キーナの言葉にゆっくりと頭を上げる。そこには確かに怒っている様子もないキーナの顔があった。
「キャロルさんは私にすごい事をしたと思っていますが、正直に言えば今のレナさんやザーラさんの方がよっぽどかキツイ事を言ってきますよ」
少し呆れた顔で言ってくる。
私の中のレナさんは若奥様の事しか眼中になく、ザーラさんはサディル様専属侍女だから忙しく動き回っている印象しか無い。
「ザーラさんが今度ケルド卿と結婚するので、私に仕事を押しつけ・・教育してくれているんです。知ってますか?ザーラさん、本気で怖いです」
まぁ若奥様専属でザーラさんの後釜に入るのですから仕方ないのですが・・と、どんどん声が小さくなる。
「とにかく私怒っていませんし恨んでもいません!」
「・・・本当に?」
キーナは思いきり頷いた。
「ありが・・とう・・」
「さぁ、子供たちに早く若奥様からのお菓子を配っちゃいましょう!!」
キーナはそう言うと私の腕を掴み真っ直ぐ食堂へと向かった。
その横顔はとても嬉しそうに笑っていた。
「さぁセリル、そこに腰掛けてくれる?」
「・・ですが・・」
「今ここには貴女を咎める者はいないし、私がすすめているのだから安心して」
若奥様の言葉に反論する事も出来ず大人しくソファーへと腰を下ろした。
私は目の前に座るこの方を亡き者にしようとした。その事実は決して消す事は出来ない。
何を言われてもひたすら謝るしかない!そう思って全身に力を入れた。
「ここでの生活は心の安らぎになったかしら」
「はい!申し訳ありま・・え?」
てっきり咎められると思っていたから、こんなに優しい言葉を正直驚いてしまった。
でも若奥様は真剣に、優しい眼差しで私を見ている。
私は頷きながら
「はい、お嬢様と一緒にいられて本当に感謝しています。本来であれば処刑されても文句は言えないのに」
「そうね、周りにそんな事を言う者もいたわ。でもね、キャロルが貴女を抱きしめながら謝るの。それこそ床に頭を擦り付けて」
私は初めて聞く話に驚きを隠しきれない。
お嬢様が私のために?
「この子も私の両親に利用されていただけで、本当は優しい子だから許して欲しい。私を理由に脅されていたのだと・・」
「・・・そんな・・」
まさかそんな・・お嬢様にバレていたの?
私はお嬢様に知られたくなくて一生懸命に隠していたつもりだったのに・・
「ねぇ、本当のことを教えて。貴女は誰にどんな指示をされたの?」
「!」
若奥様の言葉に私は身を硬くした。
この事は誰にも知られてはいけないと、痛みで教えられた記憶が蘇る。
全身から汗が吹き出ているのがわかった。
「レナ、セリルにハンカチを渡してあげて。セリル・・貴女の今の状態を見ればとても言いにくい事だと思う。でも、このままだと私だけではなく貴女も、キャロルの命も危険だわ」
「・・お嬢様の命も・・?」
私は侍女さんからハンカチを受け取ったが、とても汗を拭く余裕など無かった。
若奥様の言葉が気になり更に汗が吹き出てしまう。
「でも約束したんです!お嬢様には手を出さない!と・・だから安全な公爵邸に!」
公爵邸に?
今は・・公爵領にある教会だ・・そんなまさか・・
「確かに貴方へ直接指示していたフォンド夫妻とその弟たちは捕らえました。でもその上は?サンが言うにはブラッド一族の者だけで起こせる事では無いと」
若奥様は真剣な目で私に訴えかけてくる。
私はもともと孤児だ。物心がついた頃には公爵領の孤児院にいたけど、公爵家家門の事は知らない。
「ブラッド一族には濃さはあるけれど 血 の誓約があると言っていたわ。公爵家に逆らうような事をフォンド一族だけで出来る事では無いと・・」
「・・話したら・・」
「うん」
「守ってくれますか?」
私は若奥様の顔を見た。
助けて欲しい
私の命はどうなっても良い・・
お嬢様の命は助けて欲しい。だってあの屋敷でお嬢様だけが私を気にかけてくれた。
お嬢様だけが私に優しくしてくれた・・
お嬢様を守るために、アイツらの命令に従った・・
お嬢様には手を出さないと約束したのに・・
「私はどうなっても構いません!!お嬢様を、キャロル様を助けてください!その為なら協力します!話します!だからお願い・・お嬢様を・・」
私はソファーから床に座ると頭を下げた。
それこそ床に頭を擦り付けて・・そんな私に若奥様は優しく触れながら
「守ります。二人の命を守るためにここへ来たの。教えて欲しい、貴女とキャロルの命を脅かす本当の敵の正体を」
「フローラ様、大丈夫ですか?」
「・・正直、大丈夫では無いかな・・でも約束したもの。二人の命を助けると」
私は帰りの馬車の中でセリルから聞いた話にずっと気分が悪くなっている。
「この事サンには・・」
「ファウナを通して聞いておられたと思います。ですから今日はこのままお部屋へ参りましょう」
レナがそう言うと窓の外から一匹のコウモリが入ってきて、私の肩へと止まると心配そうに顔を私の首筋に擦り付けてきた。
「ファウナ・・大丈夫よ。心配かけてごめんね」
もともとはサンの使い魔だったけれど、この子もまた私の血を吸った事で私の眷属となった可愛い子。
サンの魔力と私の力を持つ不思議なコウモリだ。
「次は王都ね・・久しぶりにお父様に会えるわね」
嬉しいわ・・
そう言葉にしたのを最後に、私はファウナの力によって馬車の中で眠ってしまった。
次で終わるのか?
今月中に終わる予定でしたが・・




