29 その後の二人 キャロルとセリル 一
「お嬢様、それは私が」
「セリル、私はもうお嬢様では無いわ。貴女と同じ修道女よ?名前で呼んでちょうだい」
私の言葉にセリルは思いきり頭を振った。そんな彼女の態度を笑いながら子供たちの洗濯物を干していく。
あの日、私とセリルは殺されてもおかしく無い状況だった。それはそうだ、公子の番であるフローラ様を殺そうとしたのだから。
子供の頃から繰り返し言われ続けた番の存在。でも誰も番に会ったこともない為、軽く見ていた。
まさかあれ程の執着を見せられるとは・・
「早くここを終わらせないとまた怒られますよ?シスターに」
私の言葉に慌てて手を動かし始めたセリルに思いきり笑った。
セリルは私の両親にその力を利用されていた。そのおかげで男爵から伯爵へ叙爵され、ますます利用されていった。
そんなセリルに私はマナーを教えるように言われていた。マナー教育は始めたからと言って簡単に身につくものではなく、それこそ毎日毎日コツコツと同じ事を繰り返す事で身につくのだ。
「キャロル様、なぜ私はこんな事を覚えなければならないのですか?今のままキャロル様付きのメイドではダメなのですか?」
あまりに厳しくて泣きながら訴えてくる事もあった。
それでも両親に言われるがままセリルにマナーを教えていった。私は私の専属にするためある程度のマナーを教えるのだと思っていた。のだが、両親の考えは違った。
まさか私と入れ替えセリルを公子の婚約者にしようと企んでいたとは・・
そんな両親の心を知ったのは、サディル様の婚約者を決めるお茶会が開かれると知った時だった。
私はお父様の執務室に来るように言われ、キャロルを伴い訪れた。その時耳を疑う事を言われたのだ。
「今日この時より二人を入れ替える」
と。一瞬何を言われたのか分からなかった。
だって普通で考えたら実の親が言う言葉では無いと思ったから・・
「何をおっしゃられたのでしょうか?」
「聞こえなかったか?今日から私達の娘はセリルだ。セリルがキャロルでキャロルがセリルだ。合ってるよな?」
そう言いながら隣で笑っているお母様に聞く。お母様は大きく頷きながら
「我がフォンド家が男爵から伯爵になったのは他でも無いセリルのおかげよ。セリルの力があればサディル様の、次期公爵夫人も夢では無いわ!!」
「・・では、私は・・」
「そんなの決まっているでしょ?貴女は今日からセリルとなり、サディル様の婚約者となったこの子の専属侍女になれるよう、公爵家へ入ってもらうわ!侍女見習いとしてね」
まるで当然と言わんばかりに言われてしまい、その日からセリルがキャロルでセリルが私になった。
一緒にいるとセリルが反発するのを知っていた両親は、私を人質にしてこの子を脅していたのだろう。
言う事を聞かないと公爵家で働いている私の存在を消す。とでも言われていたのだろう。
気付けば顔を合わせても笑わなくなったセリル。
いや、作り笑いしかしなくなったのだ。
「お嬢様これで最後です!最近は朝晩が冷えるのでそろそろ毛布が必要でしょうか?」
「そうね、こう毎日オネショをされては大変だものね」
私がそう言うと昔見せた、セリル本来の笑顔を見せた。
「お姉ちゃん!シスターが呼んでるよー」
最後の洗濯物を干し片付けていると、孤児の一人である女の子が私たちを呼びに来た。
この子は最近入った子で、公爵家の林の中を一人彷徨っていた所を保護されたのだ。
私とセリルは呼びに来た子と一緒にシスターの元へと向かった。
「シスター、お呼びでしょうか」
ノックの後声をかけると、中からどうぞと返事がくる。私とセリルは失礼しますと言いながら扉を開けると、そこには若奥様がシスターと共に話していた。
私は慌てて礼を取ると
「今日は寄付の品を持って来たのよ」
と言って中に入るよう言葉をかけられた。
私とセリルは若奥様の向かいに座るよう言われ腰を下ろした。
この方がいなければ今頃セリルはこの世にはいなかっただろう。
この方が皆に頭を下げ、私と共にいられるよう説得してくれたからこそ今こうしてセリルと一緒に過ごす事ができているのだから。
「ここでの生活には慣れましたか?」
「はい、若奥様のおかげで今は大変な中でも充実した毎日を送っております」
そう答えると 良かったわ と言葉を返してくれた。私は何やら視線を感じると思いフローラ様の後ろに目を移すと、少し離れた所で私を見ていたキーナと目が合った。
「ああ今日はキーナを連れて来たの。余計なお世話かな?と思ったけど貴女たちは同じ時期に公爵家に入った仲だと聞いたから」
「お心使い感謝します、若奥様」
キーナはそう言って頭を下げた。
私はキーナにも酷い事をした、出来るなら謝りたい。そんな気持ちが顔に出ていたのか、若奥様から
「キーナ、私はキャロル・・セリルと少し話がしたいわ」
「かしこまりました。ではキャロルさん私を食堂に案内していただけますか?奥様から子供たちにお菓子のプレゼントがあるので」
「え?ええ、こちらへ」
突然の言葉に一瞬頭が働かなかったが直ぐに理解してキーナを食堂へと案内した。
もちろん私たち二人ではなく、少し離れた距離を保ちながら騎士が歩いてくる。
何から話せば良いのか迷っていると
「お元気でしたか?」
と、キーナの方から声をかけてきてくれた。
「ええ、先ほども若奥様へ伝えたけれどとても充実した日々を過ごしているわ。・・キーナは?」
「そうですね・・レナさんやザーラさんなとても厳しいですが私を教育してくれているのもわかりますし、若奥様は優しいので充実しております」
そう、良かった。と小さな声で答えた。
私が公爵邸で働いていた時のキーナは自信がなく、いつもオドオドしていた。
そんな彼女を見るとなぜか男爵家で過ごしていた自分と重なってしまい、当たっていた。
「どうしたので・・ちょ!何してるのですか?!」
「貴女に謝りたくて」
独りよがりと言われても良い。
今、この機会を逃したらきっと謝れない。だから
「私、公爵邸で働いていた時に貴女に酷い事を言ったわ。ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「・・・」
キーナは何も言わずただ黙っていた・・




