20 婚約式 七
〜 フローラ目線 〜
どのくらい時間が過ぎたのだろう・・私はセリルに痛ぶられ女神像に縛られていた。
縛り終わるとセリルは私の首筋にナイフで傷を付ける。そこから皮膚に伝わって流れる血は冷えた身体にはとても温かく感じた。
「貴女の血が全て流れるのが早いか、公子が貴女を見つけるのが早いか見ものね」
「・・その前に、貴女が捕まるわ・・」
バシッ!と左頬に痛みが走ると同時に髪を鷲掴みにされ顔を上げられる。
「私には力があるの。公子並みにね!だから遠くから貴女の様子を見てあげるわ。生きて公子に会える事を願っているわ」
そう言い終わるとセリルはその場から立ち去って行った。
セリルの後に数人の男たちも一緒に・・
「本当に、生きてサン会いたいな」
心配してるよね・・
ポタリポタリと流れ落ちる血に、薄いピンクのドレスが赤く染まっていく。
でもまだ大丈夫。
サンに会うまでは頑張るし、きっと見つけてくれる!
「サン・・お願い、私を見つけて・・」
どれくらい時間が過ぎたのかな?
少し・・かなり寒いかな・・
「ふろーらサマ、ふろーらサマ!メをアケテ!!」
誰かが私の名を呼んでいる。
もう目を開ける力も残って無いのかな・・
「ふろーらサマ!!」
「・・だあれ?私の名を呼ぶのは・・ねえ、私のお願い聞いてくれる?」
「ふろーらサマ!!」
「サンに伝えて欲しいの。愛してるって。貴方とずっと一緒にいたかったって・・」
顔の前でバタバタと羽音が聞こえるが目を開ける力がもう無い・・
サン、サン・・会いたい・・
その時私の首筋にチクッと痛みが走ったが、それももう感覚が無くなっている・・
私の意識が切れる瞬間、目の前が明るくなったような気がした・・・
〜 サン目線 〜
フローラを探している時、領内の端の方が急に明るくなった。
と言うよりも
「爆発?」
屋敷にいるほとんどの者たちが窓へと集まった。
「サン!あの光は!」
「ああ、ファウナだと思う・・が、ファウナの光では無い」
それでも急に眷属であるコウモリのファウナの気配がした。しかも私に知らせるように、我が身を犠牲にした光・・
「ウィル行くぞ!!」
「サン待て!!俺には無理だ!!」
私はウィルの言葉を無視し窓から飛び降りると本来の姿へと変身し、ファウナの元へ飛び立った。
〜 レナとキーナ目線 〜
「あの光は・・」
「レナ様あれは・・」
おそらくサディル様のファウナだろう。
そして思い切り飛び立って行ったサディル様の様子を見て、フローラ様を見つけたのだと思う。
ならば私がする事は一つ
「キーナ、この者を奥様の元へ。私はフローラ様の部屋へ戻ります。キーナも直ぐに戻っておいで」
「はい!!」
フローラ様の服に手をかけようとしていたセリルを捕らえたキーナは、私の元へとやって来た所だった。
ローウッド辺境伯領へ送ったはずの彼女がなぜ公爵邸に?と思ったが、この先のことは奥様に任せよう。
私はサディル様に言われた言葉を思い出しながら、フローラ様が安心して休める場を整える。
「無事のお戻りをお待ちしています」
そう言葉を口にしながら急いでフローラ様の部屋へと向かった。
「それにしても貴女は上手く取り入ったわね。次期公爵夫人の専属?」
「私は私に出来ることをしたまでです。貴女のように誰かの言いなりになど」
「本気でそう思う?私が誰かの言いなりになって情報を漏らしたと?」
「・・違うの?」
両手を後ろで縛られたセリルは足を止めると静かに振り返った。
「ねぇ、もし私が本当のフォンド伯令嬢だとしたら・・貴女はどうする?」
「何をバカな事を・・」
そう口から出した言葉だが、彼女の目が冗談を言っている様には思えないほど真剣だった。
彼女は まぁどっちにしても私は終わりね。 と言って廊下を歩き始めた。
「ねぇ、本当なの?本当にフォンド家の令嬢なの?」
「・・貴女には関係ない事よ。知らない方が良かった・・って事もあるでしょ?」
全ては奥様にお話しするわ
それ以降、彼女は一言も話さなかった。
まるで初めからこうなる様に仕向けていたかのように、静かに廊下を進んで行った。
〜 公爵夫人目線 〜
サディルからフローラさんが何者かに連れ去られたと報告を受けてから屋敷の中も騒がしくなった。
夫はあれから護衛を連れ屋敷から出て行ったまま戻って来ない。
「奥様、キーナが例の者を連れて来ました」
「通してちょうだい」
レナからの先ぶれで誰がくるのかは分かっていた。ミィナとキーナに連れて来られた侍女は見覚えのない女だった。
侍女としての彼女だけれど・・
「それで、こちらの温情でローウッド家に送られたはずの貴女がなぜこの屋敷にいるのかしら?元フォンド男爵令嬢?だったかしら?」
「「 !! 」」
私とミィナ様は驚きのあまり目を合わせた。
セリルは特に驚いた様子も見せず笑っている。
「さすがは奥様ですね。いつから?とは聞きません、おそらくあの夜会の時には気付いておられたのではありませんか?」
「そうね。わたくしが知っていたフォンド家のキャロル嬢はおとなしい子だったと思ったし、貴族令嬢にしてはマナーがなってないあの娘は別人だと感じていたのよ」
「・・・」
「何か、訳がお有りの様ね。聞かせていただけるのかしら?」
セリル(キャロル嬢)は一つ頷くとゆっくり話し始めた。
その場に私がいても良かったのか分からなかったけれど奥様もミィナ様もなにも言わなかったし、私自身がセリルの話が気になって部屋から出ることが出来なかった。




