19 婚約式 六
少し戻って・・
私はあの時、見た事のある男性に後ろから羽交い締めにされ意識を失った。
そして今、目隠しをされた状態で何か乗り物に乗せられている。
おそらくは荷馬車・・しかも平民の方たちが乗るような質素で簡素な馬車だ。
なぜそう思うのかと言えば
ガタン!
「痛い!」
乗り心地が悪いからだ。
そして私がこうして声を出したのに返事が無いところを見ると私一人で乗せられているのだろう。
「目隠しだけなら良かったけど、手足も縛られたのでは逃げられないわね。それにしてももう少し優しく移動して欲しいわ」
なんて文句も言えるほどに余裕がある。
もうどれくらい乗っているのだろう・・きっと屋敷の皆んな、特にレナはすごく心配しているのだろうな・・こんな事ならレナの言うことを聞いてれば良かった。
「サン・・」
そう一言、サンの名前を口にしたとき馬車は停まった。
人が乗り込む気配がしたと思ったら急に体を持ち上げられ、キャア!!と声が出てしまう。
男の肩に担がれるように運ばれているせいか、お腹は痛いわ頭に血が上るせいか気持ち悪くなるし、声を出したくても男が乱暴に歩くせいで舌を噛みそうになる。
どのくらい歩いたのか?また意識がなくなりそう・・と感じたとき、急に下に降ろされた。と同時に目隠しが外されたが急に日の光が入り目を開けられない。
少しずつ目を開けながら周りを見渡せば、そこは見たことがある場所だった。
「ここは・・教会?ブラッド領内にある」
「良くわかったわね。ああそうか、サディル様と婚約式をする場所だから来た事あるのか」
聞き覚えのある声がし、思わず声の方を向くとそこには庭まで案内したキャロルご椅子に座っていた。
キャロルは私の方は見ず、ただ女神像を眺めている。
「ここはブラッド領内にある格式高い教会よ。公爵家や侯爵家のみが結婚式を挙げられる。私たちからしたら夢の場所・・」
教会なんてどこも同じでしょ?と思いながら周りを見渡せば、確かに!と感じさせられる程の厳かな雰囲気だった。
窓にはめ込まれたステンドグラスはきっと、日の光に当てられたらきらきら輝いて美しいのだろう。
実際サンと訪れた時は日が傾き始めた頃だったけど、とても綺麗だった・・
「でも残念ね、貴女はここでは挙げられない」
「そうね。式は王都と聞いているわ」
ブラッド公爵家の当主と嫡男の結婚式は王都にある、王家の教会でと決まっているのだと聞かされた。その代わりこちらの教会で婚約式を挙げるのだとか。
「あははは!残念だけど貴女はどちらも挙げられないわ!だって貴女はここで死ぬんですもの」
そう口から言っているのに目は女神像から離れないキャロルに汗が出てくる。
「だってここでサディル様と婚約式をするのは貴女ではなく、キャロル様なの。ふふ、何を言ってるかわからない?」
私は頷く。
だって目の前にいるのは正真正銘キャロルなのだから・・
キャロルはゆっくり私の方を見ると静かに語り出した。
「私はキャロル様に拾われた孤児よ。教会に保護された時ちょうど慰問に来ていた当時の男爵夫人とキャロル様に目を掛けて頂いたの」
当時の事を思い出したのだろうか、とても優しい目をしている。
「私はね、孤児だけど力はあったの。魔力って言うのかしら、でもそのせいで捨てられたのよね。貴族なら魔力制御を教えてもらえるけど私は平民。泣くたびに家を焼いていたと当時のシスターから聞かされていたわ」
「・・・」
「当時の男爵夫人はそんな私の力に目を付けたの。だって平民には不要な力でも貴族は違うのでしょう?特にブラッド公爵領では」
「貴女の本当の名前は・・?本当のご令嬢はどうしたの?」
まさかと思う。そうで無ければ良いと・・
でももし当時の令嬢に魔力が無ければ?あっても弱かったら?
貴族の、低い爵位の家柄なら一つでも爵位を上げたいと願うはず・・
「本当のご令嬢は貴女も知っていますよ。だって貴女の近くで支えていたんですもの」
キャロルはそう言い終わるとまた高笑いをした。
本当の令嬢と入れ替わり、自分こそがファンド家の令嬢となりその力によって男爵家から伯爵家にまで上り詰めたのだから。
「ああ今はローウッド辺境伯家に送られてましたね。・・ここまで言えばお分かりでしょう?」
「・・・セリル・・が?」
「正解!彼女も可哀想よね?私なんかがフォンド家に入ったから、侍女に落とされてしまったの!あの親は毒よ。実の子と孤児をすり替えたのだもの。当時の使用人を全て解雇して、私を実子として魔力鑑定したのよ?子供の頃はほとんど魔力が無かった娘が突然高位貴族並みの魔力になった。笑えるわよ?当時の大人たちの態度が」
キャロルのサンに対する態度も公爵夫人に対しての態度も納得した。
元が平民ならばいくら教育を受けたとしても素が出てしまう。
貴族ならば物心が付く前から教育が始まるから、まず自分より上位の者に声は掛けないし触れるような事は絶対にしない。
「まぁ元令嬢も私に仕えるくらいなら、次期公爵夫人の方が良いと思ったのね。いつの間にか公爵家の侍女になっていたから驚いたわ」
「・・・」
「そうそう、私の本当の名前はセリルよ。まぁ聞いたところで意味も無いですけど・・」
「私をどうするの?」
この女が何を考えているのかが分からない今、下手に怒らせるような事は言えない。
でも自分がどうなるかは知りたい。
そんな私の言葉にキャロル・・セリルは意味深な笑顔を私に向けながらこう言った。
「はじめは娼館にでも売り飛ばそうかと思ったんだけど、彼の方が足が付くからダメだと言ったの」
「彼の方?」
「ふふ、内緒。でね、じゃあどうしよう?ってなった時思い付いたの!」
「・・・」
セリルの歪んだ笑顔が恐ろしい・・
そう思った時に発せられた言葉に私は息をするのも忘れてしまった。
「貴女にはここで死んでもらって、この女神像に縛り付けようと思うの!ふふ、皆んなの驚く顔が楽しみだわ〜」




