16 婚約式 三
「フローラ様、今よろしいでしょうか?」
「ええ大丈夫よ」
サンから貰ったショールを肩に掛けながら、明後日の婚約式の手順を目に通していた時レナから声をかけられた。
レナに声をかけられて入って来たのは衣装係の長とキーナだった。
最近キーナの姿を見かけていないと思ったらどうやら衣装部屋に篭って、衣装係の人たちとドレスを作っていたらしい。
「こちらのドレスを一度お召しになっていただきたく・・サイズ等の最終確認を・・」
衣装係の長が声をかけてくるとトルソーに掛けられたドレスが運ばれてきた。
「素敵なドレスね」
「サディル様がデザインされたとお聞きしております。何でも思い出のあるドレスだと」
レナがニコニコしながら私をドレスまで誘導する。
「とても綺麗なドレスね」
白のシルクで作られたマーメイド型のドレスに、白のオーガンジーで作られたリボンやレースが付いていた。
サンがデザインしたのならきっと私も知っているデザインなのだろう。
が、思い出せない。
私は三人に促されながら隣の部屋へ移動した。
試着したドレスはとても質の良いものだとわかった。上質なシルクだけあって着心地が滑らかで気持ちよい。
おそらく我が家がこのドレス一着を買うとなれば、一年分の領費を注ぎ込まなくてはならないだろう。
そう思うと袖を通すのも恐ろしい。
それに・・この上質なドレスを身に纏うには私は何と貧相なことか。
それなのに・・
「まぁ流石サディル様ですわ!フローラ様に良くお似合いのデザインですわ」
とか
「はい!デザイン画を見た瞬間、フローラ様にしかお似合いにならないと思いました!」
とか
「こちらの生地が入った瞬間に主人様のフローラ様への愛の深さを感じました!!」
などなど、私の側で話している侍女たちに私はどんな顔をしたら良いのわからず、顔を伏せるしか無かった。
「でも、サンにしては胸元が・・その、開き過ぎるような気が・・」
今までのドレスが胸元を隠す形のドレスばかりだったため、なんか心元ない・・
実はサンはこのような大胆なドレスが好みだったのか・・!とか考えてしまう。
「キーナ、アレを持ってきて」
「レナさん、こちらですね」
レナに声を掛けられたキーナが持ってきた物。それはサンから贈られたショールだった。
キーナからショールを受け取ったレナは私の肩に掛けると、前の合わせたところに真珠で作られたブローチを付けた。
「こちらのショールはドレスにも合うように作られているのですよ。ほら、とても素敵です」
「・・・ええ本当に。私が着ても良いのかしら・・」
鏡越しに皆を見れば全員が頷いていた。
私はサンの気持ちに応えられるのだろうか・・
いや、応えたい!と思った。
私は改めて皆にお礼を言うとトルソーに掛けられたドレスを渡した。明後日の婚約式まで手直しをします!と言い残しキーナと衣装長が部屋から下がって行った。
「夕食までお時間がありますがお茶でもお淹れ致しましょうか?」
「少し庭でも歩いて来ようかしら?レナは少し休んでいて、ずっと私に付いていては休憩も取れないでしょ?」
「ですが」
「すぐ下の庭だから一人で大丈夫よ」
私が一人で行く事に難色を示したレナは少し考えた後
「ではキーナを呼びますのでお待ちください」
そう言い残し部屋から下がっていった。
少しすると扉がノックされキーナが来たと思い声を掛けた。
すると入って来たのはキーナでは無く
「フローラ様、キャロルにございます」
「え?キャロル!?」
キャロルだった。
失礼致します。と言いながら中へ入って来たキャロルは態度こそ侍女だか、私を見る目は変わっていなかった。
正直このキャロルは少し苦手な令嬢だ。サンの事もあるけれどそれだけでは無い。あの顔合わせの会での私を見るキャロルの目が、決して私のことを受け入れられない!と言わんばかりの目だったから・・
そしてその目はいまだに変わっていなかった。
確かに公爵家の嫡男であるサンと、子爵家の私では釣り合いも取れないだろう。
それでも私はサンに見染められ、公爵家からも認められたのだ。
「レナからはキーナが来ると言われたのですが」
私の問いに少し間があったが
「あの子は今、ドレスの調整で手が離せないので」
そう言われてしまうとそれ以上の事は聞けないので仕方なく私はキャロルに頼む事にした。
「夕食までの少しの間、すぐ下の庭に行きたいの」
「・・かしこまりました。準備致します」
「お願いします」
キャロルは隣の部屋からガウンと帽子を取ってくると私に掛けると
「さあ参りましょう」
キャロルの言葉に私は庭園へと足を進めた。
庭園はとても手入れが行き届いており秋の花々が咲き乱れていた。
この時期に咲く花は香りが弱いが色目は落ち着いており、寂しくはあるが私は好きな季節だ。
「フローラ様、こちらにも珍しい花々が咲いておりますよ」
そう言って勧めてきた庭園は公爵夫人専用の庭園だった。
さすがに夫人の許可を得ていない場所に足を踏み入れるわけにはいかず、私は頭を横に振る。
「さすがにこの先は行けないわ。ここは公爵家の奥様専用の庭園だと聞いたわ」
「フローラ様は次期公爵夫人になられるお方なので、大丈夫ですわ」
顔の表情なく言うキャロルに不信感を持つ。
「では聞きます。貴女が公爵夫人から許可を得たのかしら?」
「・・・」
「得て無いのね。だったら行けないわ」
私はそう言い残すと体の向きを変えた。
その瞬間、突然後ろから羽交い締めにされた私はそのまま夫人専用の庭園へと引き摺り込まれた。
「誰なの!?手を離して!」
「それは無理なお願いですわ、レビィ子爵令嬢。貴女にはこのまま公爵夫人の庭園で死んでもらうのですから」
羽交い締めにされた私の目の前で無表情のまま言い放ったキャロルに冷や汗が止まらない。
そして無表情のまま笑顔を見せているキャロルの手にはナイフが握りしめられていた。
「貴女が存在しなければサディル様の、次期公爵夫人の座は私のものになるの。何の力も持たない貴女が、ただ番ってだけで当たり前のように彼の方の寵愛を受けるなんて許せない」
そう言いながら振り上げられた手が、私に向かって思い切り下がってきた・・




