15 婚約式 二 サン目線
フローラとの婚約式まであと二日。
この形だけの婚約式が終われば後は王都で結婚式を挙げるだけ。
長かった・・フローラと結婚するまでに時間がかかり過ぎてしまったのは、レビィ子爵がフローラに婚約者を当てがった事が一番の原因だろう。
「サン、大丈夫か?もう限界が近いのだろう?フローラに頼んで」
「それはダメだと言っている。本来なら婚約式で祝福を贈るべきなのに私の勝手な想いで彼女を苦しめたんだ」
「だがそんな姿を彼女に見せるのか?俺の薬でも効かなくなっているじゃ無いか」
レイモンドが俺が横になっている反対のソファーに腰掛けながら怒っている。
それもそのはず、私は今フローラの血が欲しくてたまらないのだ。ただでさえフローラがまとう甘い香りが私の理性を崩壊させる。
フローラの香りは私からしたら毒の様な物だな。
愛しくて彼女の全てが欲しい。
彼女の願いなら何でも叶えてあげたい。
彼女のためならこの命など簡単に捧げられる。
これほどの気持ちをどう説明したらわかってもらえるのだろうか・・
「フローラはどうだ?こちらで楽しく過ごせているのか?」
「サンのおかげで呪いの症状もなく、毎日を楽しく過ごせているよ」
それなら良かった。
彼女には公爵領へ来た夜、直接私の血をほんの少し与えた。
本来ならお互いの血を交換する事で呪いが祝福となり、フローラも私たち同様命の時間が延びる。
「まだ私は大丈夫だ」
「だがもし・・いや、その時は私たちが全力でサンを守るよ」
私が眠るのを確かめたレイモンドは静かに部屋から出て行った。
ここまで待ったんだ、後一年くらいあっという間だ。
ただ・・この結婚を良く思わない者たちがいる事はわかっている。
王家も手を尽くしていると父からも話があったが、捉えた者は全て何処にも属さない流れの傭兵や家族を人質にされた没落寸前の貴族たちで、ほとんどの者が調べが始まる前に自死していた。
そう、元フォンド伯の様に・・
おそらく奴らの狙いは間違いなくフローラだろう。
我が一門には力で勝てないがフローラは違う。何の力も持たない、でも私の唯一である彼女を亡き者にするのは簡単だ。
「やはり狙ってくるなら婚約式当日だろうな・・」
私は起き上がるとウィルを呼ぼうとした時タイミング良くウィルとザーラが部屋へ入って来た。
ザーラには先ほどフローラへプレゼントを届けるよう命じた。
手には何も持っていなかったから渡せたのだろう。
「フローラは受け取ってくれたかい」
「はい、サディル様にお会い出来なくて寂しそうでしたが、お渡ししたショールをとても喜ばれておりました」
その言葉を聞いて嬉しくなった。
フローラに渡したショールは防火の糸が使われており、何かあれば火から身を守る事ができる。
「そうか、レナに常にショールを身に付けるよう伝えてくれ。狙われるなら間違いなくフローラだからな」
「サン、本当にレイに伝えなくて良いのか?」
ウィルが不安そうに聞いてくる。私はその問いに黙って頷くとウィルへと顔を向けた。
ウィルとレイモンドの家は昔からブラッド家に仕える筆頭家門。そしてフィンとレイモンドもまた同等の家門。
今までは常に行動と情報を共有していたからか、ウィルは不安気に聞いてくる。
「レイモンドには別に頼みたい事がある。レイモンドは頭脳派だからな、今回はフローラに付いていてもらいたい」
「ウィル、サディル様との距離を忘れないで。レイは戦闘向きで無い事は貴方が一番分かっているでしょう?だからこそのローウッドなのだから」
「はは、ウィルよりもザーラのが良くわかっているな。レナが引退したらフローラを頼む」
「レナさんは当分の間引退などしませんよ。それに私には別の役割がありますでしょ?」
ザーラがそう言えばウィルと私は笑う。
そう、ザーラにはレナとは別の役割を与えてい
る。そしてその役割をちゃんと理解している。
「サディル様の演技で周りの者も騙されております。このままいけば奴らも動き出すでしょう」
「・・・」
「ウィル?」
ザーラの言葉にウィルが黙り込む。
ウィルが抱えている不安も私は理解しているが今回ばかりは私のやり方を通すつもりだ。
「ウィルには辛い思いをさせるが許して欲しい。だがどうしても、フローラを守るためにはこの方法しか無いんだ・・」
「・・・」
「理解してくれ」
「・・もちろんです。何よりもフローラ様の命を守る事がブラッド家の最優先と理解しております」
ウィルは私の護衛らしく頭を下げる。
正直私も信じられないがフォンド元伯爵を操り、下級家門を誘導しようとしている奴を誘き出さなければならない。
「さぁ婚約式の最後の準備を始めようか。家門を守るため、フローラを守るために」
「「 はい 」」
レイモンドもフィルも信用している。
が、ウィルとザーラほど私に忠誠を誓ってはいない。
だからこそ今回で終わらせなければならない。
フローラとの未来のために・・
私はフローラからの手紙を胸のポケットに仕舞うとソファーから立ち上がり、ウィルと共に部屋から出た。




