14 婚約式 一
婚約式に向けての準備が着々と進む中、私は特にする事もなく(婚約式で身につける衣装のサイズを計っただけ)、一人バルコニーでお茶を飲んでいた。
レナにはお茶を用意してもらったあと休憩に入ってもらったため、今私の側には誰も着いてはいなかった。
日が当たっている間は心地良かったが日が影ると少し肌寒く感じた私は、部屋へショールを取りに行こうと席を立った。
その時下の方から人の話し声が聞こえた私は反射的に身を屈め盗み聞きをしてしまった。
なぜそんな行動を取ってしまったのか、それは聞いた事がある声だったから。
「レイ待ってくれ!!」
「何だフィンだったのか。どうした?そんなに慌てて」
先生とフィンさんだった。
フィンさんは先生を捕まえると周りを気にしているのか?頭を左右に振ると人の気配が無い事を確認した。
「どうしたも何も最近のサディル様の様子だが、少し変では無いか?仕事はこなされているが気付くとソファーで休まれている」
「・・あと三日で婚約式だから多少は無理をされているかもな」
「そんな感じでは無かったぞ!昨夜は倒れ込むようにソファーで眠ってしまわれたし、顔色だって悪いじゃ無いか!君はサディル様の専属医師なのだろう?」
ここ最近忙しいからと言ってサンと一緒に食事を取っていなかった。
寂しく無いと言えばウソになるが、公爵家の仕事に加え婚約式の準備もあって大変なのだろう。とそのままにしてしまった。
私も手伝える事は無いか?と聞いたが、ブラッド家の婚約式と結婚式は他の貴族と違って特別な儀式になるからと、奥様をはじめ公爵家の皆さんで準備を進めている。
「サンの原因はわかっている」
「だったら直ぐにでも」「サンが!拒否しているんだ」
なぜ?
と、フィンさんと私の声が重なり私は慌てて口に手を当てた。
「サンの症状を改善するにはフローラが必要になるんだ。だからサンは拒否している」
「・・フローラ様にお願いする訳には・・」
先生は頭を横に振る。
「自分のわがままでフローラを十年も苦しめたから、これぐらいの事は何でも無いと・・」
「・・その、フローラ様が必要とは・・」
フィンさんの問いかけに私も耳を会話に集中する。私でサンが楽になるのならいくらでも協力したい!私を苦しめたから?
「そんなの今更よ」
そのおかげでクルト様はリィナへ目がいき、私は結婚せずにいられたのだから。
私が更に身を乗り出して二人の会話を聞こうとした時
「フローラ様はそこで何をされているのですか?」
「ざ、ザーラ?!」
突然後ろから声をかけられて振り向いたら、ザーラが手に箱のような物を持って立っていた。
私は下の二人にバレたのでは?と思い覗き込むと・・
「あれ?いない・・」
「?どなたか下にいらしたのですか?」
二人の姿は無くなっていた。
「それよりもフローラ様、お洋服が汚れてしまっております。こちらへ来てお召し替えいたしましょう」
これくらい大丈夫!と言いたかったけれど、公爵家でお世話になっている以上は従わなくてはならない。
ザーラに促されながら私は部屋へと戻った。
<アブなかったたな>
<おマエがザーラさまをヨびにイかなかったら主のヒミツがバレるところだった>
<レイモンドとフィンはおシオキが必要だな>
何処からかキーキー何か動物の鳴き声が聞こえてくる。それが何の動物かは分からないけれど、公爵領に来てからは良く耳に入る。
そして不思議な事にレナやザーラに聞こうと思うと忘れてしまう・・
「いったい何の鳴き声なのかしら・・」
着替え終わりソファーへと腰を下ろした私の目の前にザーラが箱を持ってきた。
私が首を傾けると
「最近フローラ様を一人にしてしまっているお詫びと、サディル様よりお預かりして参りました。本当はサディル様ご本人がお渡ししたかった様ですが」
「サンが?何かしら」
ザーラから受け取り中身を確認すると
「まぁ温かそうなショールね。糸も綺麗」
白いフワフワな生地に虹色の糸で刺繍が施されているショールは王都でも見た事がない物だった。
中には封筒も入っており中身を確認すると、サンの筆跡で [婚約式までに片付けなければならない案件が出来た。フローラとの時間が取れず申し訳ない] と謝罪の言葉が書かれていた。
サンが謝ることなんて何も無いのに・・
私は箱からショールを手に取ると自分の肩にかける。
「こんなにも薄い生地なのに不思議ね、とても温かいわ。サンに直接お礼が言いたいけれど・・無理ね。ザーラからお礼を言っておいてくれる?」
私の問いかけにザーラは申し訳ありませんと頭を下げたのだ。
さっき先生とフィンさんが話していた事も気になるが、サンの事だから時間が出来ればきっと会いに来てくれるだろう。
私はそう思いながらサンからもらったショールを、サンを想いながら抱きしめた。




