11 思いがけない侍女見習い
「フローラ様、セリルに代わり本日からキーナの補助に入りますキャロルです。至らぬ事もありますが遠慮なくご用をお申し付けください」
「・・・」
お昼ご飯を食べたあとテラスで本を読んでいたらザーラが一人の侍女を連れて来た。
キーナと共に私に付いていたセリルはローウッド家へと移動となり、新しく紹介されたのが
「キャロル嬢・・」
だった。
「フローラ様、この者は本日より公爵家の侍女でございます。嬢はいりません、キャロルとお呼びください」
ザーラにそう言われたキャロル嬢は頭を下げたままだ。十日前までは伯爵令嬢としてチヤホヤされていた人が、今は侍女として名を呼び捨てにされバカにしていた子爵令嬢に頭を下げている。
何とも不思議な光景だ。
「わかりました。私もこちらでお世話になるのも残り十日ほどです。それまでの間よろしくお願いしますねキャロル」
「誠心誠意フローラ様へお仕えさせていただきます」
さすがもと伯爵令嬢、お辞儀一つにしても姿が美しいと思えた。
私の後ろに控えているレナのキャロルへの視線が痛いが、私以上に私の頬を打った彼女に怒りが抑えられない様だった。
「ザーラ、普段は私とキーナだけで人手は足りています。五日後の夜会までに使い物になるよう仕込みなさい」
「わかりました、それまでの間私と共にサディル様付きとします」
「え?サンの?」
ザーラの言葉に思わず言葉が出てしまった。キャロルさんはサンの妻になりたくて私へマウントを取ってきた。そんな人をサン付きにするなんて・・
「大丈夫ですよフローラ様。サディル様はフローラ様しか眼中にありません」
「そ、そんな事わからないわ・・」
私の気持ちを察したのかレナが真顔で、しかもキャロルさんに威嚇するように言ってくる。
サンの事は大好きだ。幼い頃からずっと・・サンがプロポーズしてくれたあの日からずっとサンだけを想ってきた。
でもサンは私が番だから好きなのであって、もし番でなかったらきっとここまで私に好意を示さなかったと思う。
「私の姫はいまだに私の気持ちを疑うのだな」
「サン!いつからいたの?」
急に抱きしめられたかと思えば額に軽くキスを落としたサンに、私は取り繕う事も出来ずオロオロしてしまった。
そんな私の態度を見て何がおかしいのかサンは声を出して笑った。
「私に直接仕えるのはザーラだ。彼女はザーラの補佐に回るからフローラが心配するような事は何も起きないよ」
「そう?」
「ああ、私はフローラの元婚約者とは違うからな。信じられないなら信じてもらえるよう努力するだけだが?」
そう言いながらまた額に軽く唇を押し当てる。
サンを信じられない訳じゃない。
私が私を信じられないだけ・・
自分に自信が持てない、が正解かな?
今サンに抱き寄せられていても自信が持てない。
頭のどこかで「サンが私を好きなのは番だから」とすぐに言い訳をしてしまう程に。
私が隣で悶々としていた時サンの方からいつもと違う匂いがした。臭いとかでは無く何というか体臭?
「・・・」
「?サン?どうかした?」
「・・何でもない。疲れが出たのかな・・今日はもう休ませてもらうよ」
「ええ、そうした方が良いわ」
急に私にもたれ掛かってきたサンを見れば血の気が引いた顔色だった。
「サン、本当に大丈夫?」
「心配させてしまったな。一晩眠れば大丈夫だから、フローラまた明日」
そう言って部屋を後にするサンに着いて廊下まで出る。サンの後ろ姿に何故だか不安になったからだ。
ザーラと目が合った瞬間「お任せください」と私の不安を和らげるように耳元に囁いた。
私は言葉にぜず頷く。
サンの後にはウィルさんとザーラ、侍女見習いとなったキャロルさんが付いて行った。
「サンは大丈夫かしら・・」
サンの姿が見えなくなると私は向きを変え部屋の中へと入った。レナはテーブルの上を片付けていて私の声は耳に届いていない様だったから、私は軽くため息を吐くと読みかけの本に目を通した。
夕方近くなりザーラからの伝言が届いた。サンはあの後直ぐにベッドへと入り今は深く眠られているためこのまま寝かせると書いてあった。
ここ暫くの間、睡眠も満足に取れていなかったと聞いていたのでしっかり休んで欲しいと思い返事を出した。
「レナ、サンは良く眠ってるみたいだから夕食は部屋で食べるわ」
私一人の為にわざわざ食堂に用意してもらうのは気が引ける。そのため前もって伝えてもらおうと声をかけたが、食堂での準備が出来ていると言われてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
レナは申し訳ないなどと思わなくても良いと言ってくれたけれど、やはり大きな食堂での準備は私一人と言っても大変だと思う。
「サディル様の代わりにレイモンド様がフローラ様とご一緒されると聞きましたわ」
「先生が?こちらに来ているの?」
久しぶりに先生の名前を聞いたような・・
「はい、サディル様のご様子を見にいらしたと。フローラ様お一人でのお食事になるからとサディル様がレイモンド様にお声をかけられたとお聞きしました」
「そうなのね!先生とゆっくり会えるのも久しぶりだから嬉しいわ」
そう言い終わると食事の準備のため隣の部屋へと移動した。




