10 パーティーで 五
「フォンド伯、貴女の娘は今回のパーティーの主旨を分かっていない様子でしたわ。貴方は娘に何と言って連れて来たのかしら?」
「公爵夫人・・」
言葉を発したのはサンのお母様で公爵夫人だった。
伯爵は気を失ったキャロル嬢を抱き上げながらもサンと公爵夫人に睨まれていて、その場から立つ事も出来ない様子だった。
その姿はまさに蛇に睨まれた蛙の様で少しだけ不憫に思えた。
「貴方の娘は力もあり一時はサディルの婚約者候補ではありましたが、フローラさんが見つかりこの話は全て無くなった筈、ですわよね?」
「・・娘には・・伝えたのですが・・」
「ではやはり我が家門のことを一から勉強なさった方が宜しくて?」
「そ、それだけはお許しください公爵夫人!!まだ娘は幼く」
「ならば尚更必要であろう」
威厳ある声に全員がその声の方を向くと、全員が立ち上がり頭を下げた。
公爵様が姿を現したのだ。
公爵様は私の顔を見るとサンに右手を振った。
「フローラ行こう、あとは父上と母上がこの場を収めてくれるだろう。レナはいるか?」
「はい、こちらに」
「フローラを頼めるか?私もすぐに行く」
「かしこまりました。さぁフローラ様参りましょう」
私は何処からか現れたレナに肩を抱かれながら、その場から離れた。
「フローラ様に対しこんな無礼な事をするなんて、フォンド伯令嬢は死にたいのかしら!?」
私の左頬を冷やしながらレナが怒り心頭で声を上げた。私はそんなレナの言葉に驚き思わずレナの顔を見てしまった。
レナは何でもないように言葉を続ける。
「フローラ様は我が家門にとって、この国にとっての救世主で御座います。ただの子爵令嬢ではありません!それは我が家門であれば幼い頃より教えられる事。それを全く理解出来ていないキャロル様は、いえフォンド伯爵家はきっと厳しく罰せられるでしょう。そうでなければ許せません」
勢いよく言葉を並べたレナに私は黙って聞く事しか出来なかった。
私自身がいまだにそれ程の力を持っているとも思えず、ただサンが好きでサンもまた私を好きで結ばれた縁としか感じていない。
番って何だろう・・
私こそブラッド公爵家の勉強をしなくてはいけないのでは?と考えていた時、扉をノックする音が聞こえた。
扉の前で控えていたキーナが扉を開けると
「フローラ、大丈夫かい?」
現れたのはサンだった。
サンは私のそばへ来ると冷やされた左頬を見ると眉が下がった。そんなサンに気付いたレナは
「明日には元に戻りますのでご安心ください」
レナの言葉に安心したのかホッと息を吐いたのが分かった。叩かれたと言ってもまだ年若い令嬢の力だ、そこまで強くはなかった。
「私は大丈夫よ。それよりもキャロル嬢のが心配だわ。突然倒れてしまって・・」
私はキャロル嬢の事をサンに聞いた。
サンは少し考えたあと私の隣に腰を下ろすと静かに語り始めた。
「フォンド伯爵は今回の責任を取ってもらうことになった。たとえキャロル嬢に力があっても悪い事に使われてる可能性があったから・・」
「それはどんな?」
「キャロル嬢を第二夫人とし力を得ようとした・・。あり得ない事なのにな。何故かフォンド伯爵は可能だと思ったようだ・・」
私は黙ってサンの言葉に耳を傾けた。普通の貴族ならば第二第三夫人を囲っている当主も存在している。もちろんブラッド公爵家ともなればまたそれも可能だろう。
「お義父さまはいらっしゃらないわよね?」
「ああ、父と母は幼馴染だったし何なら父よりも母の方が力は上だ。喧嘩をしたら父の方が負けてしまうよ」
ハハハと笑った。お義父さまとお義母さまが喧嘩なんて想像も出来ないが、長い人生で喧嘩の一つや二つあっても不思議では無い。
「きっと誰かの入れ知恵だと踏んでいるが今はまだ確証が得られない。だから元の男爵へ降爵する事になった。もともとキャロル嬢の力があっての叙爵だったからな」
「ではキャロル嬢は?」
「我が家の侍女教育を受けさせる。もともと我が家の侍女たちは名のある家門の出ばかりだからキャロル嬢もすぐに馴染むだろうと母が言ったんだ。礼儀作法をしっかり学べば嫁ぐ事も可能だからと」
その言葉を聞いて安心した。
爵位は下がったとしても公爵家の侍女となればそれなりの家門へ嫁ぐ事は出来る。
公爵家から一筆あれば尚更だ。
「さすが公爵夫人だわ。私ではその考えに及ばないもの・・」
「フローラも母の元で学べば、母以上の公爵夫人になれるよ」
そう言って私を抱きしめるサンからいつもと違う香りが鼻についた。
それは女性が付ける香りでも、男性が付ける香りでも無い。強いて言えば
「サン、何処か悪いの?」
「何故だい?」
「サンの香りがいつもと違うなと思って・・」
私がサンの胸元に鼻を近づけようとすると慌てたように立ち上がると
「今日は色々あって疲れただろう?今夜はゆっくりお休み。レナ頼んだよ」
そう言い残すと私の部屋から逃げるように立ち去って行った。私はレナの方へ顔を向けると
「さぁ楽なお洋服へお着替え致しましょう」
と、隣の部屋へと連れ込まれてしまった。
結局その日は誰も私を訪ねるてくる事もなく、私は公爵領にきて初めてゆっくりした夜を過ごした。
「サディル様こちらへ」
公爵家別邸の離れには一族の者が入るための地下牢がある。そこは一族の者のため一般的な地下牢とは違いそれなりの設備が整っているため不自由はない。
「サディル様!何故私がこんなところに入れられるのですか?」
私の姿を見つけたフォンド伯、いやフォンド男爵は叫んだ。鉄格子を握り締めながら睨むその顔は、とても主人に向ける目つきではない。
「なぜ?それを私に聞くのですか?ご自身が一番知っている事なのに・・」
私は用意された椅子に腰掛けるとフォンド男爵に見つめた。
ブラッド男爵は私と目が合うと怯え始めると
「ち、違うんです。私は騙されたんです。私は無理だと言ったんです」
目を離さずに更に話しかける。
「誰に言った?いや、言われたのですか」
「そ、それは・・!!!」
フォンド男爵が何かを話そうとした瞬間、口から血を吐き絶命した。
おそらく口を割る瞬間に命を奪われるよう仕掛けられたのだろう。
「ウィル、見たか?」
「いや、もう少しの所で命を取られたからな。だが、おおよその検討は付いた」
「充分だ」
私はそう言い残すとその場から離れた。
男爵が絶命する直前に見えた人影。
おそらく我が家門を良く思わない者たち・・
「久しぶりに本気を出さねばならんかもな」
「楽しそうだな、サン」
ウィルが笑いながら話しかけてくる。
「奪われる訳にはいかないからな」
番の存在は時に私の、一族の弱点となる。だからこそ命を賭けて護らなければならない。
「頼りにしているよ、ウィル」
私の声にウィルは黙って頷いた。




