九 パーティー 四
「子孫を残す事が難しい我が家門ですが番様とは沢山の子宝に恵まれると聞きます。楽しみですわ!!」
「えっ!!」
突然の発言に周りにいた御婦人方は一瞬言葉を失った。当然私も・・だが夫人は何の抵抗もなく話を続ける。
「前の番様も当時では珍しく五人ものお子を授かったと記されております。爵位を継いだ御嫡男には子が授からず、結局は番様がお産みになったお子様が爵位を継いだと」
楽しみですわね、公爵夫人!
とよりによってサンのお母様に言葉を振った。だが公爵夫人はその言葉にも動じず笑顔で
「こればかりは神のみぞ知るところですわ。親としましては子供も大切ですが夫婦が仲良く暮らしていれば幸せというものです」
これ以上の発言は控えなさい。とでも言っているかのように静かにお茶を口に含んだ。
私をはじめ周りにいた人たちも公爵夫人に続くようにお茶を飲み始めた。
そんな時
「公爵夫人にご挨拶申し上げます」
と声をかけてきたレディーがいた。
キャロル・フォンド伯爵令嬢だ。キャロル嬢は数いる御婦人の視線をものともせず話しかけてきた。
「・・ごきげんようフォンド伯爵令嬢。少し見ない間に立派になられて、そろそろご婚約の話が出ても不思議ではありませんね」
公爵夫人がキャロル嬢を見ながら声をかけると、とても嬉しそうな笑顔でお礼を返していた。普通は格上の方から声がかかるまで言葉を発してはならない。ましてやブラッド公爵家家門のトップである公爵夫人に声をかけるなんて、王族でも王様や王妃様だけで王子王女両殿下であっても許されない。
それぐらいブラッド公爵家、公爵夫妻の力は大きい。
それを知らないキャロル嬢ではない筈なのに・・
「あら番様、お姿が見えないと思ったらこちらに・・」
「?」
「ドレスを・・替えられたのですね」
私のドレスが違う事に気付いたキャロル嬢は扇で口元を隠してはいたが目が笑っていなかった。
やはり彼女は今日、私が赤いドレスを着る事を知っていたのね。だから今私が違うドレスを着ている事に不満気な顔をしているのだ。
私は立ち上がるとクルッと一周回ると赤い糸で刺された刺繍を見せつけた。
一見地味に見えるベージュの生地でも色合いの違う赤い糸で刺された刺繍は、とても美しかった。
「素晴らしいドレスですわ」
「ありがとうございます」
「フローラ様とサディル様の色ね」
その言葉に私は微笑む。
そんな私を見てキャロル嬢の眉間のシワはさらに深くなった。
間違いなく彼女は私の場所を奪おうとしているのが分かってしまった以上、私もサンの横を渡す訳にはいかない。
私は精一杯背筋を伸ばしキャロル嬢の前に立つと
「キャロル様のドレスも素敵ですね、公子様の色で・・」
「え、ええ、わたくしは良くこの色の物を身に付けますのよ。ですから今夜の事はどうかお見逃しいただきたく存じますわ」
これからもサンの色を身に纏う・・と言う事で、彼女からの宣戦布告と受け取って良い態度ね。
「もちろんですわ、誰も色の制限は出来ませんから。これからもキャロル様のドレスを楽しみにしておりますわ」
そう、ドレスの色など些細なこと。身に纏いたければ纏えば良い。
ただ私が許せない事、それは
「ですがキャロル嬢には上下の関係を今一度お勉強された方が宜しいかと思いますわ」
「「「 ブッッッ! 」」」
私の発言に吹き出すご婦人方。口には出さないが皆が同じ事を思っていたのだ。
キャロル嬢は顔を真っ赤にしながらワナワナと震えている。
私の言葉の意味を理解してくれたかしら?
そう思っていたとき、パンッッ!と音とともに左頬が熱くなった。キャロル嬢に頬を叩かれたのだ・・
「あ!貴女にそんな事を言われなくてもわかりますわ!それに貴女の言葉を借りれば貴女こそお勉強なさったらどうかしら!」
「何を・・?」
「聞けば子爵令嬢と言うじゃない!貴女の方こそ失礼な態度を取っていると分からないのかしら!?」
一瞬私の周りは静寂に包まれた。
私の言葉に腹を立てたキャロル嬢は自分の感情のままに私に手を挙げた。普通の貴族社会なら確かにし子爵令嬢である私が伯爵令嬢のキャロル嬢へ口答えするのはご法度だ。
しかし今日のこのパーティーの主旨は・・
「君こそ失礼な態度を取っていると気付かないのか?」
「サディル様!!」
一人の男性の声で部屋全体が静まりかえる。ただ一人を除いては・・
サンは静かに私の元へ来るとキャロル嬢に叩かれた左頬に優しく触れた。
「何があったフローラ・・なぜ君の頬が腫れているんだ?」
「これは・・その・・」
見た目では分かりにくいサンの怒りに私だけでなく、周りのご婦人方も扇で口元を隠しながら目を逸らす。
公爵夫人を除いて。
「君が言えないのなら母上に聞こう。母上、何があったのですか?」
「・・・」
公爵夫人はフゥーとため息を吐くと言葉を発しようとした。しかしまたそこで一人の令嬢の声が公爵夫人の言葉を遮るように被せられた。
「それは「サディル様!彼女の態度があまりにも失礼だったので教えて差し上げたのですわ!」
「フローラの態度が?」
キャロル嬢はサンの言葉に自信ありげに頷く。キャロル嬢はサンの静かな怒りに気付いていないようで更に言葉を続ける。
「彼女はわたくしに貴族の上下を勉強しろと言いましたの。子爵令嬢の彼女が伯爵令嬢のわたくしに!です!ですから直々に教えて」
「キャロル!!!」
キャロル嬢の言葉を遮るように叫んだのは彼女の父親であるフォンド伯爵だった。
フォンド伯爵はキャロル嬢の前まで来ると私の左頬が赤く腫れている事に気付く。
「キャロル・・何をしたんだ?」
キャロル嬢は自身の父親が来た事で味方が増えたと思ったのだろう。伯爵の顔色が悪い事にも気付かず更に言葉を続けた。
「お父様!フローラ嬢はわたくしに意見して来たのです!格下である彼女が!です。ですから・・」
その瞬間、私以外の一族全員が一斉に耳を塞ぎ身を屈める。
一瞬何が起こったのかが分からず、私はサンの腕を掴む。キャロル嬢に至ってはその場に倒れ込んでしまっていた。
「サディルお止めなさい。これ以上はフォンド伯爵令嬢が死んでしまうわ」
「!!!」
公爵夫人の言葉に私は驚き更にサンの腕を引っ張った。すると一斉に空気が変わったのか全員が肩で息をし始めた。
私だけが何が起きたのか分からず、ただサンの腕を握る事しか出来なかった。




