八 パーティー 3
準備も整いサンを迎えに行くと部屋の中から話し声が聞こえてきた。盗み聞きをするつもりは無かったが声を掛けるタイミングを見失っているとどうしても中の声が耳に入ってしまう。
「それにしてもフォンド伯は本当に我が家門の者なのか?サンにとって・・家門にとって番の存在がどれ程のものかを知らないはずが無いが・・」
「まぁ実際に番が現れたのも百年以上前の話だからな。お伽話みたいなものだろうな」
「キャロル嬢もレイチェルとシンシア嬢と競い合うだけの力はありましたからね。勘違いする理由も分からなくもないですが・・」
「・・・」
レイチェル様とシンシア様、それにキャロル様。三人がサンと釣り合う家格と魔力を持つ、若く美しい令嬢。
私はただ番というだけの魔力も無く家格も子爵家と低い・・
「フローラ様?」
それでも私を小さな頃から見守ってくれたレナヘ恩返しがしたい。
もしサンに別の愛する人が出来ても、公爵夫人として堂々としていられる物を持ちたい。
「レナ」
「はい」
「私頑張るわ。もしサンに飽きられても堂々としていられる様に」
「・・・はい?」
レナヘ決意表明をした私は扉をノックしようと手を上げた時チャッ!と扉が開いた。
「サン!」
「フローラ迎えに行くと言ったと思うが?」
扉をノックしようと腕を上げたままの姿で声を掛けたが、サンはその手を握ると軽く手の甲にキスを落とした。
「先ほどのドレスも良かったが今度のドレスは大人っぽく、これはこれで良いな」
「ええ本当に、とても良く似合っていますよフローラ」
「先生!」
サンの後ろから現れて私の姿を褒めてくれたのは先生だった。王宮での夜会から会っていなかったから数ヶ月振りの対面だ。
「先生もパーティーに?」
「もちろん二人のお披露目ですし、私もブラッド公爵家の筆頭オードレ侯爵家の者ですから」
私は久しぶりに先生と会えた事が嬉しくて、つい笑顔で話しかけてしまった。
「レイモンド、それ以上は・・サディル様が」
私と先生の会話を聞いていたフィンさんが止めに入った。横を見れば確かにサンの様子がおかしい。
先生はそんなサンを見て呆れていたが 先に会場へ行っているよ。と言い残しフィンさんと共に歩いて行った。
そんな二人を少しだけ見送るとサンへと向きを変える際にクルッと回って全身を見せた。
「どう?素敵でしょうこのドレス」
「・・ああ、先ほども言ったが良く似合っている」
私はサンの言葉を聞くと自然と笑顔になると、つられてサンも笑顔になる。
そんな私たちを見てレナは呆れていたが、他の侍女たちは驚いた顔をしながらも微笑ましく見ていた。
ブラッド公爵家の嫡男サディル様は常に無表情でその笑顔を見た事がある者は誰もいない。
でも、私は知っている。
笑い方は変わったが、その表情は子供の頃と変わっていない事を。
「行こうか」
「はい」
サンにエスコートされながら先生たちが歩いた廊下を二人で歩いて行く。
会場へ一歩入れば一斉に視線がこちらへと集まる。
大広間に二列に伸びる長テーブルには、ブラッド公爵家の筆頭で家格が上の侯爵家と伯爵家の人達が着座していた。
サンと私はその間を抜け前に進んで行く。
「先ほどとドレスが違うわ」
「先ほどのドレスも良かったけど今回のドレスもまた素敵ね」
「まるで少女から女性に変わったようだ!」
視線とともに嬉しい言葉が耳に届く。
見ればサンも嬉しそうだ。
二人並んで進むと上座に座る二つの影が目に入った。公爵様と公爵夫人だ!
二人の前で足を止めると深くお辞儀をすると
「父上、母上間に合いましたね」
「少し遅れたがこうして二人の姿が見られて良かった」
「本当に、フローラさんお久しぶりね。わたくしの事を覚えているかしら?」
顔を上げると優しく微笑みながら私を見る二人。特に夫人は小さな頃にお母様と何度も顔を合わせていた貴婦人だ。忘れる訳が無い
「もちろんです・・奥様と母が楽しげにお茶を飲む姿を今でも思い出します」
そう言い終わるといつの間にか側へと来ていた夫人に抱きしめられた。それはまるで母に抱きしめられているようで目が熱くなってしまう。
「皆、良く集まってくれた。知っている者もいるが嫡男サディルに番が見つかった。フローラ・レビィ嬢だ。婚約式の前に先ずは君たちに会わせたくこの会を開いた。次期公爵夫人としてまたブラッド家の番として彼女を支えて欲しい」
公爵の挨拶が終わると一斉に拍手が湧き上がる。私はサンに手を引かれながら席へと移動するとグラスを渡された。
乾杯だ。
そこからは自由な食事会が始まり私たちのテーブルには常に人だかりが出来ている。一族の皆がサンの番である私に興味を持っていた様だった。
存在自体が稀な番。
食事会が終わると男女別れて移動となり、私は公爵夫人と共にサロンへと移動した。そこで盛り上がったのは前回の番の話だった。
すでにお伽話の様になっていた番が実際に現れたから一族は大騒ぎになったとお茶を飲みながら盛り上がった。
それもそのばず、前に現れたのが百年以上も前でしかも当時の公爵家当主にはすでに妻と子までいたと。
「それで・・その番は、奥様はどうされたのですか?」
「すでに嫡男は成人していた為、家督を譲り別宮で番様と過ごされたと聞いております」
「その、奥様は?」
「番の存在は絶対です。まぁサディル様を見ればわかると思いますが、番様には勝てないのです。奥様はご自身のお子が家督を継いだのを見届けた後、領地に移り住んだと言われています」
もし、私と出会った時にサンに若い奥様がいたらどうなっていたのか・・
サンに小さな子がいたら・・考えただけで胸が痛くなる。そんな時一人の夫人の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「子孫を残す事が難しい我が家門ですが番様とは沢山の子宝に恵まれると聞きます。楽しみですわ!!」
と・・




