七 パーティー 2
「レナ、別のドレスはあるか?」
「はい、もう一着ございます。急ぎお支度すれば三十分もあれば」
「ではその頃迎えに来る。フローラすまなかった。この件はうやむやにはしないから」
サンはそう言い残すと立ち去った。
私は部屋へ戻るとすでに話があったのかもう一着のドレスへと着替える準備が整っていた。
「別にこのままでも良いのだけれど・・」
ドレスを脱ぎながらレナヘ聞くとレナは目を大きくしながら頭を横に振る。
「今日は親族だけとは言えフローラ様がサディル様の番だと、次期公爵夫人なのだとお披露目する大切な場なのです。フローラ様が一番輝いていなければダメなのに何故・・」
レナの表情がサンと重なったように見えた。
どうやら私が思っている以上に重要なパーティーだったのだと、今更ながらに思えた。
用意されていたドレスはベージュの生地に赤い糸で裾全体に刺繍で施されている物で、少し大人っぽい雰囲気のドレスだ。先ほどのドレスと違い肩も出ているデザインだが胸元はちゃんとカバーされている。
装飾品は確かルビーのイヤリングとネックレスに金のティアラだったかな?
そう思っていたのだが出来上がりを見た瞬間驚いた。
「はじめティアラをと思いましたが本日お越しの女性方を見てこちらへと変更させていただきました」
そう言って手がけてくれたのはもう一人の侍女キーナだった。ネックレスとイヤリングは同じだが髪型を緩い編み込みにして、真珠の髪飾りと色とりどりの生花で飾り付けられている。
「花の色はそれぞれの家門のカラーとなっております。オードレ家は紫、ローウッド家は青と・・」
「すごい・・とても素敵だわキーナ!」
髪は女性らしく左肩へ流されていて、大人っぽいドレスも髪に生花を使う事によって可愛らしく纏められていた。この出来にレナも満足した様子だったが一人納得がいかない顔をしている人物が。
「お言葉ですがフローラ様。本日のパーティーに生花はよろしく無いかと思いますが」
「?なぜかしら」
「生花は時間が経つと萎れてしまいます。番様であるフローラ様の大切な顔見せに萎れる生花は縁起が悪いかと・・」
もっともらしい事を言ってきたのは赤いドレスを準備した侍女セリルだ。
自分が選んだドレスを交換されて嫌な気分になったのか先ほどから鏡越しに見ていればキーナの邪魔ばかりしていたが、さすがに髪に飾ろうとしていた生花を処分しようとしていた時は他ニ名の侍女に止められていた。
私はもう一度鏡で自身を見るとレナヘと問いかけた。
「レナ、この後の予定は?」
「本日は立食では無く晩餐会となっております。フローラ様が自ら動かれる事はありませんし花が萎れるほどの時間では無いと存じます」
レナの言葉を聞き私はこのまま参加します!と言い切った。
それでも納得のいかないセリルは別の髪飾りを取り出して勧めてきたが、それは今までに見たことの無い素材の物だった。
「これは我が領地の特産物でこれから王都へ売り出そうとしている物でございます。きっとフローラ様の髪にもお似合いになるかと」
あまりに必死になって勧めてくるので少し絆された私は髪飾りを手に取るとレナヘ手渡す。
「それでは参りましょう」
サンは迎えに来ると言っていたが、たまには私から迎えに行きましょう。と、廊下へ出るとサンの居る執務室へと向かった。
「それで、フォンド伯爵家にはちゃんとドレスコードをおくったのだろ?」
「フォンド伯だけで無く全ての家門へ送っています」
「では何故フローラとキャロル嬢のドレスが被るんだ?」
「「「それは・・・」」」
今ここには私とウィル、レイモンドとフィンがおりフローラとキャロル嬢のドレスの件で話し合っている最中だった。
本来であれば主催者と招待客のドレスの色が被ら無いよう予め伝えているはずなのに、主役であるフローラと形は少し違うが見た目がそっくりなドレスを着てきたキャロル嬢。
「しかもフローラ様は四着の中から選ばれたとお聞きしております。そんな偶然起きるのでしょうか?」
「・・いや、まず無いだろうな・・」
「て事は?」
「フローラ様の近くにキャロル嬢へ情報を流した者がいる。って事だな」
四人の目が合う。
「まぁ、直ぐに見つかるだろう」
「ザーラとレナさんが側にいますしね」
「それよりもサン、これを」
話が終わりかけた時レイモンドが薬を差し出してきた。最近はこの薬さえ効きにくくなっていて、気を緩めると目眩と頭痛がひどい。
「早くフローラの血を口に出来れば解決するのだけど・・」
「・・まだダメだ。私はフローラから令嬢としての幸せを奪ったんだ。私にもそれ相応の罰を受けねばならない」
私はレイモンドから薬を受け取ると一つ口にふくむ。
フローラの血
それはとても甘く極上なワインのように美味しいのだろう。彼女から放たれる香りだけでも気を緩めると正気を失いそうになるのだから・・
「それにしてもフォンド伯は本当に我が家門の者なのか?サンにとって・・家門にとって番の存在がどれ程の存在かを知らないはずが無いが・・」
「まぁ実際に番が現れたのも百年以上前の話だからな。お伽話みたいなものだろうな」
そう、番の存在は語り継がれてきたが実際に現れたとの記録は百年以上も前の物しか残っていなかった。だからこそフローラは家門にとっても私にとっても貴重で特別な存在だ。
実際にフォンド伯以外の家門はフローラを歓迎している。
「まぁキャロル嬢もレイチェルとシンシア嬢と競い合うだけの力はありましたからね。勘違いする理由も分からなくもないが・・」
「・・・」
実際フローラと出会う前に婚約者を決められた。家門の中で血筋、魔力共に優れている者を。
結果レイモンドの姪レイチェルとなったが母上の療養先で出会ったフローラに祝福を与えてしまい、レイチェルとの婚約も無くなった。
番は唯一無二の存在だ。
「フローラの準備は整っただろうか。迎えに行かねば」
もう手放す事が出来ない存在。
私の心は、身体は全てがフローラの物だと分からせなくては・・




