四
「サン待って!どうして迎えに来てくれないの?ずっと待っているのに、サン!!」
「フローラ!!」
私は自分の声で目が覚めたのか、先生の声で目が覚めたのか・・曖昧だった。
わかったのは先生の医務室で寝ていたという事、そして段々と眠る時間が長くなっている。という事だ。
「せんせい・・私怖い・・」
どんどん眠る時間が長くなっているのが分かる。
「このまま、目が覚めなくなるんじゃないかって・・私どうしたら・・」
先生に弱音を吐いてしまう。先生だけが私の症状を理解しているから・・
「フローラ・・」
お父様には先生から私の呪いの事を話してもらったが、この先どの様な症状が出るのかも分からず不安だけが積もる。
もしかしたら命だって・・
私はソファーからゆっくり身体を起こすと先生が辛そうな顔で私を見ていた。が、なぜか私よりも先生のが辛い顔をしている。
「先生どうなさったの?」
「・・試作品が出来たんだけど試してみるかい?」
そう言って差し出された物は薬というよりは
「飴?」
「今の君になら口に合うと思う」
今の私?何か変な言い方だな?と思いながら先生の手から薬を受け取ると、それを口の中へと入れた。
先生の言う通りその薬は少し鉄臭い香りが一瞬鼻から抜けた気がしたが、先生の言う通り何故だか私の口に合った。
鉄臭さが無くなると後は普通の飴と同じで口の中に甘さが残った。
飴が口の中で溶けて無くなる頃には全身の怠さが無くなり久しぶりに頭が楽になった様な気がした。
「先生この薬って」
「この国には無い物を混ぜた物になります。どうですか?身体が受け付けないとか気分が悪いとかは無いですか?」
「いいえ、逆に久しぶりに身体と頭がスッキリして楽になりましたわ」
本当にそう、全てが楽になった。
まだ全快とはいかないけれど、先程までの眠気は無くなった。
あんなに眠気と頭の中のモヤモヤと戦っていたのが嘘のようで、私は先生に薬の成分を聞いた。が、やはり答えてはくれなかった。先生しか調合出来ない成分とまだこの国には無い物だからとからと・・
様子を見るため暫くの間医務室で待機していたが、いつまででも居座るわけにもいかないため薬を処方してもらう事に。
副作用が出ると行けないからとの理由で、一日一個の三回分を受け取った。
「何か症状があれば直ぐに舐めるのを止めること!必ず一日一個ですよ!そして」
「薬が無くなったら直ぐ来ること!!ですよね」
先生が最後まで言う前に先に言った。先程から何度も言われている言葉は嫌でも覚えてしまう。
私は先生と別れると待たせている馬車乗り場へと足を向けた。
こんなに足が軽いなんていつぶりかしら?
思わず踊り出したくなる足をおさえながら、足早に馬車乗り場へと向かった。いつも同じ時間に帰る事になっているため、必ずお迎えに来てもらうようお願いしているのだ。
だから馬車乗り場には必ず子爵家の馬車が
「無いわ・・」
えっ?時間は間違えていないはずだし、どうして無いの?!
私は軽いパニックを起こしながら近くにいた門番へ確認すれば
「リーナめ・・」
クルト様が急な用事で伯爵家の馬車で一緒に来たリーナはクルト様がすぐに帰らないと知り、馬車乗り場に停まっていた子爵家の馬車で屋敷へと帰って行った。と・・
「その、屋敷の者もお嬢様の迎えに来たのだからご一緒に!と説明されていましたが、我が家の馬車だから!帰ったらすぐに折り返せば良い!!と無理やり乗られて行かれました」
ええ確かにレビィ家の馬車だからリーナが乗っても良いわ。でもね、先に伝えていたのは私のはずよね?と、怒りを露わにしなかっただけ大人になったと褒めてあげよう。
私は門番に軽く頭を下げると仕方なく医務室へ戻り先生にお願いしようかな?と来た道を戻ろうと振り向くと
「お困りのお嬢さん、良かったら話を聞きますよ?」
以前先生を訪ねて来た方に声を掛けられたのだった。
「あの・・ありがとうございます公子様」
「いや、ちょうど私も帰る所だったからね。それよりもそう堅くならずに」
公子様はとても素敵な笑顔で話される。が、私はそんな笑顔が眩しい公子様をまともに見られるはずもなく、思わず顔を下に向けてしまう。
「サディル様の前に座れば誰もが萎縮されるかと」
「いえ!そんな事は・・」
「そうそう、公子の笑顔は怖いからねー」
「ウィル!」
同じ馬車に乗っているのは公子様付きの護衛のウィル様と侍女のザーラ様だと挨拶を受けた。
共に子爵家の子息令嬢で公子様の専属との事だった。
「いえ・・でもお声を掛けていただき、とても助かりました。医務室へ戻ってレイモンド先生にお願いしようかと思っておりましたので」
「名前呼び・・」
私の言葉に公子の眉間にシワが寄り、ウィルさんとザーラさんは笑いを堪えていた。
「レビィ嬢はその・・オードレ医師とはどのような」
「その・・レイモンド先生には私の病気の件で診ていただいております。その、原因が分からなくて・・」
あの日から徐々に私の病は悪化している。先生は頑張って原因を探ってくれているけれど、これと言った病名にたどり着けないようで・・と思った時
あの日?
自分で言った言葉に違和感を感じながらも公子様へ話している最中だと気付き
「時々お父様と何かお話されている様ですが・・ですが今日いただいたお薬が私の身体に合ったようで気分がとても良いのです」
「オードレ医師は優秀なのですね?」
「はい、子爵令嬢の私にもとても親切にしてくださっています」
私の言葉に何故か笑いを堪えるウィル様。
そんなウィル様に蹴りを入れるザーラ様。
目の前の公子様の眉間には更に深くなったシワが・・でも最終的には三人が三人とも 良かった と言ってくれた。
そこから我が家までは穏やかに会話が続き、気が付けば屋敷の前に公爵家の馬車が停まった。
私はウィルさんの手を借りて・・と思ったが何故か公子様が手を差し出してきた。
ウィルさまが馬車から降りたと思ったら公子様までも私より先に降りたのだ。
私は恐縮しながらも、公子様の手を取り馬車から降り御礼を言いながら手を離そうとした時、屋敷の窓から見ていたのか?門番が伝えたのか?屋敷よ中からお義母様とリーナが飛び出して来た。
「まぁまぁブラッド公子様!」
「レビィ子爵夫人、このような時間に申し訳ない。王宮でこちらのお嬢様がお困りの様でしたので」
「まぁ!!!お義姉様ったら、ブラッド公子様にご迷惑をお掛けするなんて!!」
「「「 えっ? 」」」
思わず私とウィル様とザーラ様の声がかぶる。
いやリーナが我が家の馬車を一人で乗って行かなければ、私も公子様にご迷惑を掛けなくても良かったのよ?と、喉から言葉が出そうだったのを必死に堪えた私を・・誰か褒めて欲しい!と心の底から思った。




