五 令嬢たちの突撃訪問
マッサージが終わるとマナー講習が始まり、公爵家の成り立ちや公爵夫人としての振る舞いなどの勉強が終わる頃、すでに外は暗くなっていた。
「ねぇレナ?私が思ってた以上に今回のパーティーは大掛かりなものなのね・・」
私の独り言のような言葉にレナは呆れた様子でベッドを整えている。
私は明日の事を考えるととてもベッドで眠る気になれず、今日教わった事を頭の中で復習していた。
そんな時・・
「あのレナさん。少し宜しいですか?」
私付きの(確か)キーナがレナヘ声をかける。私は自分の事と知らずウンウン唸っていると フローラ様 と側へとむかってきた。
「あの・・オードレ侯爵令嬢とドトーレ伯爵令嬢がフローラ様にお会いしたいと・・」
「え?」
オードレ侯爵令嬢と言えば確か先生の!
私は身なりを整えるため少し待って貰うようキーナへ伝えるとレナと共に奥の部屋へと移動した。
「初めまして番様。わたくしオードレ侯爵家レイチェルと申します。こちらはシンシア・ドトーレ」
「ドトーレ伯爵家シンシアと申します。遅い時間に申し訳ありません」
そう言って二人の高位家令嬢が頭を下げてきた。
本来なら子爵令嬢の私こそ二人に頭を下げる立場なのに。
私はレナヘ目配せすると
「頭をお上げください。私はまだ正式にサディル様の婚約者ではありません。どうか腰を下ろしてください」
私の言葉で揃って頭を上げた令嬢はレナの勧めもありソファーへと腰を下ろした。
遅い時間と言ってもまだそこまで遅い時間では無い。私は二人にお茶とお菓子を勧めるとまだ若い二人は嬉しそうにお菓子に手を伸ばした。
二人の可愛らしい姿をもう少し見ていたかったが何か用があって来たのだろうと察し声を掛けた。
すると最初は言いにくそうにしていた二人だったが意を決したのか、最初に声を出したのは侯爵令嬢だった。
「あの番様は・・」
「先ほども言いましたがまだ正式に認められた婚約者ではございません。どうかフローラとお呼び下さい」
優しく言えばホッとした様子で では・・と話始めた。
「フローラ様はおにいさ・・サディル様の番様とお聞きしました。その・・」
何を聞きたいのか二人がモジモジしている。その姿がまた可愛らしくて言葉が出るのを待つことに。すると
「あの、サディル様からはどの様にお声をかけられてきたのでしょうか!?」
シンシア様が勢いよく聞いてきた。見れば二人の若い娘が目をキラキラさせながら私の言葉を待っている。
きっとこの二人だけでなく、家門一同が気になっていた事なのだろう。公爵家の唯一の跡取りであり、一門の頂点に立つサディル様が今までに一度も女性に対し興味も好意も持たなかったのだ。
それが突然番を見つけたとなれば気になって仕方がない事だ。
「実は・・私自身サディル様の番だと知らされたのは最近の事なんですよ。出会ったのはずっと前でしたけれど」
そう答えると更に聞きたい!と目が訴えてきた。チラッとレナを見ると微笑んでいる所を見れば話しても良いのだと思い、話せる所を話した。
お互いの家の事もある為かなり省略したが、それでも若い二人には充分だった様で
「素敵です・・お兄様、サディル様にもそんな熱烈な所がお有りだったなんて」
「ええ本当に。サディル様は家門が選んだレイチェルと一緒になると思っていましたから」
「あら!シンシアには聞かされていなかった?わたくしとの話は割と早い段階で無くなったのよ。公爵家から直々なお話だったから・・フローラ様のお話を聞いて番を見つけたからだったんだと知ったところよ」
高位貴族は早い段階で相手を決めるとは聞いていたが本当なんだと驚いた。
サディル様は二十二歳。聞けばレイチェル様とシンシア様は十五歳。
サンとレイチェル様が婚約を結んだのは・・
「あら、珍しい事ではありませんわ。私の知り合いは産まれた瞬間に結ばれたと聞きました。しかもお相手は十三歳上とか・・」
「仕方ありませんわ。民の為には必要な婚姻もありますから」
「あら、レイチェルは確か婚約したのでしょ?お相手は・・」
「ここでそれを言いますの?!は、恥ずかしいではありませんか・・」
「あら、レイチェル様もご婚約されたのですか?ぜひお話し聞かせてくださいませ」
若い令嬢にまざり可愛らしい恋バナを聞く。
考えたらこんな話しをする相手も居なかったなと思う。
メイベルは友人だが恋バナをする程では無く、どちらかと言えば本を間に挟んで議論する仲だ。
だからこの二人の口から出てくる話はとても楽しくて、自分もまだ若いのだと改めて思い知った。
「そろそろ夜も更けて参りました。お部屋へご案内致します」
レナの言葉に我に返った私たちは大笑いした。
それほどに楽しい時間だった。
二人が部屋へと戻る際
「あの、ご迷惑で無ければお姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
思わぬ言葉に自然と頬が緩む。そう言えばサンの事もお兄様と呼んでいたなと・・
「嬉しいです。こんなにも可愛らしい妹が二人も出来て」
そう答えると笑顔でお姉様!!と呼ばれた。
扉の前で二人を見送ると突然シンシア様が戻ってくる。忘れ物かな?と思って声を掛けようとした時
「お姉様、明日はフォント伯家のキャロル嬢にお気を付けてください。あの方も私たちと一緒でお兄様の婚約者候補でしたの。レイチェルが選ばれた後も諦めきれず公爵家へ声を掛けていたと聞きました」
「フォント家のキャロル様・・」
私はシンシア様にお礼を伝えると今度こそ二人を見送る。部屋に入るとレナに
「フォント家のキャロル様の事を何か知ってる?」
「申し訳ありません。元は男爵家だった事しか・・」
「そう・・」
シンシア様が忠告してきたくらいだから気をつけるに越したことは無いだろう。
私はレナと共に部屋の中へと入った。




