三 侯爵領 三
「フローラ様お薬です」
「ありがとう」
一日に一回、先生から処方された薬を飲んでいる。いや、舐めている が正しいかな?
私は出された薬を指で摘むと目の前にかざした。
サンの瞳と同じ色の薬
いつ見てもこの薬は血のように赤く輝いていて美しいと思ってしまう。
「フローラ様?」
レナが不思議そうに聞いてくる。私は急いで薬を口へと運ぶと舐め始めた。
サンの事を考えていたことを知られるのが何となく恥ずかしかったから、それを誤魔化すように舐める。
この薬をもらってから、あの眠気は嘘のように無くなった。
成分は先生にしか分からないため何が入っているか知る事も出来ないけれど、その薬のおかげで不安だった 目が覚めなくなる恐怖 からは解放された。
しかしこのままこの薬を摂取し続けても良いのか・・
「レナ?レイモンド先生とはいつ会えるのかしら?」
「何か別の症状が?!」
私の問いかけに焦ったレナが私の顔を覗き込んだ。
私は急いで顔を横に振ると
「聞きたいことがあるの。だからこちらには来る予定があるのかな?と思って」
「そうですね・・私の耳には入っておりませんが、ボルド様でしたらご存知かと思います」
確認して来ますね。そう言い残して部屋を後にした。部屋に残された私はする事も無いため窓から外を覗いた。
私の部屋から見える公爵家の敷地は暖かい日差しを受けた木々が新緑の芽を出し始めていた。
目線を下に向ければ中庭の花が・・
あれ?あそこにいる人達は確か・・
見覚えのある侍女数人が一人の侍女に何やら詰め寄っているのが見えた。
私はその光景が気になりレナが戻って来ないのを確かめると静かに部屋を出た。
「確かこの辺りだと・・」
そう思って中庭へと来てみたが辿り着けない。
もう一度部屋の位置を確認して足を進めると
「たから辞退しなさいと言っているでしょ!」
見つけた!!
私は大きな木に隠れると侍女たちの行動を見ることにした。もしかしたら私の事かも知れないと感じたからだ。
よく見れば三対一でザーラが連れて来た侍女たちだった。
私付きの侍女を三人選べと言われ、その日は保留にしてもらったのだ。
本当にレナとザーラで充分なんだけど・・そう言った後にザーラに言われたのが
「フローラ様が公爵夫人となられた暁にはレナ様は侍女長となられます。私はフローラ様専属となりますが、私一人ではとても・・」
そう言われてしまえば決めるしかないのか・・と思った。でも、侍女の性格も分からないのに決めることが出来ず下がらせたのが昨夜。
「何故ですか?私も教育を受けた一人です。フローラ様付きになる資格はあると思います!」
「それが生意気なのよ!」
「そうよ、ちょっとザーラさんに目を掛けてもらえたからと言って調子に乗るな!」
「アンタは今まで通り衣装部屋に篭っていれば良いのよ!!」
そう言って押し倒された彼女を助けもせず三人は歩いて行った。押し倒された彼女は一人で立ち上がると衣服に付いた砂を払い先に行った侍女の後を追いかけるように走って行った。
「公爵夫人付きになるって、侍女にとっても名誉なのよね・・でも私にはまだそんな自覚も覚悟もないのにな」
私は彼女の姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くした。
「フローラ?どうしたんだボーとして。やはりまだ疲れが取れていないのかい?」
サンの声で我に返った私は急いで謝ると目の前の料理に手を伸ばした。
長い馬車移動のため一族との顔合わせは三日後に決まったとサンから伝えられた今、いよいよ私付きの侍女を決めないといけなくなった。
「急だったからオーダーでは無いけれど、フローラに合いそうなドレスをレナとザーラに選ばせたから」
サンにそう言われた時フッと思いつき、夕食が終わるとレナとザーラを部屋に呼んだ。
「この間の侍女たちに顔合わせ用のドレスを選ばせるのですか?」
私は頷くとその意図を二人に伝えた。
「私は今回初めてサンの一族の方と会うでしょ?だから私がその場に出ても恥ずかしくない物を選んでもらいたいの。ドレスだけでは無いわ、靴や装飾品、髪型も髪飾りも全てを選んで欲しいの」
専属侍女となればパーティーや夜会、晩餐などの一式を選ばなければならない。
自分の主人を着飾ることが専属侍女の大切な仕事だから。
ザーラはレナを見ると頷き
「承知致しました。四人にはその様に伝えますが期限は?」
「明後日の午前までにお願い」
顔合わせは三日後だ。時間を見れば明後日はギリギリだけど彼女たちの腕を直接見なければ選びようもない。
ザーラは急ぎ部屋から出て行くと残されたレナが少しだけ楽しそうに
「私もその日は同席しても宜しいでしょうか?」
と聞いてきた。
私はもちろん!と言うかわりに深く頷いた。
彼女たち四人がどんなドレスを選んでくるか、そのドレスにどの様な装飾品を合わせてくるのか・・今からとても楽しみで仕方がなかった。
ザーラから四人に伝えられたと報告があった。
明後日までの間は四人には仕事を与えない様にお願いした。
私の依頼に集中してもらいたいからだ。
「ふふ、とても楽しみね」
私はその日が楽しみになり夜も寝付けなくなり、翌朝久しぶりにレナに怒られてしまった。
少し短めですがここで切ります。




