二 公爵領 二 フローラ→サン
「フローラ様、そろそろ城へ到着します。降りる準備をお願いします」
馭者に声を掛けられた私はいよいよか・・と深呼吸をした。
ここへ来るまでの間馬車から街を見ていたが、ここの領民はとにかく朝から元気よく動いている。
「今日は朝市の日ですから特に人が多いのでしょう」
「朝市?」
聞きなれない言葉だった。
ザーラに詳しく聞いたら月に一度、朝早くに店を開き商品を売るのだそうだ。
そこでは普段店先に並ばないような野菜や果物、屋台では試作品も並ぶのだとか。
「この時間では商品も品薄となっているでしょう。来月の朝市にサディル様に連れて来ていただきましょう」
滞在予定は一月、来月ならば来れるかな?
私はザーラの提案に頭を縦に振った。
そんな賑やかな街を通り過ぎると今度は大きな橋を渡る。どうやらこの先から公爵家の敷地になるらしい。
舗装された道は馬車も走りやすいのか揺れる事はほとんど無かった。
いくら公爵家の馬車が素晴らしくても、道が悪ければ揺れもひどい。
私は大丈夫だが人によってはこの揺れで体調を崩す人もいるのだ。
そんな素晴らしい道を走ること半刻。いよいよお城が目の前に姿を現した。
やはり公爵家の城は王都に立ち並ぶような屋敷ではなく、要塞に近い作りだった。
最後の門をくぐると目の前に広がるのは色とりどりの花々で、私は目を奪われてしまった。
少しずつ馬車のスピードが落ちると まもなく停車致します の声に身なりを整え、言われた通り降りる準備をすると扉が開くのを待った。
サンは出迎えてくれるのかしら?
ドキドキと苦しくなった胸に手を当てて落ち着かせるが、一月ぶりに会うのだからドキドキを止めることなど無理な話だった。
「扉を開けます」
「ええ、お願いします」
そう答えると同時にゆっくりと・・
「フローラ!!」
思い切り扉が開いたと思ったと同時に一人の男性が馬車の中へと乗り込んで来た。
「・・サディル様・・」
「サンと呼んでくれとお願いしただろう?長旅お疲れ様」
そう言って私を抱き抱えると馬車から降りた。景色が車内から外に変わると同時に目の前に現れたのは
「「「 ようこそ番様!! 」」」
「・・・」
公爵家で働く人たちが勢揃いで出迎えてくれていた。
私が言葉を出せず固まっているとそれに気付いたサンが顔を覗き込んできた。
「どうした?」
「いえ、こんなお出迎え初めてだから驚いてしまって・・」
サンは笑いながら そんな事か と言っていたが、こんなお出迎え王族でしか無いと思っていた。
(あっ、ブラッド公爵家は王族の上だった!!)
「俺もここまでの出迎えは無いよ。それだけ公爵家にとってフローラは大切な存在、って事だな」
「え!!そんな・・」
話では聞いていた番の存在。
正直軽く思っていたけれど、ここまでされると私にそんな価値や力があるのかと考えてしまう。
「フローラ様。遠い所まで足を運んでいただきありがとうございます。まずは部屋でお休み頂いて・・ああ、申し遅れました。私は執事をしておりますボルド・ドートレと申します」
そう言って深く頭を下げたのは、お父様よりも少し年上の紳士だった。
「ボルドの息子でサディル様付きの執事見習い、フィン・ドートレでございます」
ボルドさんの後ろから現れたサンと同じ年頃の男性も同じように頭を下げて挨拶をする。
私も挨拶をしようと思ったのだが・・
「サン・・降ろしてくれなきゃ挨拶が出来ないわ」
「フローラは主人になるのだから挨拶は不要だ」
「まだ主人ではなくお客だわ!」
降ろして貰おうと暴れるがサンは見かけによらず鍛えられている為びくともしない。
そしてそんな私たちのやり取りを微笑ましく見ている使用人たち。
どうやっても降ろしてくれないので私は諦め、サンに抱かれたまま挨拶をした。
「フローラには申し訳ないが今回はこちらの部屋で我慢して欲しい。足りない物があればレナかザーラに言ってくれたら用意する」
「・・大丈夫だと思うわ」
結局抱き抱えられたまま私は部屋の中まで運ばれソファーへと降ろされると、サンは他にも用事があったようで
「晩餐まではこの部屋で休んでて欲しい。時間になったら迎えに来るから」
そう言い残し部屋から出て行った。
私は改めて部屋を見渡したがやはり公爵家。揃えられている家具は一流だ。
ホテルの家具も素晴らしかったけれど、この部屋の物を見たらその差は歴然だった。
「フローラ様、お茶でも淹れましょうか?」
「レナ!どこへ行っていたの?」
半日しか離れていないけど私の側にずっといてくれた人が居ないのは心寂しかった。
そんな私に気付いていたのか?私の好きなお茶を用意してくれていた。
レナが淹れてくれたお茶を飲んでいるとザーラが数人の侍女を連れて入って来た。
「フローラ様、今宜しいでしょうか」
「ザーラ?」
レナは私の後ろに回り立つとそれを見届けたザーラが連れて来た侍女たちを横一列に立たせた。
「フローラ様がお帰りになるまでの間、フローラ様の身の回りを整える侍女をこの中から選んでいただきたいと思います」
「え?私にはレナがいるからそんなにも・・それに一月位しかお世話にならないし・・」
私がそう言葉にするとザーラの目付きが変わり お言葉ですが と口を開いた。
「サディル・・大丈夫か?」
「ああ大丈夫だ。すまないが手を貸してくれ」
フローラを部屋へと送り届けたあと自身の執務室へ入ると同時に足元から崩れるように座り込んだ。
フィンはそんな俺を支えながらソファーに座らせると侍女に水を持って来るように指示を出した。
「もう限界では無いのか?フローラ様にお伝えして」
「それはダメだ!」
思わず大きな声が出てしまう。
「フローラには私の勝手な行動で長年苦しめて来たんだ。結婚までの間、今まで味わえなかった生活を送らせてあげたい・・」
「・・」
私を心配するフィンの気持ちは痛いほどわかる。だがダメだ・・
「レイモンドがもう少ししたらこちらに戻るから相談するよ」
フィンは侍女から水を受け取ると私の元へと運んでくる。その顔には心配と不安な顔を滲ませていた。
私は水を受け取ると飲み干し
「大丈夫だよ」
と笑った。




