三十一 告白 三
今回はサディルの告白です
「あの時サディル様が何を言ったのか、最後に言った言葉だけが思い出せないのです」
私の問いにサディル様は優しく微笑みながら私の左頬に手を触れる。
するとそこから首筋に手が降りてくる・・
「あっ、あの・・」
驚いて身体を強張るもその手は首の付け根まで降りるとある場所で止め、何度も同じ場所を摩る。
「その位置に二箇所の傷跡があったんだよ。まるで何かに刺されたような・・もしくは、噛み付かれたような・・」
お父様がサディル様を見ながら言うと、サディル様はその場に軽く口付けを落とした。
「サディル様!?」
私はあまりの恥ずかしさに動く事が出来なくなった。
サディル様はその場で深呼吸をすると顔を上げ、私の顔を真っ直ぐに見つめると
「あの日言った言葉。それは、君は僕の番だから僕は君を離さない。と言って、ここに祝福の跡を残したんだ」
「跡?」
サディル様は深く頷くと立ち上がると同時に私の手を引っ張った。
「フローラに話さなければならない事がある。今から良いかい?」
拒否の出来ない問いかけに私はお父様へと顔を向けた。
お父様は軽くため息を吐くと
「話をちゃんと聞いておいで。そしてその後、私に話を聞かせておくれ」
「子爵にはそこのレナから話を聞いてください。レナ・・頼んだ」
「承知致しました。サディル様」
レナは深く頭を下げたまま私とサディル様を見送った。
ウィルさんとザーラさん以外の護衛は残り、私たち四人は王宮の庭園へ移動した。
もちろん二人は私たちから少し離れた場所で待機すると言って、姿は見えるが声は聞こえない位置で立ち止まった。
私はサディル様に連れられ更に奥へと進んだ。
「怖くないかい?」
王宮の庭園といっても夜は暗い。そんな中、サディル様はどんどん奥へ進んで行く。
「いいえ、怖くありませんわ」
見えているか分からないけれど、精一杯の笑顔で答えた。そんな私を見てサディル様も笑った。
少し進むとそこには小さな噴水があり、その周りに一つだけベンチが置かれている。
そのベンチに腰を下ろすと噴水の飛沫に月の光が当たり、キラキラと輝いていた。
暫くたっても声が上がる様子も無く私はサディル様の顔を横目で見ると、いつから私を見ていたのだろうサディル様と目が合った。
「サディル様」「サン」
「・・・」
「サンと呼んで欲しい。昔のように・・」
「あの・・サン?」
何だかサンと呼ぶのが恥ずかしい。子供の頃は何の抵抗もなく呼べていたのに・・
「フローラに言おうとしていた言葉は、君が私の番で私の命だと言いたかった。本来なら成人しないと嗅ぎ分けられない香りを私は見つけてしまったんだ」
「前も仰っていましたが・・私から匂うのですか?どんな匂いですか?」
良い匂いなら嬉しいがもしそうでなければ対応しなくてはならない!
さりげなく自分の匂いを嗅ぐが薄くなった香水の香りしかしない。
「フローラの香りは・・とても甘くそれでいて嫌味のない香。うん、ずっと嗅いでいたい香だ」
そう言いながらまた私の首筋の匂いを嗅ぐ。
「本来なら婚約式の時に祝福を贈るんだ。他の男から婚約者を守るため容姿を少し変える。特に婚約者に好意を抱く男には醜女に見える・・だから私たちには祝福。相手側からしたら呪いなんだ」
「ではクルト様が私の事を醜女と言っていたのは・・」
私はクルト様の言動を思い出すとずっと私の事を醜女と言っていた。
隣に立たせるのも嫌だと言うほどに・・
常に義妹のリーナを選びリーナを優先した。
もし、私に呪いが掛けられていなかったら?
「ただ・・フローラの場合は子供の時に贈ってしまった副作用が強く出てしまい・・」
「あの眠気も副作用だったのですか?」
サンは頷く。とても辛そうな顔で
「婚約式から通常ならば一〜二年で婚姻式になる。その程度の感覚なら特に症状は出ない。と言うか・・」
「 ? 」
「そもそも子供の頃に番を見つける事が無かったんだ。番を得ること自体が稀なのに子供の頃に番を、フローラを認識するなんて前例が無かった。だから本能のままに君を・・」
私たち人には番なんて言葉も無いから、どんな風に感じるかなんて分からない。でも出会ってからの、子供の頃のサンを見れば私がサンにとって特別な存在なんだ!と言うことはわかった。
きっと子供ながらに 取られたく無い、奪われたく無い そんな感情を抑えられなかったのだと今なら理解できる。
現に私もクルト様にサンと同じ感情は無かった。
もしクルト様がサン同様に私を見てくれたら・・わからないけれど、でもきっとサンに抱く気持ちとは違っただろう。
サンは昔から私だけを見てくれた。
それは私が番だから。
それでもあの頃の私も、今の私もとても救われた事に間違いはない。
「フローラ?」
これ以上サンを傷付けたくない
「サン、私を見つけてくれてありがとう」
「・・私を許してくれるのか?」
私は首を振る。
許すなんて言葉は違う。そう思ったから・・
「サンで良かった。サンの番で良かった。私ね、ずっと好きだったの。サンが迎えに来てくれるのをずっと待ってたの」
「フローラ・・」
サンに強く抱きしめられながら私はやっと想いを伝えた。
初恋の人に・・
残り二話ほどです。
最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!




