三十 告白 二
フローラのお父さんの昔話になります
「お父様、お聞きしてもよろしいですか?」
「・・お母さまの事かい?」
お父様は私が聞きたいことを察してくれたのか、疲れた顔で微笑んだ。
私は頷くと
「私が覚えているお父様とお母様はとても仲の良い夫婦でした」
「うん、お母さまの事は本当に愛していたよ。私の傷を癒し不安を取り除き幸せを与えてくれた。心から愛しているよ、今もね・・」
お義母さまにされた事でまた傷を受けてしまったようだ。
「彼女とは幼馴染だったんだ、母親同士が従姉妹でね、その縁で良く屋敷に遊びに来ていたんだ。常に一緒にいたから自然と気持ちも生まれていったがただ一人、父だけが反対していたような気がする」
「何故ですか?」
私の知るお祖父様もまた、厳しいけれど温かく優しい人と記憶している。
「彼女の父親が・・危ない事業に手を出していた。と言うかそんな事業などもともと無かったんだ」
「詐欺・・ですか?」
サディル様の問いにお父様は頷く。
当時大きな話題になったと教えてくれたその詐欺事件で、お義母さまの実家の他にも数件の貴族が騙され危うく爵位返上となる勢いだったと言った。
勢いだった・・と言うのはお義母様のように、低い爵位を持つ事業家や、平民だが裕福な家門が貴族と縁を結びたくて救いの手を差し伸べたからだ。
いわゆる政略結婚
ほとんどが娘を相手の息子と結婚させている所、お義母さまだけが父親と年齢がそう変わらない当主に嫁がされた。
「彼女の父親が男爵からお金を借りていたんだ・・」
「事業に出資するため・・ですか?」
「ああ、そのあやしい事業の成功を疑わなかった彼女の父親は、全ての財産を注ぎ込むだけでは飽き足らずお金を借りた。結果は全てを奪い取られ借金だけが残った・・」
きっとお祖父様は助けたかったのかも知れない。
でも、あまりの借金の額に手を差し伸べてしまうと我がレビィ家も危なくなる。
「その事情を知って母は泣きついていたよ。親友を助けて欲しいと・・。だが借金の額が大き過ぎてレビィ家でもどうにもならなかった。と、父は亡くなる前に教えてくれたよ。すまなかったと・・」
きっとお祖父様も助けたかったはずだ。昔から家族ぐるみの付き合いをしていただろうから・・
「あとは先ほど話した通りだ・・彼女が結婚して一年後にフローラの母親を紹介されそのまま結婚。その時はもう誰でも良かった。後継さえ生まれれば私の役目も終わると思っていたから」
お父様はお母様を思い出していたのだろう、優しく微笑んでいた。
お母様はとても明るくいつも笑っていた。屋敷の使用人たちにも常に気さくに声をかけていた。お礼も必ず言っていたしお祝い事にも必ずお母様の手から渡していた。
「結婚した理由はどうであれ荒んだ私の心に入って来るのではなく、静かに寄り添ってくれた。そんな人に惚れない男がいたら見てみたい。と、そう思えるほどの人だったよ」
「・・・」
「お母様が亡くなった時、再婚する気は無かったよ。フローラもいたしね、でもある日夜会に出席した時に彼女と再会したんだ。とても・・時代遅れのドレスを着て」
それはそうだ。当時のお義母さまは無一文で婚家を追い出され、実家でも肩身の狭い生活を送っていたのだから・・
「彼女は言ったんだ、フローラと近い歳の娘がいるが満足のいく生活を送らせてあげれない。と・・その時リーナとフローラが重なってしまって手を差し伸べてしまったんだ」
「・・クルト様とはどうして・・」
不思議だった。
どう見ても私を視界にも入れずリーナばかりを見ていたクルト様。
月に一度の顔合わせですら婚約者の私ではなくリーナを優先していたクルト様を、私の婚約者としていたのか。
「クルトは私の遠縁の紹介だった。次男だったし伯爵家なら釣り合いも取れていたからね。それに・・」
言い淀んだあとサディル様に視線をうつした。
サディル様はそんなお父様に 私から話します。 と言って身体をお父様から私の方へと向きを変えた。
そのタイミングでザーラさんは新しいお茶を淹れてくれ、三人がそのお茶で口を潤した。
「ゾーロイ子息との婚約の話が出ていると聞いた私は、本来なら成人した後に贈らなければならない祝福を君に送ってしまったんだ」
「それはいつ?」
贈られた記憶がない私は頭を傾ける。
「私が王都へ帰る日、君とゾーロイ子息との顔合わせの二日前だったかな・・あの日僕は君へプロポーズをしたんだ。祝福を贈るのは成人してからだと言われていたから、その前に自分の気持ちを伝えたくて・・」
覚えている。
あの時、療養で来ていた男の子とそのお母様。男の子はいつも寂しそうにしていて声を掛けずにはいられなかった。
会えば必ず遊んだり、本を読んだりと時間を共にしていた。
そんな男の子が帰ると言った日
「フローラ、大きくなったら僕とけっこんして!そしたらずっと一緒にいられるよ!」
「サン、本当に?本当に私とけっこんしてくれる?」
「うん、だってフローラはとても良い香りがするんだもん」
「良い香り?」
「うん!だってフローラは・・」
そう言っていた。
そう、最後に・・
「サディル様・・あの時、最後に言った言葉は何でしたか?」




