二十六 さあ始めようか! 三
何でも番からの甘い香りは好意なのだと囁かれ、顔が赤くなってしまった。
私は自分の気持ちを一生懸命隠していたのに、サディル様にはバレていた・・って事?
「じゃあ・・僕の目に写っていたフローラが醜女だったのは、その祝福が・・?」
クルト様が信じられない・・と言う顔で私を見てきた。まるで自分に非が無くサディル様のせいだと言わんばかりに・・
クルト様の今までに一度も向けられた事がない視線に思わずサディル様の背中へ隠れてしまった。
その視線がリーナへ向けられていたものと同じだったから、嬉しさよりも怖さが先に出た。
まだサディル様と出会う前に向けられていたのなら、もしかしたらクルト様との未来も見えていたかも知れないが散々バカにされ邪魔者扱いされた事は忘れられない。
「フローラ悪かった。これからは君を大切にすると誓うよ。だからどうか許して欲しい」
「クルト様!?」
リーナがクルト様の名を叫ぶ。きっと自分から心変わりするとは思わなかったのだろう。
私はサディル様の背中に隠れながら頭を横に振った。
今更好意を向けられても心はなびかない。
初めて会った日から私はクルト様と仲良くなれるよう努力を惜しまなかった。
愛情はなくても情さえ生まれれば夫婦として生活していける。
本気でそう思って二人の距離を縮める努力をした。
たとえ私の容姿がリーナに劣るとしても、内面を見てもらえたら・・と。
でもそんな私の想いはクルト様には届かなかった。
それなのに・・
「そうだ!直ぐにでも式を挙げよう!夫婦となったあかつきには君だけを愛すると」
「やめろ!!」
「!!」
クルト様の言葉に震えているとこれ以上聞きかせたくないと、サディル様が言葉を止めるよう怒鳴る。
その声は私も聞いた事がないほど冷たい声で、思わず私も公爵家以外の人たちも息を飲んだ。
「お前は私の話を何も聞いていなかったのか?フローラは私の番だ!」
「それが何か?私はフローラの婚約者です」
「・・お前はこの国の歴史を学んでいないのか?」
「・・・」
「話にもならんな」
「な!!」
サディル様の言葉にクルト様は怒りの目を向けたが、確かに家庭教師からこの国の歴史を学んだ事がある。
リーナを見れば彼女も目が泳いでいたが、確かにクルト様とリーナも一緒に習った記憶がある。
けれど・・今思えばその頃から二人の世界は出来上がっていたのか。
「フローラは知っているかい?」
サディル様の後ろに隠れていた私の背を優しく押すと大丈夫だよ、と言われている気がした。
私はサディル様の顔を見るとしっかりと頷き二人に聞かせるように話始める。
「この国の始祖は吸血鬼で、その血をもって争いを収め平和をもたらしたと・・そしてその一族には稀に番と呼ばれる人が現れ、番と一緒になれた当主は更に国に繁栄をもたらした。とか・・」
サディル様は正解!と言わんばかりに私の額に口づけを落とす。
「な!それが何か?私とフローラはまだ婚約を解消していない以上、勝手に人の婚約者に手を出さないでください!!」
「クルト!!」
この人は本当に何も学んで来て無いのだと呆れていたら、お父様がクルト様の名を叫ぶ。
「お義父さま・・?」
「王族や王族に近い血筋に番が現れた場合はそちらを優先する。と習わなかったか?そうだな・・もしお前たちが心の底から寄り添い、婚姻を結んでいたら公子様もフローラを諦めていたかも知れん。番の幸せを一番に望むのもまた血だからな」
そう、サディル様と出会ってから手を差し伸べてくれたのは、サディル様と公爵家の人たちだ。
今になって、私の容姿が多少見られる様になったからと言って手のひらを返されても不快でしかない。
私を意を決して一歩前に出ると
「私はクルト様、サマーン伯爵子息様との婚約の解消を望みます」
ハッキリと言った。私の願いを。
今言わなければ、今なら聞いて欲しい人たちが揃っている。そう思ったら考えるよりも言葉が口から出ていた。
「なぜ・・?君は俺のことを・・」
私は頭を振り、真っ直ぐ彼を見た。
「たとえ私の姿が貴方の意に沿わなかったとしても、私を見て欲しかった。私の内面を見て欲しかった・・」
「それを言ったら公爵だって君が番だから好意を抱いていたのだろ?僕と何が違うんだ!」
「・・・」
私は黙ってサディル様を見た。
彼の言うことも一理ある。サディル様は私が番だからこそ好意を抱いていると・・
でも・・
「確かにサディル様は番だから私に好意を持ってくれています。でも私にとっては救いだったのです。誰からも相手にされない、見てもらえない。それはとても辛くて淋しくて・・この世からも見離された気持ちになっていました」
私の言葉にサディル様、ザーラさん、お父様、そしてレナ・・は泣いている。
「婚約者である貴方は顔合わせをしたその日からリーナへ好意を向けていましたよね?そしてそれを知りながら婚約を続けた・・お父様何故ですか?私は何度もお願いしたのに・・」
「・・・」
お父様は何も言わない。
ただジッと私の顔をみながら辛そうな顔をしている。
「それは、私がお願いしたから」
沈黙を破って言葉を発したのは、私の隣にいたサディル様だった。
サディル様は私の涙を優しく拭くと
「私がフローラへ祝福を与えてしまったから・・」
辛そうに言葉を紡いだ。




