二十四 さあ始めようか 一
サディル様の腕にしがみつくように自身の腕を組んで現れたのはリーナだった。
リーナは部屋に入るとまるで最初から知っていたように微笑み、そして私を見た。
「まぁお義姉さまったら!こんな所で何をなさろうと思ったのかしら?」
「何を?とは」
上半身裸のロッド侯爵とクルト様、左頬を腫らした私を見て何かを感じたのか?
まるで私たちに何かが起きたかのような言い方をするリーナに、この件はリーナも一枚噛んでいると推測出来た。
「まぁ怖いお顔。だってヘンリー様のお姿とお義姉さまのお姿を見れば何かあったと思うわよ?」
確かに私の姿はクルト様に抵抗した為に乱れてはいるが、リーナが言うほどではない。
おそらくサディル様にそう思わせる事が今回の目的なのだろう・・
いや違う。
本当はその瞬間をサディル様に見せる事が目的だったのだ・・そう思ったら一気に血の気が引く感じがした。
「フローラ様!?」
目眩がして後ろに倒れそうになった所をザーラさんが支えてくれ、レイラさんが椅子を持ってきて座らせてくれた。
サディル様は何も言わない。
何を間違えたのだろうか・・サディル様と楽しく踊っていたのは一時間ほど前の事なのに、今はその場所をリーナに奪われている。
胸が苦しくなり気持ちが悪い。
「リーナ!何があったの?」
声がして顔を上げるとお義母さまとお父様、それに王太子殿下と妃殿下まで来ている。
一体何が起こっているのか整理できずにいると
「お父様お母様!私も分からないの。サディル様と踊っていたら護衛の方が来て探していたお義姉さまが見つかったと知らせがあったから来てみたら・・」
「フローラ何があったんだ?そんなにもドレスを乱して・・」
「まぁ!そんな言い方して、それではフローラに何かあったと思うじゃ無い!」
「!何もありません!私はクルト様に無理矢理!」
「「「無理矢理?」」」
しまった!と思った。
今の言い方は無理矢理何かが起きた!と思える言い方だ・・
「違います、何も起きては」
サディル様を見たが何も言ってくれず涙が溢れる。私は悔しくて胸元を握りしめるとそれを見たお義母さまは
「フローラ、胸元を握っているけど何かされたのかしら?あら?少し破れて・・」
「そんな!」
まるで何かしらの行為があったと思わせる言い方に、私はもう終わりだと感じた。
良くて修道院、最悪は・・
「何もありません・・ザーラさん・・」
この状況を知っているのはザーラさんだ!
私はまるで救いの手を伸ばすようにザーラさんを見た。
その時
「報告を!」
「はい」
サディル様はリーナの手を払い除けると私の方へ歩いて来て優しく左頬に触れた。
両殿下はソファーに腰掛けており妃殿下の後ろにはレイラさんが控えた。
「クルト・サマーン子息、並びにリーナ・レビィ嬢の企てでフローラ様をこちらのヘンリー・ロッド侯爵の」「もういい!聞きたくも無い」
報告を!と言ったのに・・と皆が思ったが、私自身も聞きたくは無かった。
「私は何も知りませんわ!だってサディル様と踊っている時にお義姉さまの事を聞いたんですもの」
「私たちもですわ!フローラがクルトさんと部屋を借りて、侯爵様と三人で会っていると」
「そんな・・」
私はサディル様に誤解されたく無くて頭を横に振った。まるで始めから私を陥れる事になっていたかのように、二人は口を合わせている。
そもそも私はずっと公爵家に居たのにクルト様と部屋を借りる話なんて出来るはずもない。
「サディル様、お義姉さまはそんな女なんですよ?婚約者のクルト様に相手にされないからと、必死になって繋ぎ止めようとサディル様を・・」
「君に名を呼ぶ権利を与えた記憶はない!と、何度同じ事を言えばそのバカな頭の中に入るんだ?」
「えっ?」
サディル様の雰囲気が一気に変わった事にリーナもお義母さま、そして私も驚く。
「フローラ、君はなぜこの部屋に居たんだ?私はソファーで待てと言ったのに」
「それは・・」
言って良いのだろうか・・私みたいな女がサディル様の気持ちを確かめるような事を言って・・
「ヘンリー様と相引きするためですわよね!そうで無ければこんな奥の部屋に来ませんもの!」
「ちがうわ!」
私が言葉を出そうと思う前にリーナが先に私に原因があるかの様に言い出す。
「フローラ本当の事を言いなさい!今ここには王太子殿下と妃殿下までいらっしゃるのよ?」
「違います!」
義母までがリーナの味方で一方的に私を悪者にする。
レビィ家だったらきっと そうです と頷いていただろう・・それが一番丸く収まるから。
でも今は違う!
「私はクルト様に無理矢理この部屋へと連れて来られました!そちらにいるロッド侯爵様に私を娶らせる為に・・」
「な!何を言い出すかと思えば!」
私が言い返すと思わなかったのだろう、リーナは怒りで自分の態度を繕えなくなっていた。
そんな私たちの話しを聞いていた男性が
「ならそこに居る男二人にも話を聞いたらどうだい?良いよね?レビィ子爵」
「・・はい、もちろんです」
王太子殿下が口を挟む。
サディル様は仕方が無いと言わんばかりに二人の口から拘束具を外させると、二人の男はやっと話せると言わんばかりに口を動かした。
「私はそこに居るクルトくんとリーナ嬢にお金を貸したんです!だがいつまで経っても返してくれないから返すように言ったら、そこの女を妻として紹介すると・・」
「そんな!ヘンリー様は何か誤解をされておりますわ!」
「そうです!どうして自分の婚約者を他の貴族に差し出すような事をするのですか?私はただ酒の席に男だけだとつまらないからとフローラを・・」
「それで何故、彼女の頬がこんなにも腫れているんだ?」
サディル様は後ろを見ずに私の腫れた頬を優しく触れている。
私を見る目はまるで自身を責めているかのようで、私までが辛くなってしまう。
クルト様はサディル様の私の頬の腫れに対しての問いに何も答えられずにいた。
「ならば真実を確かめる必要があるな!」
サディル様は立ち上がるとパチンッと指を鳴らした。




