二十三 王宮での夜会 六
「さぁフローラ、良く見るんだ。君が信用していた男もやはり普通の男。結局は見目の良い女を選ぶんだ」
「信じ・・られません」
今まさに目の前で踊っているのは、私のパートナーのサディル様と義妹のリーナだった。
リーナはとても可愛らしい笑顔で、時々わざとらしくサディル様に倒れ込み支えられている。
それが本当に自然で ああ男の人はこうしてリーナに釘付けになるんだなぁ・・と感心してしまった。
チッ!!
私をここまで連れて来たクルト様の機嫌が悪い理由、それがこれか。
さっきから私を見る目も相変わらず汚い物を見るようだけど、今はサディル様に対しても・・だ。
「お前は誰にも相手にされない可哀想な女だと分かったか!あの男もお前をダシにしてリーナに近付く理由が欲しかっただけだ!」
「そんな事は!」
「じゃあ今目の前で踊る二人をどう説明するんだ」
「・・・」
クルト様の言葉に反論する事が出来ない・・それ程に二人がお似合いだったのだ・・
隣でイライラしているクルト様の側に居たくなくて、私はその場から離れようとしたが
「何処へ行く」
「え?いえ、約束の場所へ戻ろうかと」
「お前に会わせたい方がいる。こっちへ来い」
クルト様の形相も態度も怖くてその場から一歩も踏み出せずにいると
「さっさと来い!!」
私の腕を無理矢理に掴むと、会場の外へと出た。
連れて行かれた方角にあるのは会場から少し離れた、上位貴族専用の休憩室だった。
私は嫌な予感しかしなくて踏みとどまるも、男の力には勝てず引きずられるように奥へ奥へと向かった。
どうしよう・・悪い事が起こる気がする・・。今夜は王宮での夜会だからとウィルさんもザーラさんも辺境伯家として出席している。
「何処へ向かっているのですか?この手を離して!」
「うるさい!ブスのお前でも良いと言ってくださるお方だ!喜んでお相手するんだぞ!」
「え?それって・・」
足を止めて私の方へ振り向いたクルト様は、これから起きる事が楽しみで仕方ない顔をしていた。
「ヘンリー・ロッド侯爵様がお前をお望みだ。お前は今夜ロッド様に抱かれるんだ」
「何を・・言っているのですか?」
「お前の不貞行為で私は婚約解消!堂々とリーナと一緒になれるんだ!そしてお前も必要としてくれるお方の元へ行ける。どうだ!嬉しいだろう?」
「・・・」
クルト様はこんな人だった?
私が知るクルト様は確かに私の事を嫌ってはいたが、ここまで酷い事をする人では無かったはずだ!
私は思いきり抵抗したが男の力には勝てず、ズルズルと引きずられる。
「誰か!お願い!クルト様やめてください!」
私の言葉など耳に入らないのか私の手首を思いきり引っ張って行く。
怖い・・
今更ながらクルト様は男なんだと感じ、女の私が思いきり抵抗してもビクともしなかった。
「嫌だ・・行きたくない。お願いです・・」
何を言っても無駄だと分かっていても最後まで抵抗する。
バシッッッ!「うるさいと言っているだろう!」
左頬が熱く痛み、そっと左手を頬に当てた。
クルト様に叩かれたのだ。
クルト様は私を睨み付けながら「言うことを聞け!」とまた怒鳴った。
「騒いだらまた殴るぞ!」とも。
なぜ私がこんな目に遭わなくてはならないのか・・リーナと一緒になりたいのならお父様に堂々と申し込めば良いだけの話しなのに・・
「ブスが泣いても効果は無いぞ!」
私は抵抗する力も無くなり、また引きずられながらある扉の前に連れて来られた。
コンコンッとノックをすれば中から一人の眼鏡を掛けた男性が顔を出した。
クルト様と男がそれぞれ目で挨拶をすると大きく扉が開き・・私は無理矢理中へ押し込まれた。
部屋に入ると後ろから鼻と口に布を当てられた。その布から放たれた臭いに目の前がグルグルと回る。
その瞬間、私の思考は暗闇に塗りつぶされた・・
「フローラ様!フローラ様!」
「えっ・・」
重い瞼を開けた時、目の前には私を守るように立つレイラさんとクルト様を締め上げているザーラさん。そして床には上半身裸で座らされてる男性と先ほどの眼鏡の男性が・・
「フローラ様、大丈夫・・じゃない!!どうされたのですか?左頬が赤く腫れているではありませんか!?」
「え?!誰に叩かれたのですか?まさかこのクズに?!」
私の顔を見たレイラさんが驚き声をあげると、その声にザーラさんも反応した。
私は悲しみと悔しさと諦めで頬の痛みを忘れていたが、二人が心配して代わる代わる私の顔を覗き込む姿を見たら
「フローラ様?痛いですか?」
私は頭を横に振る
「クズに何か言われたのですか?もしそうならサディル様に突き出す前に痛めつけますが・・」
暴言を吐かれたし叩かれもした。でもそれよりも私を心配してくれる人がいる事が嬉しかった。
「助けてくれて、ありがとう。すごく怖かった」
「フローラ様、助けに来るのが遅くなり申し訳ありませんでした。我が家と同格と言えアイツは侯爵です。私の力ではここまでは来れなくて」
ザーラさんは私がソファーから立ち上がり歩き出した時、内緒で後ろから付けて来たのだと言った。
あの時のサディル様の様子も(色ボケ過ぎて)変だったから何かあったな!と思ったそうで・・
「バルコニーから戻られた際、このクズと一緒にいたのも心配で・・同じくフローラ様を探しに来ていたウィルに言付けをお願いしたのです」
ザーラさんは真っ直ぐ私を見ると直ぐに扉へと視線を向ける。
誰か来るのかな?
そう思った瞬間サディル様とリーナが何故か腕を組んで部屋へと入って来たのだが、二人を見たザーラさんの顔がまるで穢らわしい者を見た人の顔をしていたのが印象に残ってしまった・・




