二十一 王宮での夜会 四
扉の外側からでも伝わる会場の賑わいに足がすくんでしまう。きっとサディル様がいなければ逃げ出していただろう。
(サディル様がいなかったらこの場にもいないけれど・・)
「フローラ大丈夫かい?私を信じてくれれば良い。絶対に一人にはしないから」
そう言って私を見つめるサディル様の瞳は真っ直ぐだった。
「はい、私もサディル様の横を離れません!」
そう言い終わるとドアボーイが内側に合図を送る。
両開きの扉が同時に開くと会場の視線が一斉にこちらへ向く。
「ブラッド公爵家ご令息、サディル・ブラッド様。並びにレビィ子爵家ご令嬢、フローラ・レビィ様御入場〜!!」
サディル様と私の紹介が終わるとサディル様が一歩を踏み出す。私はそれに合わせて前に進むと自然と道が開かれる。
今まで滅多に参加する事が無かった我が国唯一の公爵家で嫡男のサディル様。その公子が出席するとあって高位から下位の貴族令嬢たちが自身を飾り付けサディル様へと寄って来る。
もちろん今までのサディル様だったら虫ケラでも見るような眼差しを向けていただろう。(これはウィルさんが教えてくれた事)
しかし今回はパートナーを連れての出席に
「どこのご令嬢だろう」「もしかしたら隣国の王女様か?」
など色々な声が出ていたが、実際に連れて現れたのが子爵令嬢とあって令嬢のみならず親までもが私たちの周りを囲んでくる。
ひどいとサディル様と私の間に割り込もうとする人たちまでも・・
言葉には出さないが態度で私を引き下がらせようとして来る。
その度にサディル様は私を守るようにその輪から離れてくれた。
私たちが入場して少し過ぎた頃、王族の方々が入場された。
側妃様とその子である第三王子殿下。
第二王子殿下と婚約者の侯爵家ご令嬢。
王太子殿下と妃殿下、次々に呼ばれ入場する。
最後は
「国王陛下、王妃陛下の御入場〜」
私たち臣下お声が掛かるまで頭を上げてはならない。それは王太子殿下も同じ。
両陛下が皆の前を通り椅子へと腰を下ろす。と同時に頭をお上げくださいと声が掛かると一斉に両陛下へと視線が向く。
「皆、良く来てくれた。今宵は・・そう。特別な者が出席をしておると聞いたがサディル、元気でおったか?ブラッド公爵は息災か」
名前を呼ばれたサディル様は一歩二歩前に出ると深く頭を下げる。
「陛下におかれましてはお元気そうで安心致しました。両親も両陛下の事を案じておりましたので。両親は領地改革に勤しんでおります」
「そうか、また王都へ来る事があれば顔を見せるように伝えてくれ」
「はい、申し伝えます」
「それよりも・・まぁ良い。また報告を」
「はい、必ず」
サディル様の言葉に国王陛下は満足したのか
「今宵は存分に楽しんで行ってくれ!!」
そう言い終わると左手を高く上げると思いきり横に振った。それを合図に音楽隊が曲を奏でると王家の子息たちがパートナーを伴ってホールへと進む。
中心には王太子殿下と妃殿下だ。
二人は衣装を合わせていてとても素敵だった。
暫くすると私の目の前に左手が差し出され
「フローラ嬢、私と踊っていただけますか?」
「喜んで!」
サディル様が申し込んでくれた。
この時ばかりは誰の邪魔もされず二人きりの世界だ。
私はサディル様に隠れてダンスの特訓を受けていたから実は自信があったのだ。
「上手くなったな」
「ふふ、実はサディル様に隠れて練習をしていたのですよ」
「いつの間に・・相手は誰と?」
私は踊りながらも相手を誤魔化す。サディル様は気になって仕方がないのか何度も相手を聞いてくる。
「サディル様が良くご存知の方ですよ」
私がクルッと回ると、力強い腕に抱き止められたかと思った瞬間
「きゃああ!サディル様!?」
「はは、私を困らせる悪い人はこうだ!」
そう言って私を高く抱き上げるとクルクルと回り出したサディル様は、とても楽しそうに笑っていた。
こんな笑顔は私でも初めてで・・
「サンもう止めて!」
と、笑いながら思わず言ってしまった。
すると急に動きが止まってしまい私は慌ててサディル様にしがみついてた。
「・・思い出したの?」
「え?」
私はしがみついたままサディル様の顔を覗き込むと、複雑な顔で私を見ていた。
「あの私・・」
「!すまない、何でもない」
私は下におろされるとダンスの輪から外へ連れ出された。
私は何か変な事を言ってしまったのかとサディル様の顔を見上げるが、目を合わせてくれず只不安に押し潰されそうになる。
「飲み物を取ってくるから、ここで待ってて欲しい」
私と目を合わせず一方的に告げると私をソファーに残し立ち去った。
その後ろ姿が私を拒絶しているように見えてしまい悲しくなる。
サディル様の優しさに甘えて勘違いしていた自分が恥ずかしくなり、少し優しくされて調子に乗った私に愛想をつかしても仕方がない・・
そう分かっているのにすごく悲しくて、胸が苦しくなる・・
ああそうか、私サディル様の事が好きなんだ・・
クルト様の婚約者だからと自分の気持ちにに蓋をして気付かないようにしていた。
「何てバカなのかしら私・・」
サディル様にここで待つように言われたが、私はどんな顔で会えば分からなくなり静かにその場から離れた・・




