十九 王宮での夜会 2
私とサディル様が公爵家の部屋で寛いでいると扉をノックする音が聞こえた。
ザーラさんが扉を開けると中へ入って来たのは王宮の侍女だった。
「失礼致しますブレッド公爵サディル様。主の命にて参りました」
「ああ分かった。フローラ、夜会の前に少し会わせたい人がいるんだ。一緒に来てもらっても?」
「はい、もちろんです!」
私は差し出されたサディル様の手に自分の手を重ねると引き上げられる。
夜会の前(下位貴族の方達はすでに入場している)に会わせたい人なんて、きっと現ブラッド公爵と公爵夫人だろう!と、勝手に思い込みサディル様のエスコートで部屋を出た。
「レビィ嬢、そう緊張せず顔を上げてください」
「は、は、はい!!」
何と目の前にいるのは王太子殿下に妃殿下だ!
遠くからお目にかかる事はあっても同じ空間で、こんなにも近くで拝見した事なんて下位貴族である私は初めてで・・
「フローラ、王太子と言っても同じ人だ。そう緊張しなくても大丈夫だよ」
「そうそう、サディルとはまた従兄弟になるからね。家族と同じような者だからそう緊張しなくても大丈夫だよ」
「は、はい・・」
そう言われても緊張はする。せっかくザーラさんとレナが綺麗にお化粧してくれたのに、汗で取れてしまう。
クスッ
可愛らしい笑い声がして顔を上げると妃殿下が笑いながらとても美しい微笑みで私を見ていた。
「レイラ、レビィ嬢を隣の部屋へ」
「はい、妃殿下」
レイラと呼ばれた侍女が私の手を取ると静かに立たせ、こちらへ と手を引いてくれた。
私は一瞬サディル様を見たがサディル様は
「行っておいで」
と送り出してくれた。
隣の部屋は化粧室となっていておそらくは妃殿下専用の・・
「令嬢?」
「ここってもしかして」
「はい、妃殿下のお化粧室でございます」
「!!」
私は驚きその場から足が動かなくなってしまう。侍女さんたちは動かない私に戸惑いを隠せないが仕方ない。子爵家風情が雲の上のお方である王太子妃殿下のプライベートの部屋に入るなんて・・
「余計に汗が出ます」
「でしたらわたくしのドレスに着替えましょうか?でもそうすると・・サディルに怒られますね」
突然うしろから声をかけられ飛び上がるほど驚いた私を見て更に笑い出す。
妃殿下はこんな風に笑われるのね・・なんて見惚れていると
「フローラ様、そろそろ中へ入られないとサディル様が押し掛けて来ますよ?」
「まぁ!それはいけないわ!さあどうぞ、フローラさん」
いつの間にか私の横にいたザーラさんに声をかけられると、これまたわざとらしく妃殿下が中へ入るように勧めてきた。
私は断るに断れなくオロオロしながら中へ入って行った。
妃殿下専用のドレッサーには見た事もない化粧品が所狭しと並べられていて、普段からあまり化粧をしない(化粧品が少な過ぎて困らない)私は今日とてつも無く驚いた。
公爵家でも驚いたがここは倍以上の広さと化粧道具の品数に圧倒されたが、手際よく王宮の侍女さんたちは私を整えてくれた。
私が顔を弄られている間妃殿下は静かにその様子を眺めている。しかもニコニコしながら・・
そんなに楽しいものでも無いのにと思ったとき
「フローラさんはサディルと結婚するのでしょう?」
と、突然言い出した。
私が否定しようと声を出そうとした時この質問に反応したのはザーラさんだった。
「もしフローラ様が私たちの女主人となられたら、どんなに喜ばしい事でしょう。ですがそうなるには我がポンコツ、いえ主人が頑張ってくれなければ・・」
「ちょっとザーラさん?」
今サディル様の事をポンコツって言いましたよね?
私の心の声が聞こえたのか、ザーラさんは私と目が合わないよう真っ直ぐ前を向いている。
「ふふ、サディルの事をポンコツって言えるなんて、ブラッド公爵家の主従関係って素晴らしいわ」
「妃殿下!」
レイラさんが妃殿下に対し注意を促すと妃殿下は手を挙げてそれを制した。
レイラさんは不安そうな顔を一瞬したが直ぐに二歩下がり、ザーラさんの隣に立つと肘で小突いた。
「お嬢様お支度は整いましたか?公子様がお待ちですよ?と・・何かありました?」
レナが私を迎えに来ると部屋の雰囲気に気付き部屋の中へと入って来る。
誰も言葉を発しない事に疑問を抱きレイラさんの方を向いたレナは
「レイラ?何があったの?」
「・・大した事ではありません伯母様」
と答えた。
伯母?
「ふふ、レイラは私の弟の娘なのですよ。代々ブラッド公爵家か王家に仕える家門ですの」
「フローラさんは心の声が顔に出るのですね。とても素直な方で気に入ったわ!私の友」
「妃殿下。殿下と公子様がお待ちですよ」
「・・・」
レナの一声で妃殿下も黙る。
レナってて何者?今も王家と公爵家に仕える家門って言ってたし・・では何故子爵家の、私の専属なの?と、これも顔に出ていたのだろう。
「今夜にでも公子様よりお話がございますよ、お嬢様。さあ参りましょう」
と優しく耳打ちをされた。
今夜・・いや、今から何が起こるのだろう・・
私は不安に押しつぶされそうになりながらもレナの手を取ると、公子様のいる部屋へと戻って行った。




