十八 王宮での夜会 一
とうとうその日が来てしまった。
本来なら私は子爵家の馬車で、婚約者のクルト様と義妹のリーナと共にここ王宮へ来るはずだった。
今年最後の夜会は王宮と決まっており、この国の貴族の全てが揃う。(領地が遠いか爵位が低いか以外)
我が子爵家も毎年家族揃って出席しており、今年も同じだと思っていた。
のに・・
「フローラ嬢、足元に気をつけるんだ」
「あ、ありがとうございます・・」
煌びやかな馬車で王宮へ辿り着いた私に、優しく微笑みながら手を差し出すのは
「公子さま・・」
だった。
ドレスと一式を買ってもらった私は、それだけでも居た堪れなく子爵家へ戻ると伝えたのだがそれを聞いた公子様は突然ザーラさんやレナに
「このドレスは・・子爵家のメイドに扱える代物か?」
と問うた。
すると投げかけられた二人は声を揃えて
「「 無理です!! 」」
と答えてしまった。
私は慌て、公子様は微笑む。
そんなこんなで今日は朝から大騒ぎで、私は公爵家の侍女さんたち数人の手によって磨き上げられた。
「フローラ、今夜の君はとても綺麗だ。見て、子息たちが皆君を見ているよ」
「公子様、公爵家の侍女の皆さんの手にかかれば、どんなご令嬢でも化けますわ。それに・・」
公子様にエスコートされなが二人で小声で話す。
確かに公子様の言うように、私を見て驚きの顔をしている子息たちはいる!が、それ以上に公子様の姿を見て目がハートマークになっているご令嬢の数のが明らかに多い気がする。
「公子様こそご令嬢方の視線を鷲掴みにしておいでですよ?」
「見ず知らずの令嬢に見初められても嬉しくないな。私にとっては貴女以外の視線など羽虫が寄って来るようなものだ」
なんと!!この方ったら高位貴族のご令嬢方の視線を羽虫と一緒にしたわ!!
私は公子様からの言葉に反論出来ず、下を向いてしまった。
左手に持つ扇で顔を隠しながら・・
そんな私の様子を楽しげに見つめている公子様・・ダメですよ!こう見えて私にはクルト様と言う婚約者がいるのだから!!
でも?もしクルト様と婚約の解消が出来たのなら・・
「どうしたんだ?急に頭を振って」
「すみません、羽虫が気になりまして・・」
私の言葉に大笑いする公子様の姿に周りにいた子息令嬢は驚きを隠せない様だった。
すぐ隣にいる私でさえ驚いたくらいだから仕方ないな・・
それよりも何がそんなに笑えたのか分からない私は扇の隙間から覗く。そんな私の視線に気付いた公子様はさらに深い微笑みを私に返してきた。
そんな顔をされたら私じゃ無くても勘違いをしてしまいそう。
「あの公子様」
「サディル」
「えっ」
「私の事をいつまで 公子様 と呼ぶつもりなんだい?私はフローラとはもっと近い関係になりたい。いや、なっていると思っていたのだが?」
「!!そんな・・名を呼ぶなど・・」
呼んで良いのだろうか・・そもそも公子様が私にここまでしてくる理由がわからない。
「私が許すと言っても?」
「・・家格が違いますから・・」
私が考え込む姿に公子様は一つため息を吐くと
「では、この夜会が終わる頃までには名前で呼んで欲しい。出来たら様抜きで」
「それは!あまりにもハードルが高いと言うものです!!」
名前を呼ぶのも恐れ多いのに様無しなんて!
「そうかい?でも本気だよ、そして最終的には愛称で呼んで欲しいと願っている。その呼び名は特別な人にしか呼ばせていないから」
「ヴッ・・」
私にそんな価値があるのだろうか・・と悩んでいるといつの間にか公爵家の控室に着いた。
もともと王宮にブラッド公爵家専用の部屋が用意されているらしく、通された部屋はまさに公爵家に相応しく絢爛豪華だった。
置かれている家具はもちろんソファーやカーペットなど一目見て一流品だと分かる。
そんな見たこともないほどのソファーに私をエスコートする公子様は、本当は公子様こそが王太子様なのでは?と思うほどの品格がある。
「ありがとうございます」
「ここは私たちしか入って来ない部屋だから寛いで。入場までまだ時間あるからお茶でも飲んで待とう」
そう言うとザーラさんにお茶を淹れるよう合図をする。
レナは私のメイクが崩れていないかチェックすると、奥の部屋へと入って行く。
「あの・・公子さ」
「サディル、だよ?フローラ」
「さ、サディル公子様・・?私がこの部屋に入っても良いのですか?」
「まだムリか・・」
「え?」
「いや、フローラは今夜私と共に入場するから当然だ。この部屋は公爵家の者しか入れないしフローラもいずれは・・まだこの話は早いな」
「あの?」
私は公子、サディル様が最後何を言っているか理解出来ず聞き返したが
「今夜フローラは私のパートナーだから良いんだよ」
と、ザーラさんが淹れてくれたお茶を飲みながら答えてくれた。
私もザーラさんに勧められ入場までの間ゆっくりと公爵家の部屋を堪能させてもらった。
その時間はとても心地の良いもので、出来ればこのままこの部屋で過ごしても良いと思えた程だった。
私にとっては最初で最後の贅沢とその時は本当にそう思ったのに、まさか本当にこの部屋に何度も通い何度も過ごす事になるなんて・・
この時は思いもしなかった・・




