十六 公爵邸で3 サン
「フローラ様は何を伝えたかったのでしょうか」
「・・・」
「お嬢様はいつもご自分の気持ちは後回しにされてきました。ですがあの涙は、初めてご自身の気持ちに気付かれたのだと思います」
急に黙り込んだフローラを見たら静かに涙を流していた。それは本人も意識していなかったのだろう・・とても静かで綺麗な涙だった。
だから、それ以上は何も聞かずフローラの部屋から出た。いや、ザーラたちに追い出されてしまった。
「だとしたらあの涙の意味は?」
「サマーン子息様とは婚約を解消したい。ですがお嬢様は後継者です、直ぐに他のご子息との婚約話が舞い込んで来る事に・・」
「ならばあの問題娘に継がせれば良い。その方があの義母も納得するだろう」
私の言葉に三人が頭を振る。
「何故だ?」
「私たちは匂いを嗅げば血縁かどうか分かりますが、普通は分かりません」
「正当な後継者がいるのにレビィ令嬢がサマーン子息と結婚し子爵家を継げば、この国決まりに反します」
「おそらくお嬢様はその事に気が付いたのでしょう」
別れたいのに家のために別れられない・・
「私の番だと発表すればどうだ?王も私に番が現れた事を知っている」
「それには・・良い考えだと思いますが、今直ぐに発表は難しいかと・・」
私が先に祝福を与えてしまった事で難しくなってしまった発表を、今どのタイミングで伝えるかを両親と国王夫妻で話し合っている最中だと聞いた。
我がブラッド家は本来、この国の本来の王だ。
この血の力で国を守り操る。
今の国王も元を辿れば我が家門の血筋だ。
そして、当主に番が現れれば更に国が栄えると言われている。
ブラッド=血
我が血をもって国は栄える。
その次期頭領である私にフローラ(番)が現れた。
「どこへ行かれます?」
「フローラの元へ。血を・・」
毎晩フローラが深く眠った頃を見て寝室へ向かう。眠っている彼女へ私の血を与えるために・・
「お供いたします」
フローラにつかせているこの女レナは、元は私の専属侍女だった。フローラを見つけたあの日から、祝福を与えたあの日にレビィ家へ送った。
フローラを守るため、見張るため・・
「ここで待て」
「ですが!・・承知しました」
レナを部屋の前で待たせると私一人が寝室へと入る。本来結婚前の男女が寝室に二人きりなんてもっての外なのだが、私は敢えて二人になりたかった。
「あの後も泣いたのか・・」
目の上に置いてある冷やされたハンカチをどけると、赤く腫れ上がった瞼が見える。
「すまないフローラ。私が君に祝福を与えたばかりに・・」
腫れ上がった瞼に軽く触れる。
愛しい人、もうフローラのいない人生など考えられない。一日も早くこの手に閉じ込めてしまいたい。
「フローラ・・」
今も彼女から溢れる香りに理性が壊れそうになる。
甘く優しい香りはフローラにピッタリで、毎晩襲ってしまいたくなる衝動を押さえるのに必死だ。
「・・ツッ!」
いつもは小指からの血をフローラの口の中へ落とすのだが・・
「フローラすまない。今夜は許して欲しい・・」
唇を噛み薄らと流れる血を、フローラの唇へと軽く押し当てた。
唇から口内へ、無意識だろうが唇に付いた血をフローラは舌で舐めた。
本来ならこれでお終いなのだが、彼女の甘い香りに理性を失いこの夜三日分の血を彼女に与えてしまった。
「サンはバカなのか?イヤ、二人きりにしたレナがダメだったんだな!」
「・・いや、レナは私に忠実に・・」
「寝ているフローラ様に何度も何度も不埒な真似をした事が?」
「・・・」
「フローラ様は起きた時に口の周りが赤くなっている事にとても驚かれていました。私もなんと言っても説明して良いかわからず焦りました」
「・・それはすまなかった。が彼女の香りに勝てなかった。寧ろ良く我慢したと褒めて欲しいくらいだ!!」
「「「 バカなのですか!? 」」」
私の我慢を褒めるどころかバカ呼ばわりするのは、ここにいる三人くらいの者だ。そして言われても腹が立たないのもこの三人だ
「いや、レイモンドもいたな」
「?そう言えばレイモンドから手紙が届いた。あと数日でこっちに戻れると書いてあったな」
「例の物を持ってくるのね!」
ザーラの言葉にウィルは頷いた。
レイモンドが例の物を持って王都へ戻ってくる。
「レナ、レビィ子爵に手紙を出す」
「直ぐにご用意致します」
レナは頭を下げると部屋から出ていった。
「ウィル、この事を王宮にいる両親へ伝えてくれ」
「かしこまりました」
ウィルは主従関係へと態度を変えると直ぐに行動に移した。
あと数日でどれだけの準備が整うかわからないが
「ザーラ、後でレナと共にフローラのドレスを注文してくれ。金額は気にするな、あと靴と装飾品も頼んだ」
「喜んで承りました」
「!?」
「?何か?」
「いや、久しぶりに楽しそうな返事を聞いたなと・・」
ザーラも一瞬驚いた顔をしたが直ぐにいつもの態度へと戻し
「近い将来の主人を思い切り着飾れるのです!侍女としてこんなに嬉しい事はございませんよ」
そう言い残すと急いで部屋から出て行った。
ザーラに任せれば大丈夫だろう・・
「サディル様、お持ち致しました」
「ああ、机の上に置いてくれ。それが済んだらザーラと合流して欲しい」
「承知しました」
もう少しだ!
もう少しでフローラの憂いも晴れるだろう。
私は踊る気持ちを抑えながらフローラの父、レビィ子爵へと手紙を書いた。




