十四 公爵邸で
「お待たせ致しました。クルト様、リーナ」
私に会いに来た人物、それは婚約者のクルト様と義妹のリーナだった。
私はばぁやにお茶を頼みソファーへと腰を下ろした。後ろに控えているのはザーラさんだ。
クルト様は居心地が悪いのかソワソワしていたが、リーナは見るからに豪華な物が揃っている部屋に好奇心が勝っている様子でキョロキョロしていた。
「今日はどのようなご用で公爵邸に?」
私の声に我に返ったリーナは、わざとらしく大きな声で
「まぁお義姉さまったら!あの夜会から屋敷に戻って来ないからお迎えに来たのよ?クルト様だって( 気に入らない婚約者の)お義姉さまが、いつまででも公爵家にお世話になっていたら気になりますわよ?」
ねぇ、クルト様!と、わざとらしくクルト様に同意を求める。当の本人であるクルト様は相変わらず私を見ようともせず、リーナばかりを見ている。
「私の事は公子様からお父様へ連絡が行っているはずです。それよりも何の前触れも無く来る貴女たちに問題があるわよ?」
「なっ・・!私たちはお義姉さまが心配でここまで足を運んだのに!」
私の言葉が気に障ったのか目を吊り上げるリーナを優しく宥めるクルト様は、私を睨むと
「婚約者がいる女が他家に何日も泊まるなんて、恥ずかしい行為だと思わないのか!?お前が帰って来ない間リーナがどれだけ心配していたか!」
「その件もお父様にはお伝えして」
「黙れ!お前のような者が公爵家にお世話になること自体烏滸がましい!!そんな事も分からないから俺にも相手にされないんだ!」
クルト様の言葉にリーナは微笑んでいる。
それに何故ここまで言われなくてはいけないのか!
公子様のご好意で病が治るまで滞在させてもらったけど、それだって無理矢理泊まった訳ではないのに・・
「お義姉さまはぁ、何が目的だったのですか?夜会でもそう。本来なら公子様にエスコートされる立場では無いのに、図々しくもドレスまで!」
「 !! 」
自分が公子様に相手にされなかったからと言って、ここまで言われる筋合いはない。
私は意を決して反論しようとした時、私の肩を優しく触れる温もりに気付いた。
「お言葉ですがフローラ様のドレスを用意するように仰ったのも、エスコートを頼んだのもサディル様でございます。家族と言えど仰って良いことと悪いことがございます」
私に触れながらザーラさんが私を庇った。
「なっ!何を!部外者が横から口を出さないでくださいませ!」
「そ、そうだ!使用人の分際で横から口を出すなんて、公爵家も使用人の躾がなってないんじゃ無いか!?なぁリーナ」
「な!なんて事を言うのですか!?ザーラさんに謝ってください!!」
ザーラさんに被害が被るのは違う!そう思ってザーラさんを庇うが、侍女の姿をしている彼女に対し何故かバカにしたような目で見てくる。
「謝ってください!」
「フローラ様、大丈夫でございます」
「でも!」
ザーラさんが私を静止している姿を見て何故か笑っている二人にすごく腹が立つ。
そんな時お茶を運んで来たばぁやが二人の前にお茶を置く。そして
「こちらのザーラさんのご実家は辺境伯爵家でございますよ。しかも由緒正しいご家門でございます」
クルト様とリーナへハッキリと聞こえるように伝えた。公爵家へ仕える侍女と護衛だ、低い家門では無いだろうとは思っていたが・・
「辺境伯と言えば・・ローウッド辺境伯・・」
私の独り言にザーラさんは優しく微笑み、二人の前に一歩出る。
「ローウッド辺境伯家が娘、ザーラ・ローウッドと申します。お見知り起きを」
侍女とはいえ家格で言えば私たちよりも上の方だ。挨拶はしたが頭は下げなかった。
クルト様もリーナもローウッド家の事は知っていたようで黙り込む。
ローウッド辺境伯
その名の通り隣国との境を領土とし、隣国から我が国を守護する貴族だ。
現当主でウィルさんとザーラさんのお父様は、元はブラッド公爵家の家門で現公爵様の命で辺境伯となられたと聞いた事がある。
「それで、サマーン伯爵子息様とレビィ子爵令嬢様はどのような要件でこちらへ?」
「!自分の立場を分かっていないお義姉様を、この私がわざわざ迎えにきて差し上げたの!お義姉様!帰りましょう!」
自分よりも下だと思っていたザーラさんにマウントを取られたリーナは、怒りの矛先を私に向けて来た。
ザーラさんはじめ、ばぁやも他の侍女さんたちも呆れている。
「それは無理な話だわ。お世話になった以上きちんと公子様にお礼を言ってから帰りたいもの」
黙って帰るなんていくら子爵家令嬢とは言えどもそんな不義理な事は出来ない。
「そんな事言ってまた眠りこけたらどうなさるの?最近は調子良さそうですけど、今までの状態を忘れてしまわれたのですか?」
「 !! 」
そう言われてみれば公爵邸にいる間はレイモンド先生からの薬は舐めていない。のに、体調はとても良い・・
私が一瞬考えているとそれみろ!と言わんばかりにリーナが鼻で笑う。
でもリーナと私の考えは真逆だ。
「それはただ単に、この屋敷の空気がフローラには合っている。と言うことになるんだろうな」
「「 !!! 」」
突然の男性の声に私とリーナは驚きながら声の方を向いた。クルト様はすでにその方の姿を認めていたのか下を向いていた。
「フローラ、ただいま」
「お帰り、なさいませ。公子様・・」
まだ帰る予定でない公子様がそこに立っていた。




