十二 公爵家の夜会で 七
リーナに汚された私のドレスは公爵家の侍女の方たちが責任持ってシミ抜きをしてくれると言ってくれた。
正直そこまでしてもらうドレスでは無いのに、嫌な顔一つせず持って行った。
私は本当に申し訳ない気持ちになったけれど、あのまま我が屋敷に帰っていたら更にシミが広がり、二度と着れなくなっていたと思うとその申し出がとても嬉しかった。
「私・・もし我が家を追い出されたらこちらで侍女でもメイドでも良いから雇ってもらえないかな・・」
そんな私の独り言をその場にいた侍女さん全員が拾い、何故か是非是非!!と懇願されてしまった。
ふふ・・
「どうしたんだ?急に笑い出して」
「あっ!申し訳ありません!」
「いや、今は大丈夫だ。それよりも私に付き合わせて疲れただろ?少し休むか?」
公子様に言われソファーへと腰を降ろすと果実水が目の前に差し出された。
私はグラスを手に取り一口飲む。
「これは?すごく口当たりが良くて美味しいです」
赤く輝くその飲み物は甘味と酸味が混じった、とても飲みやすいドリンクだった。
公子様はそんな私を見ながら優しく微笑まれて・・
「あの・・あまり見ないでくださいませ・・」
恥ずかしくなった。
果実水を全て飲み終わると同時に音楽が流れ始める。どうやら舞踏会の始まりだ。
「フローラ、疲れているところすまないが・・私たちが一番に踊らなければならない」
「はい、公子様は今夜の主役ですから」
私は差し出された公子様の手を取ると、流れるようにフロアの真ん中までエスコートされながら向かった。
実際、公子様とのダンスはとても踊りやすかった。
常に私の事を気遣って、それでいてとても踊りやすくて自然と笑顔が出てしまう。
「フローラはダンスも得意なのかい?」
「いいえ!と言いますか、夜会でダンスを踊ったのは初めてなんです。私上手く踊れていますか?公子様にご迷惑をお掛けしていませんか?」
私の言葉に一瞬驚いた顔をしていたが、直ぐに笑顔になり
「私もダンスを踊る事はしないが、今夜はとても楽しいな。フローラも上手く踊れているよ」
「ふふ、ありがとうございます。きっと公子様のエスコートが上手だからですね」
ダンスは家庭教師の先生か、小さな頃はお父様としか踊った事が無い。
婚約者のクルト様はいつも義妹のリーナとしか踊らなくて、かと言って私に声を掛けてくる男性もいなかったからダンスがこんなにも楽しいなんて知らなかった。
「すごく楽しいです。ありがとうございます公子様。一生の思い出になりました!」
「!!」
クルト様と結婚しても一緒に踊ってくれる事は無いだらう・・
パートナーがいる場合、ファーストダンスはパートナーと!と決められていて、婚約者がいるのにエスコートされない私に声を掛ける人などいない。
だから今夜が最初で最後のダンスになるだろう。だったら楽しもう・・今夜だけは・・
結局公子様とは休みを入れながらも五曲も踊ってしまった。さすがの私も足が痛くなりこれ以上はダメです!!と、ザーラさんからストップをかけられた。
でも本当に公子様とのダンスは楽しくて、無我夢中で踊ってしまった。
今はソファーで休みながら、仕方なく上流階級のご令嬢と踊っている公子様を眺めている。
「お疲れ様フローラ」
「先生!!」
私に声を掛けてきたのはレイモンド先生だ!
先生は お腹空いてない? と言ってお皿を差し出してきた。お皿の上には軽めの食料と一口ケーキが乗っていて
「緊張で空腹も気づきませんでした!ありがとうございます」
そう言って先生からお皿を受け取った。
先生は私の隣に腰を降ろすと一緒に公子様を眺める
「公子は元気だなぁ、フローラと五曲も踊った後なのに。でも・・」
急に笑い出す先生。何でだろう?と思えば、公子は本当に踊らないんだ!と言った。
「あんなに上手に踊れるのに?」
「公子だからね、それなりに一通りの教育は受けているよ。でも踊るか踊らないかは彼の意思だ。そして、一人の女性とこんなに踊る事は今までに一度も無い」
「・・・」
先生は公子様から目を離さずに話し続ける
「フローラ覚悟して。この場で君は公子の真のパートナーとしてお披露目されたんだ」
「えっ?確かに今夜は頼まれましたが・・それに私には婚約者が・・」
先生は真っ直ぐ前を見ている
そんなはず無い・・
私は子爵令嬢だ、公爵家の嫡男である公子様となんて絶対にあり得ない!とばかりに口を閉じてしまった。
そして先生は私を最後まで見ること無く、その場を立ち去った。立ち去る前に一言
「君は我が、ブラッド家門の事をちゃんと勉強した方が良い」
そう言い残して・・
ブラッド家を?
私は手渡されたお皿を眺めながら先生が言った言葉を何度も何度も繰り返しながらもお皿に乗った料理を少しずつ口に運んだ。
最後にもう一曲!と公子様にせがまれて踊り、夜会はお開きとなった。
今夜は遅いから!そう言われてドレスを着替えた部屋へ通されたあと
「明日はお昼を一緒に食べよう」
と公子様に言われた言葉を思い出した。
部屋に戻った私はその足でお風呂場まで連れて行かれ、デジャブ!?と思えるほど完璧に部屋着に着替えさせられた。
ザーラさんは私の髪を櫛でときながら機嫌が良さそうだった。
理由を尋ねると
「あそこまで楽しそうにされているサディル様を見た事が無いのです」
と答えた。そして
「フローラ様のおかげです」
とも・・
私は慌てて頭を振り
「私の方が助けられました。でなければ今頃は涙を堪えながらドレスのシミ抜きを・・」
ふと気が付いた。
二度目の入場からレビィ家の人たちを見ていない事に・・
「ねぇザーラさん、私の家族を見なかったけど帰ったのかしら?」
私の問いかけに何故かとても笑顔になったザーラさんが、何故か少しだけ怖かった。




