第6話:どっちが本物だ
目の前に立っているのは、俺だった。
同じ顔。
同じ声。
違うのは、目だけだ。
あいつの目は、何も映していない。
「……誰だよ、お前」
喉が乾く。
問いかけながら、自分でも分かっている。
“俺だ”。
もう一人の俺は、少しだけ首を傾げた。
「それ、こっちの台詞なんだけど」
完全に同じ声。
同じ抑揚。
だが、感情が乗っていない。
「お前が“残ってる方”なんだろ?」
そいつは一歩近づいてくる。
思わず後ずさる。
「……何を基準に言ってる」
「簡単だよ」
あいつは笑った。
俺と同じ顔で。
「お前、自分のこと何も覚えてないじゃん」
言葉が詰まる。
「名前も、理由も、過去も」
「全部空っぽ」
「それで“本物”って言える?」
心臓が強く打つ。
反論できない。
「……じゃあお前は覚えてるのかよ」
「ああ」
即答だった。
「全部」
その一言で、空気が変わる。
「お前が何をしたのかも」
「何から逃げたのかも」
「誰を消したのかも」
頭が真っ白になる。
「……誰を、消した?」
聞いた瞬間、後悔した。
あいつは少しだけ考えるようにしてから、言った。
「言っていいの?」
「知ったら、お前、もう戻れないよ」
足が止まる。
怖い。
でも、知りたい。
「……言えよ」
しばらくの沈黙。
そして、あいつは口を開いた。
「お前が消したのは——」
その瞬間。
警告音が鳴り響いた。
『優先存在判定、開始』
モニターが赤く点滅する。
女の声が飛ぶ。
「まずい、判定が来る!」
「判定……?」
男が低く言う。
「同一個体は、同時に存在できない」
「どちらか一方が“本物”として確定される」
背筋が凍る。
「……じゃあ、もう一方は」
「削除です」
即答だった。
逃げ場はない。
あいつがこちらを見る。
その目に、初めて“感情”が宿る。
「なあ」
俺に向かって言う。
「どっちが残るべきだと思う?」
答えられない。
そんなの決められるわけがない。
すると、あいつは静かに言った。
「俺は決めてる」
一歩、近づく。
「俺は、生き残る」
その瞬間、視界の端に表示が出た。
『優先存在:未確定』
『選択権:両者』
呼吸が止まる。
選ばされる。
どちらかを。
「ほら」
あいつが笑う。
「お前が決めろよ」
「どっちが“本物”か」




