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朝おきると、身体がバキバキになってる。
筋肉痛ってやつか。スプレーかけたんだけどな。
教室を出て、廊下の水道にいく。
洗顔とか歯磨きとかは、ここで済ませてる。
「おはよ~」
「おう、おはよ」
ミラノが来る。パジャマを着こなしてる。
その後ろからムツミも来る。パジャマ姿だ。
さらに莉々も来る。ぶかぶかのパジャマ姿だ。
女子3人も顔を洗いだす。
俺の隣りでムツミが洗顔してる。
顔をタオルで拭って、声をかけてきた。
「ナヲキ、調子はどう?」
「腕の筋肉が痛っ、いや、まずまずの調子かな」
するとムツミは、にっこり笑ってる。
「筋肉痛は、パワーアップした証拠だよ」
「そういうもんかな?」
「うん。だから自分を褒めてあげないと」
「ふうん、その発想は無かった」
「先輩の受け売りだけどね」
ムツミはほんの少し、寂しそうな顔になる。
でもすぐ、シャキッとしてる。
俺は歯磨きを済ませ、先に教室へ戻る。
それにしても筋肉痛を喜ぶ文化もあるのか。帰宅部の俺にはプチ驚きだった。
教室で6人が集まる。
女子たちも各々着替えが済んでる。簡単な朝食。
さて、今日はどんな活動をするのか。
相談しようかって時、教室に男が入ってくる。
「……ッ!」
俺はびっくり、みんなもびっくり。
男はいかつい体格で、Tシャツの上にポケットだらけのジャケットを着てる。
片手には、工事現場にあるような発電機をぶら下げてる。
その異様な姿、とても高校生には見えない。
でも、顔は覚えてる。
「ツトムンガーじゃないか」
秀治が言うと、男は不愛想な顔を、ちょっとだけ歪める。
「その呼ばれ方、好きだゼ?」
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教室の、出入口の近く。
机にどっかりと腰掛け、ツトムンガーは俺たちを見渡す。
「まさか6人も残ってるとは、意外だったゼ」
「ツトムンガー、今まで何してたんだ?」
「自宅待機ってやつだ。だが今朝、俺は天涯孤独になった」
家族が消えてしまったのか。
「だから良かったら、俺も仲間に加えて欲しい」
「それは勿論、歓迎するよ」
元はと言えばクラスメイトだし、俺も特に文句はない。
でもやっぱり、異様なフンイキだよな。アイトも女子たちも、その場で竦んでる。
「ところで手に持ってるそれ、インバーター式の発電機だね?」
「おうコレか、持ち主が居なかったから、拾ってきた」
「見せてくれないか、たぶんガソリン燃料で動くと思う」
「うーん、燃料はカラッポみてえだが」
ツトムンガーはその機械を振ってる。30kg以上はありそうだけど。
「チャポチャポ言ってやがる。少しなら動くかもな」
「……閃いたよ。早速だけどツトムンガー、手を貸してくれないか」
「ああ、いいゼ?」
「みんなも出かける仕度をしてくれ。うまくいけば人手が必要になる」
「なに思いついたの~、秀治クン」
「これを持っていけば、タッチパネルを復旧させてガソリンが買えるかもしれない」
「え、灯油が欲しいんじゃなかった?」
「作戦変更だよナヲキ、ガソリン発電なら格段に効率が良くなる。つまり」
「つまり?」
「本当に稼働できるかもしれないよ、冷蔵庫」
冷蔵庫と聞けば、俺たちも興味が湧く。
秀治とツトムンガーは教室を出る。みんなで後を付いていく。
7人パーティーになった。
校門を出てしばらく歩くと、目的地に着く。ガソリンスタンドだ。
秀治は給油設備の周りを調べる。
電源コードを伝っていって、接続部から引っこ抜く。
ツトムンガーの発電機に、接続し直してる。
「プラグの規格は合ってる。これならいけそうだ」
「ほう、面白れえこと考えたな」
ツトムンガーは発電機を作動させる。
ブルルルッと騒音が鳴りだす。
「あっ、ランプついたよ~」
「ほんとだ」
「急ごう、燃料は僅かしか残ってない」
「え~、何を急ぐの~?」
「ガソリンを買うんだよ、今しかチャンスないんだよ!」
「へ~そうなんだ~。あたし、お金もってないけど~」
「僕も、一文無しなんだけど」
ツトムンガーが、みんなの前でドンッと手を開く。
「300円だ。使っていいゼ?」
その茶番を眺め、俺は余裕の態度だ。
なにしろ俺の所持金は、100万ゴールド以上だからな。
こんな事もあろうかと、服のポケットに入れてある。
札束から紙幣を抜きだす。使える時に使ってしまおう。
みんなに見せる。見せびらかす。
「ま、キャッシュで3万ゴールドもあれば、足りるかな君たち?」
(うっわーナヲキ君ってリッチなんだね!)
女子たちの歓声が、もう脳内で再生されてる。うん気持ちイイ!
「諭吉」
あっ、莉々ちゃんも万札を出してる。
ヘソクリ持ってたのか。
「へ~これ旧札じゃん。ちょっとレアじゃない?」
「ナヲキも莉々も助かるよ。ツトムンガーもな」
……秀治が、話と現金を、まとめてる。
なんか俺の活躍度、薄まってないか?
それはともかく、タッチパネルが点灯してる。
集めた現金を投入する。これはいける。
「ガソリン容器を持ってきて!その辺にあるだろ」
給油、給油、給油。
見る間にガソリン満タンの容器が、ずらっと並ぶ。
「すげーな。これだけありゃ、いつでもガソリンが買えるゼ?」
「ガソリン買うための、ガソリンなの?」
「世の中ってそんなもんだよね。発電にも電力が必要だったりするし」
アイトが言うと、ツトムンガーは豪快に笑ってる。
アイトはその大声で、首をすくめてる。
大量の容器を、手分けして往復して持ち帰る。
学校の近くで良かった。ガソリン容器は、管理棟の脇にまとめて置く。
秀治は深刻な顔になる。
「ガソリン、本来なら消防法違反なんだよ」
「何いってるんだい秀治。違反だからって、もう取り締まる人も居ないだろ」
「俺らも非常事態だ。誰にも文句は言わせねーゼ」
「それより冷蔵庫だろ?秀治」
「ああ……この形勢なら試してみるか、業務用冷蔵庫」
俺としては冷蔵庫を使えるのが、えらく楽しみだ。
学食の厨房に行ってみる。そしてお目当ての、銀色のでかい冷蔵庫を開ける。
「ぶあっ」
詳細は、伏せておこう。
ホースを用意して、惨状になってた業務用冷蔵庫を掃除する。
ついでに購買部で放置してた生モノを、一斉に処分する。
手がガソリンくさいので、念入りに手洗いもしておく。
女子たちは、部室棟に洗濯機があるとか騒いでる。
ツトムンガー持参の発電機をメインに切り替える。
配線を、厨房にも部室棟にも延長する。
やる事はたくさんあった。7人全員でかかりきりだ。
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ムツミ達が夕食を仕度してくれた。
だいぶ手間取ったので、ひとまず食べて寝る流れだ。
「業務用冷蔵庫は稼働できる。燃料もたっぷり確保できた」
「でもさ、ジュースくらいしか入れる物ないんだけど~」
「マヨネーズ」
「調味料が冷やせるよね、助かるよ」
「ハコを用意したんなら、次は中身か?」
「食い物、増やしたいよな」
ツトムンガーは大食らいだ。食べっぷりを見てすぐ判る。
食糧が底をついたら困る。すると次の目的は、だいたい定まってる。
「校内でアンドゥー先生も、探したいけどな」
「それは、そうだけど……」
「よう、消えた奴の心配か?」
「ツトムンガー、そんな言い方しないでくれ」
「誰かが消えたからって、ガタガタ言ってられるのか?」
「おい!」
「だってよ、消えてない俺らだって、もう終わってるかも知れないゼ?」
ツトムンガーは表情を歪める。たぶん、笑ってる。
「何が言いたいんだよ」
「原発だ」
「……」
イヤな気分になる。
俺はそんな話、聞きたくもない。
「お前らも大体、判るだろ?原子炉が暴走してたら周辺一帯、もう終わってる」
「それは僕も考えた。原子炉の停止作業は通常運転よりも、人手がかかる」
「そうだろ。急に兵隊が消えれば、どこも対応不能だ。違うか?」
「どこもって、どこの原発が危ないの~?」
「国内だけで、海沿い中心に何十か所もある原発群、全部だ」
「やめてよ、そんな話」
「ムツミの言う通りだ、もう止めよう。原発に関しては楽観的に考えるしかないよ」
珍しく、アイトが仲裁に入ってる。
「仮に無人でも、自動停止システムが作動してると信じよう。彼らもそこまで愚かじゃないだろ」
「僕もそう信じる事にした。それが結論だ」
「そうか、騒がせて済まねえな」
ツトムンガーは、さっきより崩れた表情だ。やっぱり笑ってる。
「俺だって同じ考えだ。まあよろしく頼むゼ?」




