世界人口・134217728
カーテンの外は明るくなってる。いい目覚めだ。
「ナヲキ、女子連中がまだ来ないんだ。起こしてくれないか」
「え……」
秀治には協力したいけど、それは気が引ける仕事だな。
しゃーないか。隣の教室へ行ってみる。
まさか、女子が3人とも消えてたら。
そんな事を想像して、少しぞっとなる。
入口の扉を少しだけ引いて、声をかける。
「オキテマスカー」
本当に大丈夫だろうな、扉のすき間から室内をうかがう。
真っ暗だ。どうなってるんだ。
と思ったら、カーテンの手前に暗幕が掛かってる。
視聴覚室から持ってきたのか。
しかも黒・赤・緑の布地が、縦縞のシマシマ模様に加工してある。
どこのイベント会場だよ。
暗幕のせいで、逆光だけが室内を照らしてる。
布団を被った女子3人が、もぞもぞ起きだしてる。
周りにトランプが散らばってる。ゆうべ、どう過ごしてたか一目瞭然だ。
部屋の机が一か所にまとまって、机の上に花のプランターがたくさん並んでる。
寝室というか、遊び場に改造されてる。
「ナヲキッ」
ムツミが起き上がってる。びっくり顔になってる。
「ん?ナヲキ君もこっちで寝る~?」
「歓迎」
ミラノと莉々が口を開く。ムツミはびっくり顔のまま、ミラノと莉々を見てる。
「そんなわけないだろ、隣で待ってるからなっ」
俺は言うだけ言って退散する。
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女子たちが寝坊したので、朝食は適当に済ます。
パンかじったりカップ麺すすったり。
「水道の水がまずいんだよね~」
「明らかに劣化してるよな。みんな、飲む時は沸かして湯冷ましにしよう」
「ペットボトルの水、使ってもいいよね?」
「腹こわすよりマシだよな」
そんな事を話し、6人で食事してる。莉々が発言する。
「冷蔵庫」
俺らは沈黙して、ちょっと考える。それから意見を交える。
「欲しいよな冷蔵庫、アイス食いてえ」
「学食の厨房にあるよね」
「あの冷蔵庫は業務用で、かなり電力を食うだろうね。難しいよ」
「宿直室にもあったよ~、ミニ冷蔵庫」
「6人分となると、大きい方がいいかな」
「待ってくれ。冷蔵庫・フリーザーは、ほぼ稼働しっ放しにする必要がある」
「秀治が言いたいのは、発電機の燃料がやばいって事だろ?」
「その通りだ。節約しないと灯油が底をついてしまう」
「じゃあ~灯油、外から持ってきちゃう?」
「うーん、でもこの状況だと……」
「灯油なら、わたしの家に残ってるよ」
「そうか、ならムツミに協力してもらおう。僕はガソリンスタンドを見てくる」
「ムツミ、運ぶなら俺、付き合うよ」
ムツミに同行しよう。話の流れで、俺はそう決める。
優しくしてあげてって、ミラノが言ってたからな。丁度いい。
「助かるよナヲキ。他にも運びたい物があるし」
「へえ、何はこぶの?」
「色々と」
「なら僕も行こう。猫の手だって借りたいだろう」
「アイトは留守番でもしてろ。アライグマの手は不要だっ」
「そんな事ないよ。アイト君も手伝ってね」
アイトも同行するだと?何の役に立つんだ。
食後、玄関へ出る。
「自転車で行くんだろ?俺、家からチャリンコ乗ってくるよ」
「うん、それじゃ校門前で待ち合せよっか」
「僕、自転車のれないんだよね」
おいアイト、それは初耳だぞ。
登校の時も遊びに行くときも、歩きだったし気付かなかったぞ。
しかしこれで、アイトは脱落だ。
ムツミと俺、ふたりにお任せって事だな。
「大丈夫、アイト君はわたしの後ろに乗っていこうよ」
「えっ、2人乗り?」
「こんな時だからね、チームワークが大事だよ!」
なんだムツミ、そのポジティブ発言は。
アイトが小柄だからって、自転車で後ろから抱きつかれたいのか?
ドッジボールした時も、やたらとアイトを守ってたし。
とにかくこれは、俺も黙ってられない。
「待てよムツミ、色々運ぶ予定なんだろ?お荷物は置いていこうぜ」
「ダメ。一緒に働くの」
ムツミは腰にちょっと手を当てて、俺を見返してる。
意外と強情なところがあるよな。
「じゃあさ、自転車あきらめて歩くか?」
「……そっか、ちょっと遠いけど、いいかな?」
「僕は構わないよ。どうせヒマだし」
アイトは平然と答える。こいつは常にマイペースだ。
で、徒歩で出発する事になった。
先頭にムツミ、後列に俺とアイト。3人パーティーだ。
無人の道路を進む。
周りは、普通に住宅が立ち並んでる。
見た目は整然としてて、でも異様な静けさだ。
「人、ほとんど消えちまったのかな」
「そうでもないと思うよ」
何の気なしに言うと、アイトが言葉を返してくる。
「都市が機能しなくなれば、まず郊外への移住を考えるだろ。実家とか」
「ああ。俺の両親も、そうだ」
「そうだろ。まだ街に残ってる人は、外出を控えて自宅にこもる。だから」
アイトは大股で歩きながら、得意げに話してる。
「だから見た目よりは、消えた人ばかりじゃないよ」
先を歩くムツミも、こっちを振り返ってる。
「……消えた人は、どこに行ったのかな」
「それは非常に大切な視点だよ、ムツミ」
「そう?」
「消えた人は消息不明だ。死んだ訳じゃないから葬式もできないし、死亡保険も下りない」
「おい、言葉を選べよアイト」
「いいの。アイト君、消えた人は、生きてるかもしれないよね?」
「もちろん。安否確認が不可能なだけさ。消えたと同時にどこかへ転移してるかもね」
アイトは、言葉に遠慮が無い。
でもムツミは、アイトの言葉を真剣に聞いて、質問してる。
「例えば別世界とか、別の時代とか?」
「どちらも可能性があるよね。ムツミ、きみは秀治と違って発想が柔軟だね!」
「……この世界のどこか、かもしれないよね?」
「当然さ。現世界、異世界、異なる時間軸、すべて並列的に検討すべきだよ」
この眼鏡アライグマ、絶好調で喋ってるよ。
ムツミもムツミだ。こいつの正体を知らないから、素直に聞いてるんだ。
アイトが講釈するから、ムツミの家まで意外と早かった。
小一時間は歩いたと思う。
バス通りから奥に入った、マンションだ。
入口は開いたまま、自動ドアも開放されたまま。
「このマンション、オール電化っぽく見えるけどね」
「お父さんが、石油ストーブ使ってたの」
階段を登って、ムツミの自宅へ入る。
ムツミはまず、ベランダへ行って灯油のポリ容器を持ってくる。
それから台所へ行って、米袋や調味料などを段ボールに詰める。
「あとね、パジャマを3着と、あと着替えとか全部持ってく」
「荷造りなら俺、手伝うよ」
提案したら、ムツミはきゅっと歯をくいしばってる。
そしてすぐ言い返してくる。
「いいってば。少し待っててよ」
なんか断られた。とりあえず廊下で待つ。
アイトは玄関で、熊の置物を熱心に眺めてる。変態だ。
しばらくして、プチ引っ越し状態の荷物がまとまった。
俺は灯油のポリ容器をふたつ持つ。ムツミは段ボールひとつ。
アイトは軽いほうの段ボールひとつ。
「帰りは大変だけど、頑張ろうね」
「いやあ、たまには運動も必要だからね。ねえナヲキ」
「おう、帰宅部の意地を見せてやる」
帰りの俺は、灯油の重量で両腕が限界を越えて、半べそになってた。
所々で小休止しつつ学校へ戻ったら、もう思いっきり午後だ。
戻ってみると教室の内外が、おかしな事になってる。
窓には落書き。ハートや漫画のキャラクター。アンドゥー先生の似顔絵もある。
黒板を縁どるように、紅白の花形の紙細工。この教室も遊び場テイストになってきた。
ムツミは戻るなり、炊飯や食器の支度を甲斐甲斐しくこなす。
莉々とミラノは文房具を放り出し、おかずの用意を始める。2人が教室改造の犯人だな。
ムツミは手が空くと、座って休んでる俺の方へ寄ってくる。
「ナヲキ、これ腕とか背中に使って」
「何これ、スプレー?」
「筋肉の鎮痛剤だよ。お疲れさま」
俺が灯油の重たさで涙目になってたの、バレてたらしい。
食事の仕度が整った頃、ようやく秀治が戻る。
缶ジュースをひとケース、抱えてきてる。疲れた表情だ。
「ガソリンスタンドはどこも空振りだった。済まない」
「無人だったのか?」
「ああ。セルフ給油をしようにも、タッチパネルが停電状態だ。どうにもならない」
「もうじき暗くなっちゃうし~、明日考えよう?」
「かつおぶし」
莉々がムツミの段ボールから、調味料を出してる。
料理は今後も期待できそうだ。




