世界人口・268435456
俺たち6人の前に、おびただしい物品が集まってる。
教室は賑やかになった。ちょっと狭くなった。
数が多いので、目についた物から整理してみる。
◆食糧(パン・米・レトルトパック・飲料など)
◆アイトが理科室から持ってきたアルコールランプ
◆俺が大倉庫から運んだ、体操マット・クッション・バランスボール
◆莉々が調理室から持ってきた調理器具(すりこぎ・鉢・ミキサーなど)
◆莉々が調理室から持ってきた食器類(茶碗・箸・スプーン・つま楊枝など)
◆莉々が校長室から持ってきた盆栽(松)
ふう、ひと息つこう。
まだまだある。
◆ムツミが保健室から持ってきた大型救急箱
◆ムツミが保健室から持ってきた”家庭の医療大全集”
◆ムツミが家から持参した炊飯器と備長炭
◆ムツミが家から持参した漫画”タイムトラベラー美悠の診療所”全158巻
◆ミラノが音楽室から持ってきたフルート
◆ミラノが音楽室から持ってきた、バッハの肖像画
◆ミラノがどこからともなく持ってきた、ドライヤー
秀治が持ってきた、常識的な文房具や工具は、面倒だから省略する。
他にも色々あるようだ。全容は把握しきれない。
秀治は、感想を述べる。
「いや、みんなよく協力してくれた。感謝するよ」
各々の探索に励んだ結果、もう昼過ぎになってる。
今日も先生は発見できない。でも探索の副産物として、昼めしが豪華になった。
「ごはん炊けたよ」
「待ってよ~、スイートポテト焼かないと」
「味見、好き」
ムツミ・ミラノ・莉々が料理を揃えてくれる。
おかずはレトルトだけど、箸と茶碗で食べるめしは、格別だ。
しかもデザート付き。食事らしい食事に、腹が喜ぶ。
「感激だよ。こんな状況でも料理って、いけるものなんだね」
「ガスコンロ」
「コンロ?ああ調理室の。都市ガスが既に停止されてるよね、使えないよ」
「残念」
「莉々って料理、上手なんだよね~」
「電子レンジで我慢しようよ」
ここに集まってる6人は、元々けっこうバラバラだ。
性別も違うし、趣味もそれぞれ違うと思う。服装もだ。
ミラノはモデル系。今の私服もカラフルでお洒落。
莉々もオシャレ私服だけど、白黒で落ち着いた感じ。
ムツミはジャージ。髪型がポニーテールで、そこが女子っぽさかな。
秀治は学生服。いかにも優等生。
アイトは学生服。いかにもアライグマ。丸眼鏡。
俺の私服は……お察しレベル。
こんな境遇じゃなければ、こんな6人で生活するなんて考えもつかない。
でもなんだかんだで、うまくやれそうな気もする。
「これからどうする~?」
「午後は自由時間にしようか、日没で暗くなるまで」
「賛成」
みんなそれぞれ、やりたい事があるようだ。
秀治は、教室を出て行こうとしてる。
「秀治、給油か?手伝うぜ」
「今日は簡単だから平気だよ。ナヲキも自由に過ごしてくれ」
そう言われると、俺にも実行したい事がある。
大倉庫から、バランスボールを持ってきてある。
こいつに腰掛けて、集中する。
……こうして体幹を鍛えるのだ。
なんで鍛えたくなったのか、意味が判らない。でも無性にそうしたい。
莉々ちゃんは、近くの床にクッションを並べ、そこで寛いでる。
”タイムトラベラー美悠の診療所”を1巻から読んでる。何時間でもつぶせそうだ。
ムツミは、教室のあちこちを拭き掃除してる。
けっこう真面目だよな。……マンガ持ってきたけどな。
ミラノは姿が見えない。外出したのかな。
と思ったら、隣の教室からフルートの音色が聞こえてくる。
そんな趣味あるのかと感心してたら、いきなり突拍子もない音になる。
どうやら練習中らしい。
アイトは、変態だ。
窓際で、バッハの肖像画と松の盆栽を交互に眺めてる。
それから何が気に入らないのか、盆栽の角度をしきりに微調整してる。
そして口を開けて、黙々と眺める。
無表情だけど夢中になってる。こいつは変態だ。
アイトを観察しつつ体幹を鍛えてると、声をかけられた。
「ナヲキ君?ちょっと、お願いがあるんだけど~」
「えっ、俺?」
いつの間にかミラノが、戻ってきてる。
手にはフルートの他に、デカめの工具を持ってる。
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ミラノに頼まれて、教室棟の最上階に来てる。
なんで俺なのかと思ったけど、秀治が居ないからだろう。
「ここさ~、バチーンてできる?」
「どうだろう、切れるかな」
ミラノに渡されたのは、大きめのペンチ。いやプライヤーっていうのかな。
屋上へ昇る階段の突き当り、出口の扉にチェーンが巻いてある。
このチェーンを切断すれば、すぐ屋上へ出られる。
試してみると、あっさり切れた。
「やったね、サ~ンキュ~」
ミラノは扉のロックをカチッとやって、屋上へ出ていく。
俺もなんとなく、付いていく。
学校の屋上に来るのも、初めてだ。
いい風が吹いてて、涼しく心地よい。
「街、スッカスカだね」
ミラノはフェンス際まですいすい歩き、景色を見下ろしてる。
横顔。風になびく服、フルートを持った片手。ちょっとドキッとさせられる。
俺もすぐ隣まで行って、同じ景色を眺める。
正月みたいな四月の街。
がらんとしてて、人影はほとんど見当たらない。
壁にぶつかったままの乗用車。
それを避けて進もうとしてる、引っ越し中みたいなトラック。
遠くでは、建物から黒煙が上がってる。
「当分、バスも来ないね。イヤになっちゃう」
「ミラノって、あっちから通ってたんだ」
見てる景色は、たぶんミラノの通学路、だったんだろう。
しばらく黙って、スカスカの街を見てた。
「……ムツミに優しくしてあげて。あの子ショックでかいからね」
「ショックでかい?」
「うん。両親が消えちゃって、あと部活の子も大勢」
「ああ、そうだろうな」
異変が起こった始めの頃も、ムツミ落ち込んでたな。
「でもさ、ミラノだってショックあるだろ?」
「ナヲキ君って、実は慎重派タイプ~?」
「何の事だよ」
「別に。わかんなくていいよ」
ミラノはちょっと、こっちを向く。
乾いた感じの笑顔を見せて、また景色を見下ろす。
「莉々と私は、誰が消えたって大した事じゃないの」
「誰がって、そんな……」
「莉々は、私生児ってやつ?私も片親で、あいつが消えた方が私は楽になれる」
さらっと重いことを聞いてしまった。
たぶん、ミラノと莉々が学校に居座ってるのは、理由があるんだろう。
ミラノや莉々は、異変が起こる前から、何か経験があるって事か。
何かに耐性が付いてるんだろうか。
「だからさ、やっぱりムツミのほうが、アブナイんだよね~」
「何となく、判ったよ」
「ナヲキ君けっこう優しいじゃん。あたし安心したよ」
そこまで言うと、ミラノはフルートを口に当てる。
……澄んだ音色が、閑散とした景色へ向かって、降っていく。
その美しさは、鈍感な俺の心にも染みるような
プヒョーっと音程が狂う。
あっ、まだ練習中だっけ。
(ミラノ、ドンマイ)
俺は手で挨拶だけ送る。
ミラノはムスっとしたけど、フルート吹きを続ける。
先に屋上から戻ることにする。
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その日の晩めしもデザート付きで、大満足だ。
食事時には秀治が、また管理棟へ出かけてる。
調理の時間以外は、発電機をストップしてるようだ。
夜になったら、女子たちは隣の教室へ移る。
明かりはローソクだけ。教室にはアイト、秀治。
あまり夜更かしする気にはならない。
「秀治、一局付き合えよ」
「いやだ」
何のことかと思ったら、アイトが囲碁の道具を用意してた。
寝る支度でもすればいいのに。
「ルール忘れちゃった?ナヲキは覚える気がないんだよ」
「当たり前だろ、俺は覚えないからな」
「……仕方ないな」
秀治がアイトの前に座る。盤を挟んで白と黒の石を用意してる。
イヤだって言ってた割に、やる気?
始まると、石を盤に向かってパシーンとやってる。
アイトは、碁石の感触が好きみたいだ。
俺も、すぐには寝れそうにない。でも観戦する気なんて無い。
バランスボールにまたがって体幹を鍛えるか。
「なんだその構えは。ハメ手のつもりか」
「僕も控える時は控えるさ。なんなら踏み込んで来いよ」
「そんな手には乗らない」
秀治とアイトは、仲が悪いはずだけどな。
でも、2人で囲碁に集中してる。よくわからん奴らだ。
「秀治。消えた人は、今頃たぶん碁笥の中だよ」
「……やめろ。現実をゲームになぞらえるのは身勝手だ」
「ゲームはゲーム、か。秀治らしいね」
そんな事を語り合って、対局してた。
俺は眠くなってきて、バランスボールから下りた。




