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世界人口・536870912


「山梨に移る?」


「ああ、ナヲキも来なさい。もうここで暮らす意味も無い」

「親戚同士で集まって、一緒に暮らしましょう」



待ってくれ。


昨夜、両親に充電したスマホを返した。

父も母も、何度も通話を試してた。それで親戚と相談したらしい。


「俺は残るよ。友達が学校に泊まってるんだ」

「ナヲキ、勝手なこと言わないで!」



母は大反対。父は……


「共同生活できるのか、友達と?」

「ああ、やれる。先生も1人残ってるし」

「そうか。お前、けっこう立派になったな」



父は、むしろ笑ってくれた。


「母さん、ナヲキは高校生のまま独立できるんだ。嬉しいじゃないか」



それで朝、出発の支度をした。

飲料水、米やパン、レトルト食品などを分ける。

父は簡易テントも用意してる。それから俺に、お金を渡してくる。


「一応、渡しておく。でもナヲキ、たぶん現金は役立たずになる」

「ああ、そうかもね」



玄関を出て、最寄り駅へ向かって歩く。

駅に着いても無人。電車が来るのは、もう期待できない。


「のんびり行くさ。何日か歩けば行けるだろう」

「じゃあ、ここで。母さんも元気で」



誰かが消える前に、家族で抱き合えたんだ。俺はラッキーな方だろう。

その場で別れて、学校へむかう。


寂しいとか、そんな気分は無い。

親に付いて行っても、ここより退屈だろうし。


それよりも今この瞬間、俺は勇者になった。新しい旅立ちだ。


勇者の装備は


◇素手

◇布の服

◇男の食糧袋


所持金はすごいぞ。たぶん100万ゴールド以上。

使い道はないけどな。さあ出発だ!



いきなり犬が出て来た。


◆ポメラニアンが現れた!

◆ポメラニアンの攻撃!

◆チワワが加勢した!

◆勇者は逃げ出した!



この犬ども、ラブラブ元気にも程があるだろ。

この近所を自分たちの縄張りだと思ってやがる。


とにかく学校へ辿りついた。

学校内へ入れば、もう犬は出ない。普通のRPGはそんなルールだ。

くだらない旅立ちを体験して、教室に入る。


「ナヲキ」

「おはよう、どうしたの莉々?」


「先生が、消えた」



_______________________________



アンドゥー先生が居なくなってた。

莉々は俺を待ってたようだ。他のみんなは、先生を捜してるのか。


俺は荷物を置いて、莉々と一緒に教室を出る。

莉々の表情はいつもと変わってない。ほわっとした感じだ。

でもただ事じゃないのは、間違いない。


教室棟を歩き回ってたら、ミラノを見つけた。


「秀治クンが管理棟に行ってる。ムツミは校庭とか、外を見てる」

「なるほどな。じゃあ俺は、ええと」


「秀治クンと会ってきたら?」

「ああ、それがいいかな」



ミラノ、普段と違ってマトモだな。()で喋ってるかんじだ。


莉々はミラノと一緒に、教室棟を探索し続けるようだ。

2人は並んで歩いていく。


ミラノの方が背が高いのに、なんだか莉々に寄りかかって見える。

莉々の方がしっかりしてるようにも見える。不思議なもんだな。


俺は単独行動になった。渡り廊下から管理棟へ行ってみる。


犬から逃げて、安全な学校に来れたと思ったら事件が起きてた。

今度は学校をダンジョンにして、探索イベントかよ。



職員室は無人。進路相談室とか校長室とか、覗ける場所を片っ端から回る。

部屋を全部見て、外に出て校舎の周りも調べる。


秀治を見つけたのは結局、1階の端っこ。

発電機を置いてる場所だ。


秀治は発電機に、灯油を足してる際中だった。


「秀治」

「ナヲキか。空の灯油缶を運ぶから手伝ってくれ」


「いいぜ。灯油って、そんなすぐ切れるのか」

「燃焼効率が悪いからね。高校は灯油しか使えないんだ。消防法でね」



秀治って色々詳しいんだな。やっぱり委員長タイプだ。

でも、それより……


「アンドゥー先生は見つからないのか」

「恐らく……消失した。先生は僕たちと暮らす気になってたから、ただの失踪じゃない」



給油を済ませた秀治は、しばらく屈んでいた。

やがて立ち上がる。


「捜索は続けるけど、今は生活基盤も確保しないと、皆が困る」

「秀治、俺も今日からここに泊まる。食糧を持てるだけ持ってきた」


「そうか、心強いよナヲキ。一緒に乗り切ろう!」

「オーケー、協力プレイで行こうぜ!」



灯油缶はこびを手伝う。

秀治とは、仲良くやれそうな気がする。



発電機の世話をひととおり終えた。


「ムツミが先生を探してるはずだ。そっちに行こうか」

「そうだな」


「僕は部室棟を見てこよう。ナヲキは校庭周辺を頼むよ」

「判った」



グラウンドを見渡してみる。人っこ1人もいない。

どこか物陰を探してるか、体育倉庫とかに入ってるのか。

あちこち見て回るが、どこにも居ない。


あとは運動部が使ってた、大倉庫か。

サッカーのゴール枠も収納できるような、広い倉庫が建ってる。

帰宅部の俺にとって、ここは未知のマップだ。


開いてたので入る。中は薄暗い。

無駄だろうけど照明のスイッチを押してみる、電気が通じてない。


「ムツミー?」



声を出してみる。誰も返事しない。

もう戻ろうかな、と思う。


いま学校に集まってるメンバーのなかで、ムツミはちょっと苦手だ。

少し話した覚えがあるけど、うまく喋れてないし。


ドッジボールでは、アイトの代わりに俺を迎撃してた。空気読めてないだろ。

俺からするとムツミは、ちょっと敵かも。それくらいの位置だ。



あきらめて倉庫から出ようとした時、人影をみつける。

視界の隅、倉庫の奥。マットの上でムツミは座り込んでた。


「何やってるんだよムツミ、先生は?」

「……」


「ここに居ても仕方ないだろ、教室に戻ろうぜ」



声をかけても、無反応。

ムツミは膝の上に腕をのせて、うな垂れてる。顔も見えない。


面倒みきれないな。本当に帰っちまおうか。

そう思った時、ムツミは声を出した。


「みんな、いなくなっちゃう」



ああ、落ち込んでるんだろ。見れば判る。

でも、俺らも我慢して頑張ってるんだ。秀治だってな。

俺はもう、倉庫の出口を見てた。



突然、気付く。

ムツミの声って、いま初めて聞いた。


変だと思う。今までも喋った事はあるのに。

何か答えなくちゃいけない気がする。ええと、どうしよう。


「あのさ、今朝、俺は親と別れてきた」

「……」


「俺、今日から学校で暮らすよ。俺の親は消えてない、死んじゃったわけじゃないし」

「……」


「また会えるだろうし、大した事ないよな」



思いついた事を喋っただけ。

アンドゥー先生みたいな慰めになってない。会話スキル・ゼロ。


でも、ムツミは顔を上げた。

驚いたような表情で、こっちを見る。


「そっか、消えても、死んじゃった訳じゃないんだ」


「え?ああ、確かにそうだよな」


「わたし周りを見てなかった。消えるって事をちゃんと考えてなかった」


「俺も考えてないよ。俺ってバカだから」



ムツミは、笑った。

そしてすぐ、シャキッとした顔になる。


「ありがとうナヲキ。わたし、もっと疑ってみる」

「先生も言ってたな、疑って疑って、みたいな」

「うん」



ムツミと初めて、言葉が通じあった気がする。

手ごたえを感じる。


ムツミは、その場で立ち上がろうとしてる。

俺は手を貸す。手ごたえを確かめるように。


ムツミは、俺の手を握る。

俺はひっぱり上げて、立つのを手伝う。

相手は女子だからな。これが男の優しさ……


おい、引っ張りあった結果、俺が倒れちゃったぞ。

なんだこりゃ。マットの上で、俺が上で、ムツミが下で……


「……」


ムツミの真顔が至近距離。こっちを見てる。

ほんの一瞬だ。ムツミは、きゅっと歯をくいしばって、俺を押しのける。


「おうふっ」



俺が立ち直る前に、ムツミは駆けていく。

倉庫の扉が、ゴロゴロッとなって閉まる。辺りが真っ暗になる。


「おいムツミ?この扉、閉まってない?どうやって開けんの?」



______________________________




「おーいナヲキ、無事か?」



秀治の声が聴こえる。扉が開かれる。懐中電灯の光。

俺は倉庫の真ん中で、うずくまってた。

もう誰も、助けてくれないかと思った。


「ナヲキ、ごめんね?わたし取り乱しちゃって……」



ムツミが肩に触れてくる。謝ってるけど、いいんだ。


「われ思う。ゆえに我あり」



倉庫の暗闇のなかで、俺も色んな事を疑った。

疑って疑って、最後に思ったのは、やっぱり人間、腹が減ると頭が回らないって事。



そんなわけで教室に戻り、俺はパンをもりもり食べる。

教室にはアイトが来てた。


「アイト、お前なにしてたんだよ」

「一旦、家に帰ってた。今後に備えて荷物をまとめてたよ」



アイトは自前のリュックをごそごそやって、カップ麺を出す。


「これ。ナヲキがうちに置いてっただろ。返すよ」

「ああカレーうどんか、このフタ、アイトにそっくりだよな」


「ホントだ、この絵アイト君だね~」



ミラノが覗き込んできて、同意してくれる。

やっぱりこいつのアライグマ属性は、誰もが認めるところだ。


「なんだよ失礼だな」



アイトは”アライグマ印のカレーうどん”を机に置く。

交換だとばかりに”大納言パン”を見つけて頬張っている。


秀治がみんなに呼びかける。


「明日も校内をくまなく見て回ろう。アンドゥー先生の捜索と同時に、使えそうな備品を見たら教えてくれ。この教室にかき集めよう」



その方針でいいと思う。


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