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世界人口・1073741824


起きてすぐ、出かける支度をする。


母が、パンとかバナナを用意してくれる。

それをリュックに詰める。


「これだけでいいの?」

「充分だよ。うちの分も必要だろ」


「ゆうべ山梨の実家と連絡がついたの。あっちも大変よ」

「ふうん」


「もともと静かな町が、ふた晩で限界集落になっちゃったって」

「やっぱ、どこも人が消えてるんだ」



俺の家は、両親が健在なだけでも幸運か。

俺のスマホと、両親の分も持つ。学校で充電させてもらおう。


出かける。

すっかり四月の正月モードになった道を行く。

犬カップルを横目に学校を目指す。



教室へ直行した。

教室ではアイトと秀治が寝てて、アンドゥー先生がお茶をすすってた。


「来たんですかナヲキ君。歓迎しませんよ?」

「あれ、女子は」

「隣の教室です。一応プライバシーを確保です」



アンドゥー先生は、湯呑みに視線を落としてる。


「……水の味が落ちてます」


「水道の水、沸かしてるんですか?」

「ええ。上水道のどこかで故障か、滞留が起こってるかもしれない」



先生は、なんか態度が落ち着いてる。

昨日と比べると、ふっきれた感じだな。


しばらくすると、アイト・秀治が起きだす。

ムツミは登校してた。みんな合流して、食事をとる。


全員でも食べきれない大量おにぎり、漬物と唐揚げ。

ムツミがみんなに振舞う。朝食は充分だ。


「先生もどうぞ」


「頂きましょう」



食べてるうち、教室で宿泊した連中も頭が起きたらしい。


「朝食が終わったら、みんなに見せたいものがある」

「え~秀治クン、なになに~」


「秀治、君は無粋だな。朝っぱらから見せるものじゃないだろ」

「うるさいアイト。早く情報共有した方がお互いの為だ」


「まあ、外で遊んだらどうですか?せっかく6人もいるんだから」

「さんせ~い」

「うんうん」



アンドゥー先生に促され、俺たちは校庭へ出ることにした。


俺はアイトに近寄る。

いい加減、こいつの真意を確かめておきたい。


「おい」

「なんだいナヲキ」


「なんだいじゃないじゃない?」

「なんじゃい?」


「アイト、お前たしかチャンスとか言っただろ?何がチャンスなんだよ」

「ええと、そんな事いったっけ」


「とぼけるなよ。お前、何か企んでるだろ」

「ああ。気付いちゃったのか」



アイトは表情を変える。悪いアライグマの顔だ。


「もう計画は進行中だよ。見ろナヲキ、この学校の有様を」

「ありさまって、誰もいないよ。俺たちだけじゃん」


「誰もいない、管理する者もいない。つまり無政府状態さ」



おい、めっちゃ不穏なこと言うぞ、このアライグマ。


「アンドゥー先生は管理者の代行になってるけど、あの人柄だ。むしろ助かるよ」

「まあ、憎めないタイプだよな」

「そういう事だよナヲキ。せいぜい楽しもうじゃないか」



そこまで話すと、アイトは校庭をずんずん歩いてく。

いまいち、企みの中身がわからん。



「ムツミって~、ハンドボール部だったよね。エース?」

「全然だよ。レギュラーにも、なれそうにないし」

「な~んだ。でもあたしたち2年だし、当然ってかんじ?」

「うん、うん」


「じゃあ、ハンドボールやろうか」

「秀治クン、それ本格的すぎ~」

「……それじゃ、ドッジボールしよう」



秀治が決めた。男女混合でドッジボールか。

ま、手加減しないとな。それが男の優しさだよな。


ジャンケンでチーム分けする。俺は秀治、莉々と一緒のチーム。

向こうはアイトとムツミ、ミラノか。これハンデ大きいかもな。


「いっくよ~」



ミラノが第一投で開始。

莉々に向けてボールを、へろっと投げる。

莉々ちゃん、難なくキャッチ。


「はい」



秀治にボールを手渡してる。

ボールを手にするなり秀治は、叫ぶ。


「うおおおああああっ!」



どうしたんだ、と思った瞬間ボールはアイトの顔面へ飛ぶ。


「ヒッ!」



アイトは這いつくばって避ける。いきなり緊張が走る。

秀治、ドッジボールしたかったのは、これか。アイトに私怨をぶつけるのか。


ムツミが場外へ飛んだボールを拾って、アイトに投げ渡す。

受け取ったアイトは必死の形相、両手投げで情けない投球。

コントロールも駄目駄目だ。

ボールは、俺の手元に収まった。


「秀治、アライグマ退治なら付き合うぜ?」

「お前も感じるかナヲキ。あいつは人類の敵だ!」



本物のアライグマは、見たかんじ可愛いし、元々ぜんぜん悪くない。

ペット目的で日本へ輸入され、うまく飼えなくて捨てられた奴らが、野生化してる。

だから元はと言えば、人間が悪い。そう聞いたことがある。


でもアイト、お前は悪だくみをするアライグマ人間だ。

覚悟せいや。


「ぐはあっ」



狙って投げたボールは、アイトに直撃。やったぜ。

アイトは外野送りだ。落ちたボールをムツミが拾う。


ムツミは手慣れたかんじで、ボールをツイツイと回してる。

でもまあ、所詮は女子だ。優しくあしらって


「ぶべほあっ!」



俺の顔面にボールが、意識がちょっと落ちかかった。

どういう事だ、ムツミ……


ムツミは少し腰を動かして、こっちの様子を見てる。

それだけで、俺は察した。


(弱い者いじめ、ダメ)



そう言いたいんだろう。

図らずも、アイトを守る女子が現れたってわけだ。

それじゃあ俺も、少しだけ本気を出すか……



_______________________________




ドッジボールは白熱した。チーム換えしながら対戦しまくった。

俺もかなり痛い目に、いや楽しませてもらった。

……帰宅部って不利じゃん。



遅い昼めしを済ます。おにぎりと俺が出したバナナ、パン。

まだまだ残ってるし、明日まで保ちそうな量だ。


教室には俺たち6人と、アンドゥー先生が集まってる。

秀治はPCモニターの前に座り、みんなを見渡す。


「この中で、誰かが消える瞬間を目撃した人は?」


「見てないけど、消えたよって話はたくさん聞いた」

「うん」



ミラノと莉々は、友達から伝聞したようだ。

ムツミは頬に手を当て、じっと考えてた。


「わたしも、直接は見てない」

「ああ、俺もだな」



俺も頬に手を当てた。頬にドッジボールの痛みが残る。



「この動画を見てくれ。海外のショート動画だ」



秀治は再生する。みんなモニターを注視する。


……夜中の、寝室だろうか。

パジャマ姿の女性が、化粧台から立って歩く。

たぶん旦那が撮影してるんだろう。


歩く、歩く、消える。


何の前触れもなく、女性が画面から消えてなくなる。


なんだか判らない叫び声。旦那の声だろうか。

動画は、ほんの数秒で終わる。



「恐らく、これが真相だ」


「これって~、フェイク?」

「フェイク動画だと疑われても、まあ当然だろうね」


「これ普通に、パッと消しただけじゃない?」

「……」



ミラノは納得いってない様子だ。

俺も、ああ消えたな、みたいな感想だ。

アイトが得意げに喋る。


「非常にスマートな消失だよね。僕の予想通りだったよ。これは純粋な現象だよ」

「純粋って、意味わかんないんだけど~」


「人が消える、それだけだよ。前兆もないし物理的な痕跡も一切残さない」


「服ごと?」



莉々ちゃんがそう言うと、アイトは急に興奮する。


「そこなんだよね!服ごと消えるのって、ヒトの境界がどうなってるか曖昧だよね。胃の内容物も消えたのか?どこまでが本人なのか?哲学的で興味深いよね!」


「そんなのお前だけだ」


秀治が言い捨てる。俺もそう思う。この変態アライグマ。



_________________________________




夕刻、外が暗くなる。

教室では何本かローソクをつけてる。燃料節約のためだ。


しかし秀治たち、あんな動画を見せて何のつもりだ?

ミラノは落ち着きがない。ムツミは落ち込んで見える。



みんなの口数が減った時、アンドゥー先生が話す。


「われ想う、ゆえに我あり」


「何ですか、それ」

「ルネ・デカルト、17世紀に活動した学者の言葉だよ」


「名前とその格言は知ってます」

「詳しいね秀治くん。私は本来、倫理分野が専門。うちの学校じゃ履修しないけどね」



なんだ、難しい勉強の話かよ。


「この言葉、そのままの意味だよ。”想う”ことこそが、私の存在を示す」

「想うこと……」


「世の中の出来事、見たもの聞いたものが、まるで当てにならない事もある。疑って疑って、それでも疑いようがない真実、それは何かを想う自分という存在よ」



説明は判んないけど、別のことが判った。

アンドゥー先生の目だ。

女子の方をよく見てる。これ、慰めてるのか。


「いま、信じられない大惨事が起こってる。正直いって私もお手上げなのよ。でも君たちは等しく、何かを想う能力を備えてる。迷ったらそこに立ち返って、生きてみて欲しいのよね」



お姉コトバで、女子たちを慰めてる。

まあ先生らしいと言えば、らしい。


「最後に秀治君。あの動画、勇気を持って発表したね。偉いよ」

「……」



秀治は下を向いた。にが笑いしてる。


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