世界人口・2147483648
暗いうちに目が覚めた。
早寝しちゃったからな。
そうだ、親は?帰ってるか?
両親の寝室へ行ってみる。
ドアをそっと開けると、ローソクの火がともってる。
「ナヲキ、起きたか」
「親父、無事だったんだ」
「ああ、スタッフが欠員だらけで仕事にならないがな。お前もしばらくは」
「とりあえず学校行くから」
「高校も授業どころじゃないだろ、お前も家で」
「ヒマだからさ、行くよ」
母も眠ってた。ひと安心だな。
停電は不便だけど、朝を待って時間つぶして、出かける。
授業は無さそうだから、普段着だ。
外はやっぱり静かで、ポメラニアンも目撃した。
チワワが彼女か、うらやましくないぞ。この畜生め。
土手にあがる。事故車も放置してある。
パン屋も閉まったまんま。
この雰囲気、静けさ。なんというか……正月?
そうだ、お正月の静けさだな。いま4月だけど。
俺は正月気分で校門まで来る。
するとアライグマが学生服を着て、立ってる。
「アイト」
「遅いじゃないかナヲキ」
「普通だろ。それより」
「それより見なよナヲキ、校門が開放されてるよ」
「ああ、昨日も開いてた。秀治たちと会った」
「それじゃ教室に行かないとね」
アライグマが玄関に進む。俺に構わずどんどん歩く。
教室の扉も開きっぱなしだ。中に入る。
部屋の中央に座った秀治が、真っ先に目に入る。
「なんだアイトか。ナオキは皆勤賞狙いかい?僕もだよ?」
「なんだとは失礼だね秀治。君はこの状況をどう分析してる?」
おいアイト、なんでいきなり秀治に絡むんだよ。
「原因不明としか表現できない。世界中で人が消えた。その現象に何の作為も読み取れない」
「甘いね秀治。君は常識に捕らわれすぎなんだよ」
秀治は、憎々しげにアイトを見る。
それで俺は察した。こいつら、元から仲が悪いのか。
アイトとはけっこう前からの付き合いだけど、知らなかった。
「今の状況は、ボードゲームに例えれば簡単に理解できるんだよ」
「やめろアイト。お前は人を混乱させる。前からそうだった」
「君たち、議論は構わないけど、帰ってからにしない?」
おっと、先生に仲裁された。
いきなりアイトvs秀治だったから気付かなかった。社会教師のアンドゥーが居る。
「校内に居残りされると困るんだよね」
「まだ朝ですよ先生。居残りと表現するのは不適切です」
「いやあ、そうじゃくて、帰ってくれないと管理上問題があるんだよ」
アンドゥー先生は白髪頭をポリポリしながら、弁解してる。
「私自身も正直、帰りたい。でも勤怠管理がどうなってるか判んないのよね」
先生は時々、お姉コトバが出る。オッサンなのに。
「先生、こんな非常事態だからこそ、われわれ生徒に便宜を図って下さい」
「うん非常事態なのは、非常に納得できてるんだけどね」
「僕は帰宅困難なので、昨晩ここで宿泊を許可して貰いましたけど?」
「なら僕もです。今晩はここに泊ります」
アイトと秀治が、アンドゥー先生を挟み撃ちにしてる。
「いやね、私が言いたいのは君たちに万一の事があったら、責任の所在がね」
「お邪魔しま~す!あらアンドゥーちゃん、ご機嫌いかが?」
そこへ、ミラノがやってきた。なんか洒落た私服姿で。
その後ろに、莉々も私服姿で。
「アンドゥーちゃん、学校に予備のコンセントがあるってホント?」
「え、ああ予備電源ね、当然あるけどね」
「スマホの充電したいから貸してよ、お願いっ」
「ああそれ、困るんだけど。無理じゃないけど困るのよね」
先生、挟み撃ちからの追い打ちで可哀想になってくる。
で、しばらく経ってから。
教室にコンセントのついたケーブルを引っ張ってきた。
職員室のある管理棟の方から、ずーっと延長してきた。
「これで停電してても快適に過ごせるよ」
「非常発電機の燃料があるうちは、という条件付きだろ」
「君たち、本当に居座るつもり?」
「勿論です」
「え~面白そう、あたし達もくつろいじゃう?」
「うんうん」
莉々ちゃんまで乗り気になってる。
早速スマホの充電を始めてる。
莉々ちゃんは、電話をかけ始める。
「……ムツミ?」
えっ、ムツミ。
なんだか気まずい思い出が、蘇るんだけど。
どんな通話をしてるのか。
「ねえアンドゥーちゃーん、お腹すいたー」
ミラノ、声がでかい。
俺は、莉々ちゃんの通話を盗み聞きしたいんだ。
「学食になんか残ってる?おごって?」
「学校はレストランじゃないよ。我がままは言わないでよね」
「秀治、僕らも腹減らない?」
「……まあ、それには同意するけど」
「よし行こう、ナヲキ」
なんだか話がまとまってる。学食に行く流れになってる。
莉々ちゃんは話が済んでしまった。スマホをしまってミラノと歩いてく。
廊下には、俺たちしかいない。もちろん食堂も無人。
学食と言っても、用があるのは食堂の手前、購買部だ。
袋詰めのパン、牛乳瓶、弁当が並んでる。
「おごらないからね、各自、代金は置いていくこと」
「サンドイッチある~、いっただき~」
「これと、これ」
「弁当か、ここの電子レンジ、教室に運んで使おうよ」
「そうだな」
「ちょっと君たち、静聴しなさい!」
さすがにアンドゥー先生、キレた。
「事態が事態だから大抵の事は目をつむるよ。でも強奪はいけませんよ」
「でも先生、僕、無一文なんだけど」
「持たざる者は食うべからず。あとミラノ君、サンドイッチは傷んでるかもしれませんよ」
「え~……」
空腹にまかせて大騒ぎしてた俺たち、一気に盛り下がる。
どうするんだこれ。
「あの、先生」
「あれムツミ君?いつの間に来たんですか」
ムツミ?
振り向くと、ジャージ姿のムツミが立ってる。
莉々ちゃん、電話で呼び出してたのか。
「わたしも、お財布もって来てないです」
「うーん、それは困るんだけどね」
「後払いでいいですか?みんな戻ってきたら、必ず返します」
「ああ後払いね、うーん特例としては妥当かな、いやしかし……」
「じゃあ僕も後払いで」
「せっかくだから全員、後払いOKってことね、アンドゥーちゃん?」
「判った、判りました!ただし痛んでる物は自己責任で」
アンドゥー先生と取引が成立した。
俺たちは安心して、うまそうな物を漁る。
俺は取りたいだけ取って、その場を離れようとした。
「まって」
莉々に引き留められた。
いつの間にか手帳を開いてる。ペンを構えてる。
「品物を見せてくれる?」
今度はムツミが声をかけてきた。
俺の手から、食い物の品々を確認してる。
「ソースカツ弁当」
「はい」
「3色パン」
「はい」
「欲張りチキンボリュームセット、2個」
「……はい」
ムツミが読み上げて、莉々がメモってる。
いつの間にそんなシステムを決めたんだ。
俺が感心してると、ミラノが取った食い物も、同様にメモしてる。
「エキゾチックパスタ」
「はい」
「マロンクリーム協奏曲・最終章」
「……はい」
「雑炊プリン・ア・ラ・モード南国バージョン復刻版」
「…………はい」
こうして、誰がどの品を後払いにしたか、メモされた。
先生の厚意で、職員室からお茶を分けてもらい、教室で飲み食いした。
昼下がりになると、女子たちは校庭に出ていく。遊ぶ気らしい。
秀治は、電源が復旧したPCを弄ってる。
「アクセスできないページが急増してる。サーバーの問題かな」
「ショート動画の投稿サイトがあるだろ?まだ機能してたら個人動画を参考にしよう」
「仕方ない、その線で行くか」
アイトと相談して、あとは黙々と情報を集めてる。
俺はヒマなので、自分のスマホでゲームする。オフラインで遊べる奴だ。
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「君たち、本当に泊まっちゃう積もり?」
「はい、僕も帰宅困難なので」
「あたしも~」
「うん、うん」
外は暗くなってきた。
俺も泊まろうかと思ったけど、家が近いし、どうしようかな。
近いって言えばアイトも近所だろ。こいつ何か企んでやがるな。
「わたしは帰る。明日、おにぎりでも用意してくるよ」
「ムツミ、それ超たすかるんだけど~」
「購買部の物は、もう食えそうにないからね」
「じゃあ、俺は家からパン持ってくる」
「ナヲキ、僕は”大納言パン”がいいな」
「贅沢いうんじゃねーよ。あったらな」
そんな流れで、俺は家に帰ることにした。
学校は、発電機でスマホ充電できるから家よりマシだ。
適当に食糧をもって、明日も登校しよう。
土手のほうへ歩き出す。すると声をかけられた。
「ナヲキ」
「あっ、ムツミ」
ジャージを着たムツミが、自転車を押して近寄ってくる。
「家、近所なんだね」
「うん、まあね」
「……」
歩いて通えるから、今の高校に入ったんだよな。
それより、気まずいのは勘弁してくれ……
「昨日は、ありがと」
「えっ」
思わず、ムツミの方を見る。
ムツミは自転車に乗って、方向転換してた。
「また明日」
去っていく。夜の暗がりに自転車のライトが、揺れていく。
まあ、良かった……のかな?




