世界人口・262144
目が覚める。発電機の音がやかましい。
ここは物流倉庫。住み慣れた教室じゃない。
発電機にコンセントを接続し、ムツミ達が電気ポットや冷蔵庫を準備してる。
「ナヲキ、あっちの通用口に洗面台があるよ」
「そうか、そりゃ助かる」
「朝食を摂ったら、男子で探索チームを編成しよう」
「オッケー」
忙しくなりそうだ。
トイレや洗顔を済ませる。洗面台は最低限の小さいサイズだった。
それから熟したバナナ、ナッツ、カップ麺を朝食にする。
今日は、7人が住めそうな場所を探しに出掛ける。
秀治、俺、ツトムンガー。
男子のチームで自転車に乗っていく事にする。
「わたしも行く」
「いいのかいムツミ、長距離の探索になるかもしれないよ?」
「うん、平気だよ」
「そうか、自転車は4台あるし、じゃあ4人で行こう」
留守番メンバーが安全に過ごすため、シャッターは下げておく。
広い駐車場から出発する。
自転車をこぎつつ、俺たち4人は相談する。
「この物流センターには、悪臭は来てないよね」
「そうだな。ここよりイナカだったら問題ないと思うゼ」
「いっその事、しばらく倉庫で寝起きする?」
「わたしはイヤだな。お台所がある方がいいよ」
「ムツミの意見も参考にしよう。調理場と、寝場所の整った物件がいいよね」
「じゃあ、そんな建物を探してみようゼ」
俺らは一旦バス通りに沿って、大きな川の橋を渡る。
河川敷のまわりは、悪臭とも無縁だ。
遠くにはビル街が見える。俺らは橋を渡ってから、川沿いに進んでみる。
「よお、あの辺のマンション、どうせ無人だろ。入ってみるか?」
「そうはいかないよ。僕は公共施設を探すべきだと思う」
ツトムンガーと秀治は、話しながら先を進んでる。
俺は、隣りを走ってるムツミを見る。自転車の速さで髪がなびいてる。
ムツミは、河川敷の方を見ていた。
大きな犬が数頭、草地にたむろしてる。
「犬ばっかりだな」
「うん」
「誰か、見つかるといいよな」
「うん、そうだよね」
ムツミはこっちを向く。その途端、びっくり顔になってる。
「どうしたん」
「ナヲキ……人がいる」
そっちを見ると、確かにいる。一戸建て住宅の前にいる。
厚手の服を着こんでて、よく判らないけど、大人の女性だろうか。
秀治たちを呼び止め、俺らはその場に停まる。
1人だけみたいだけど、貴重な住人だ。
「僕が話しかけてみよう」
「でもよ、何だか挙動不審じゃねーか?」
よく見ると、確かにおかしい。
女性は肌が見えないくらい服を着てて、両手にボロ布をぐるぐる巻いてる。
その格好で何か工具を使って、家の窓を叩き割ってる。
見た感じ、空き巣狙いみたいだ。
「こんにちは!」
秀治が近寄って挨拶する。おい大丈夫かよ。
女性は無反応だ。割った窓から手を差し伸べて、ガラス戸を全開にしてる。
「ちょっと怖いね、ナヲキ」
「そう、かも……俺は全然余裕ですけど?」
ムツミは俺のすぐそばに来て、女性の様子を見てる。
秀治は懲りずに、まだ話してる。
「お忙しいところ済みません、少々お話できますか?」
「……放っておいて」
お、返事をした。
女性は、家の中の様子を気にしてるみたいだ。立って秀治と話してる。
「失礼ですが、何をなさってたんですか?」
「したい事をしてるだけ。君達とは関係ないから」
民家の窓を壊して、したい事をしてるだけ。
ちょっと意味が判らない。
そんな感想と共に見ていると、屋内から猫がでてきた。
可愛いネコだ。毛並みはサバで、種類はわかんない。
ネコは女性をしばらく睨みつけてから、超スピードで逃げていった。
「用は済んだ。さようなら」
「あの、家から猫を救出してたんですか?」
秀治が問いかける。しかし女性はそのまま、立ち去ってしまった。
俺らは、しばし呆気に取られた。
「よう、えらく不愛想な生き残りだったな」
「なんか話が、通じなかった?」
「でもあの人、猫を助けてたんだね」
「おそらくそうだね。閉め切られた家屋で猫が出られず、それを救助してた」
「あ、飼い主が消えちゃってたのか」
「たぶん、そうだよね」
「ムダな事をするよな。外界に出しても、あのネコ生き残れねえだろ」
「あの女性の行動は間違いだね。ペットに手を差し伸べるなら、最後までケアすべきだ」
……秀治の主張は、まあ判るんだけど。
でもそれって、普段通りの生活ができる時の話だよな。
時々、秀治のセンスに付いていけない事がある。
それはともかく、俺らは自転車に乗る。
まともに暮らせる場所を、探さないといけない。
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さらに移動した先で、俺たち4人は停車する。
「ここなんかどうだ?地元の集会所みてえだが」
「全部、閉め切られてるな」
「こんな感じの建物って、生活できそうだよね」
「そうだね、一応は候補地としておこう。いざとなったら……」
「そん時はこじ開けよう。俺らだって非常事態だゼ」
川沿いの道で、7人全員が住めそうな建物を見つけた。
秀治は乗り気じゃないけど、誰も居ない場所なら、使わせてもらうべきだな。
「どうする?他も探してみる?」
「そうだね。しかし能率が上がらないよね、ナビも使えないし」
「どこかに本屋でもあれば、ロードマップで調べるんだがな」
「わたし、地図もってるよ」
「ナイスだよムツミ、ちょっと見せ、て……」
ムツミを見る。しかしムツミは手ぶらだ。
ジャージ姿の背中に、手を持っていってぽんぽんしてる。
でもリュック背負ってないでしょ。
「ごめん、置いてきちゃった」
「ドンマイ」
俺らはそこで、ひと休みする事にした。
秀治が用意してた、ペットボトルの飲み物を皆に配る。
ひと口、飲んだところで聞き慣れない音が響く。
辺り一面に響く。轟音だ。
「隠れろ」
ツトムンガーは言うなり、自転車を両腕につかんで集会所の裏手に走る。
俺たちも、よく判らないまま後に続く。
「なんだ?今の音」
「俺も良く判らねーが、物騒な気がしたゼ」
ツトムンガーは建物の陰から、遠くを伺ってる。
やがて、音の正体を突き止めたらしい。
「見てみろ、あいつら自動小銃を持ってやがるゼ」
「えっ」
俺も、そっちの方角に目を凝らしてみる。
男が3人見える。全員が銃みたいな物を手にしてる。
道端で、ひとりが何かを足で転がしてる。
「野犬を撃ったみたいだね、彼らの服装、あれは陸上自衛隊か」
「秀治、確かに陸自の服みてーだが、気をつけろ」
「自衛隊の人なら、助けてくれないの?」
ムツミが遠くの光景を見て、そう訊ねる。
もし本物の自衛隊なら、災害時に活躍してくれるだろう。でもあれは……
「考えてみろよ、もう組織として機能してるわけが無ぇだろ」
「残党、って感じなのかな」
「ナヲキ、それも有りうるが、奴らは銃と制服をせしめた部外者じゃないかと思うゼ」
「つまり、僕らに対して友好的とは限らないのか?」
「おい秀治、マシンガンぶっぱなす奴らが、俺らを丁寧に扱ってくれると思うか?」
ツトムンガーの判断は、合っていそうな気がする。
距離が遠いから、さし迫った恐怖は感じない。
でも武装した男たちには、絶対に近寄りたくない。
彼らが見えなくなるのを待って、ひとまず帰還しようと決めた。
外を探索して、消えてない人は発見できた。できたけど……
あまり嬉しくない遭遇だったな。
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物流倉庫へ戻ってきた。
莉々とミラノが、料理を作って待っててくれた。
野菜を煮込んで、トマトで味付けしてある。
炊きたてゴハンもある。カマボコや漬け物もある。
俺らは空腹だったので喜んで頂く。
なおアイトは、倉庫の片隅でスマホを覗き込んでた。
オフラインでゲームでもしてたのか。
食事中、探索チームが見てきたことをミラノ達に報告する。
「銃もってる人って、危なくな~い?」
「危ないよ。あっちには近寄らない方がいいよ」
「不自由」
「今日の所は無駄足だったな。ちっとばかり悔しいゼ」
「……そうだな」
ツトムンガーは喋りつつ、めしをガンガン食ってる。
秀治は、食が進まない。考え込んでる様子だ。
アイトは無表情で、黙々と食事してる。
こいつは何を考えてるのか、まるで判らない。
今日は身動きが取れず、また倉庫で眠ることになった。
食糧の心配はない、でも寝心地はイマイチだ。




