世界人口・131072
今朝も、発電機の音で目覚める。
倉庫のシャッターはもう開いてて、光が差し込んでいる。
朝の仕度をして、簡単に食事する。
今日も探索をする流れだろう。
俺は自転車をこぐ積もりで、食って鋭気を養う。
帰宅部のハンデがあるし、頑張らないと。
「みんな、ちょっと聞いてくれ」
秀治が呼びかける。全員揃ってる。
「これから長野を目指して移動しようと思う。僕の叔父が住んでる」
「え~、ずいぶん急な話じゃない?」
「どういう積もりだ秀治。俺らを誘って里帰り、でも無さそうだが?」
「叔父がまだ消えずに居るかは、不明だ。でも叔父は、猟銃を所持してた」
「……そうか、銃が目当てか。真っ当な判断だと思うゼ」
いや、真っ当じゃないだろ。
俺はまず、そう思った。でも秀治が銃を手に入れたい理由も、判る。
昨日の男たちを見たからだ。
ツトムンガーは賛成みたいだ。
「猟銃って、単発のライフルかショットガンだろ。無いよりは断然マシだゼ」
「護身用ってこと?」
「その通りだよ。万一に備えて、威嚇の為にも必要だと考えたんだ」
「いいと思うゼ。ここから長野までは、徒歩でも行けるだろ」
「ああ、リヤカーに物資を積んでいけば、充分に可能だと考えてる」
秀治とツトムンガーの意見で、方針は固まってる雰囲気だ。
でもそこで、アイトが口を開く。
「君らの愚かさには愛想が尽きたよ。僕は下りるよ」
「おいアイト」
アイトはひょっこり立ち上がる。
大きなリュックを背負い始める。
「ようアイト、銃があれば、獣だって狩れるんだゼ。違うか?」
「違わないよ。山あいで狩猟するのも、ひとつのライフスタイルだね」
「だったら何が愚かなんだ?ハッキリ言ってみやがれ」
ツトムンガーは睨む。凄む。アイトはビクッと震えてる。
天敵に吠えられたアライグマみたいになってる。
「そ、それなら言うよ。僕は逃げる、逃げるのが賢い、それだけだよ」
「ハッ、ただの臆病者じゃねーか」
アイトは言葉だけじゃなく、実際に倉庫の出口方面へ逃げていく。
「待てよ、アイトッ」
アイトは本当にアイトだ。自分勝手で協調性ゼロだ。
後を追う。
アイトはシャッターから外に出るかと思ったら、出口付近をウロウロしてる。
倉庫に積まれたラックから、食べ物を漁ってリュックに放り込んでる。
「お前の考えは俺にも判るよ。でもみんなで行動しないとダメだろ」
「ナヲキ、その意見は説得力皆無だよ。僕は別行動をする」
「考え直せよ、この馬鹿!」
「そんな罵声は効かないよ。もう決めたんだ」
「……ホントに別れる気かよ、この馬鹿アライグマ」
「僕は1人でもやっていける。ナヲキは皆と一緒に行けよ」
じゃあ勝手にしろ。
俺は背を向ける。みんなの方へ戻る。
なんでアイトみたいな奴が、友達なんだ。
つくづく俺って、ツイてないよな。
……アイトとの付き合いが、誰よりも長い。
正直いえば、アイトなんかよりムツミ達と一緒に、旅立ちたい。
でも、どうしようもない。
秀治たちの前に立つ。打ち明ける。
「俺、どうしてもアイトを放っておけない。ゴメンな」
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俺もリュックを背負う。
最低限の着替えとかが、詰まってる。
「ナヲキの決断を尊重するよ。僕も、苦渋の決断を強いられたからね」
「判ってるよ。秀治もみんなを守るために、決めたんだよな」
「その通りだ」
秀治は優しい顔で、俺を見てくる。
秀治は、大人びて見える。この数日間でとても強くなった。
「ようナヲキ。お前はこの先どこへ行こうが、生き残ると思うゼ」
「そうかな?」
「そうだとも。お前って頭が頑丈だからな。サバイバル向きな馬鹿だゼ」
「ええと、意味が判んねーよ」
ツトムンガーは表情を歪めてる。笑ってるんだ。
「あ~やってらんない。男子だけで盛り上がっちゃってさ~」
「おう、済まねえなミラノ」
「……ふんっ」
ミラノはフルートを手にして、すいっと立ち上がる。
俺たちに背を向ける。
いつもの私服を着こなしてる。
でもよく見ると、服の所々がシワになってる。
こんな場所で寝泊りしたから、無理もない。
それでもミラノって、やっぱりお洒落で、優雅に見える。
「ミラノも、元気でな」
振り向きもせず、片手をチョイと上げている。
倉庫の奥へ歩いてく。
莉々とムツミは、姿が見えない。
いつの間にか、洗面所にでも行ったのか。
お別れの挨拶をしたかった。
でもモタモタしてると、アイトが1人で脱走するかもしれない。
俺はシャッターのそばで、アイトと合流する。
「1人でもやっていけるって、言ったはずだよ」
「うるせー。行くぞ」
「本当にいいの?ナヲキ」
「本当は全然よくねーよ。全部お前のせいだからな」
「僕は適切な選択をしただけさ。武装しても自分の首を締めるばかりだからね」
「お前、本当はツトムンガーから逃げたいんだろ」
そう指摘すると、アイトはびくーっとなってる。
図星じゃねーか。
「それだけじゃないよ、本当だよ」
「他に何があるっていうんだよ」
「基本的な戦略だよナヲキ。危険な人が居たって逃げればいいんだ」
「戦わず逃げる、か?ただの縛りプレイじゃねーか」
「違うよ。どのみち逃げてるだけで、僕か相手が消えるんだから」
……そこまで悟ってるのか、こいつは。
まあ俺も薄々、そんな気構えだったかもしれない。
人が消えてく世界で、今さら銃なんて必要ない気がしてる。
「銃なんて非効率な重荷だよ。ムツミ、君もそう思うだろ」
「えっ、ムツミ?」
アイトの視線が脇にずれる。
つられて、振り返る。
ムツミが立ってる。いつものジャージ姿で。
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ムツミは非常用の携帯袋を、背負ってる。
それと、毛布を丸めて固めて、片手にぶら下げてる。
「2つのチームに別れるんでしょ」
「いやムツミ、チームっていうか」
「勝手だよね、ナヲキもアイト君も」
ムツミは俺たち2人を、蔑んだ目で見てる。
ジトーッとした目付きで見据えてる。
「……わたしだって、猟銃を取りに行くのって変だと思ったよ」
「さすがだねムツミ、やっぱり君は発想が柔軟で」
「だからってバラバラになるのは、もっと間違ってるからねっ」
ムツミにビシッと指をさされ、アイトは沈黙した。
俺からは何も言わない。さっきムツミと同じことを言ったし。
「あんたたち2人じゃ頼りないから、わたしも行く。ナヲキが……」
ムツミは言い淀んで、きゅっと歯を食いしばってる。
「ナオキがアイト君と一緒なら、わたしもアイト君と一緒に行く」
「……」
「わかった?」
「ワカリマシタ」
俺としては、そう返事するしかない。
こうして、3人のチームができてしまった。
アイトもムツミも、出発の仕度はできてるようだ。
「じゃあ、行きますか」
まだ引っかかる気持ちは残ってる。
でも、仕方ないよな。出発だ。
出口のシャッターへ向かおうとした時。
莉々が、俺の前まで来た。
「莉々ちゃん、君も俺たちと行く?」
声をかけてみる。莉々は、無言だ。
ただ、俺をじっと見てる。見上げてる。
莉々の表情は、いつもと変わらない。
なんとなく、見てると安心できるような、穏やかな感じ。
……思い返すと、莉々の顔は、どんな時も変わってない。
常に一定だった気がする。
その表情のまま、莉々は少し横を向く。
「ムツミ」
「どうしたの、莉々?」
莉々は手提げカバンから、手帳を取り出す。
それを、ムツミに向かって差し出す。
「受け取れないよ莉々、だってこの手帳は」
その手帳には、俺ら全員が後払いにした品物を、全部書いてある。
ムツミが読み上げて、莉々が書きこんだ手帳。ふたりの手帳。
「何をしてるんだい?別の紙に転写すればいいじゃないか」
「おいアイト、こっちに来い」
「なんだよ」
「いいから来い、大事な話だ」
俺はアイトを引っ張って、先にシャッターから出る。
この空気が読めないアライグマを、ムツミと莉々から引き離す。
「で、なんだい大事な話って」
「いいかアイト、よーく聞けよ」
「うん」
「なんでもない」
「どうしたんだいナヲキ、君らしくもない哲学的な問いかけじゃないか」
アイトは勝手に勘違いして、勝手に思索を始める。
俺は倉庫の前で、時間をつぶす事にする。
倉庫内から、フルートの音が聴こえてくる。
とっても軽やかな旋律。
この世のどんなものからも、自由になれそうな音色。
でも時折り、半音ずれてる気もする。
ミラノはまだ練習中だから、なのかな。
俺には、それ以上は判らない。
その音を聴いてるうち、俺には別の事が理解できた。
莉々は何があっても、ミラノと別れたりはできない。
あの2人も、長い付き合いだろうから。
莉々はムツミに手帳を渡す。
手帳と一緒に、何かを手離す。
ムツミは莉々から、手帳を受け取る。
手帳と一緒に、何かを託される。
やがて倉庫から、ムツミが出てくる。
その足取りは、しっかりしてる。
「このまま出掛けようか、ムツミ」
ムツミは俺のすぐ前に立つ。
しっかりしてる。でも目だけは違う。泣き腫らした目をしてる。
俺はムツミの、片手を取る。
手をぐっと握る。
ムツミは、握り返してくる。
俺よりもっと、もっと力強く。
「行こうぜ」
「行こう」
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俺ら3人は、2台の自転車に分乗してる。
俺のこいでる自転車。背後からアイトが抱きついてる。
アイトの背負ってるリュックのせいで、やたら重い。
かといって、アイトを降ろせるか?降ろせない。
だってムツミの後ろにアイトが乗るなんて、あり得るだろうか?
ないない。この疫病神アライグマがムツミに抱きつくなんてあり得ない。
俺は必死で、ムツミの自転車に追い付こうとしてる。
周りは真っ暗。いま何時なのかも不明だ。
「駄目だムツミー、このあたりで野宿しよう」
「なに言ってんのよ、泊まれる所みつけないと」
どれくらい走ったか、見当もつかない。
俺たちは、どこかのバス停に辿りついた。
停留所には、屋根と、木で囲ったベンチがある。もうここで一泊するしかない。
3人でベンチに座り込む。
懐中電灯でアイトの背中を照らす。
アイトのリュックを開いて中身を漁る。
チョコレートやビスケットやビーフジャーキーがどんどん出てくる。
俺とムツミで、片っ端からばりばり食いまくる。
「ちょっとちょっと、僕の分も残してよっ」
「まだこんなにあるじゃない」
「そうだ、ケチケチすんなっ」
食べるだけ食べて水を飲んで、ごろんとベンチに横たわる。
めっちゃ疲れた。
「ずいぶん進んだね。バス停の地名も、まるで記憶にないねえ」
「ああ、全然わかんねー。なんか空気がオイシイけど」
「しょーがないね、わたしの地図で現在地を調べよう」
「おっ、さすがムツミさん」
ムツミが携帯袋をごそごそやってる。
そして自信たっぷりに、1冊の教材本を取り出す。
◇高校生向け・ひと目でわかる世界の地図帳
(世界地図帳……だと……)
暗闇のなか、俺もアイトも固まった。
※あとがき※
読んで下さり、本当に有難うございます。
今回のエピソードで、物語は大きな節目を迎えました。
ここまでのお話は、いわば「学園編」でした。
ナヲキ達は高校内での生活から、人の減った外界へ飛び出していきます。
アイトを見捨てられなかったナヲキは、今後どんな珍道中を体験するのか?
ムツミとナヲキは、これからどんな絆で結ばれていくのか。
この作品、今は、リアルタイムでひっそりと投稿したばかりです。
なので、読んで下った方の”感情”は、作者である私には全く把握できてません。
「面白い」とか「続きが読みたい」とか思った人が、果たして存在するのか。
いずれは「世界人口・65536」から先の世界を、新シリーズとして発表したいです。
どこか需要のある場所、感情がわかる場所で。
今後も、実験的な短編をポツポツと投稿していきます。
どれもコメディ主体のお話です。わたしコメディしか書けないので!
もしタイトルが目に留まったら、ぜひ読んでみてください。




