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世界人口・1048576


パン、と破裂音で目が覚める。

なんだ?周囲を見まわす。


風船か。教室に漂ってるのが、割れたんだろう。

室外を見ると、今朝は晴れている。


「おはよ……この部屋、なんか臭わない~?」

「えっ、そうかな」

「とりあえず換気しようか」



女子達がやってきて、男子連中もすでに起きてる。

秀治が窓を開ける。しばらくすると、全員が気付く。


「どうやら気のせいじゃないね、この悪臭」

「外から来てるのかな?」


「とりあえず閉めちまおう、朝メシがまずくなっちまうゼ?」



__________________________________




洗面や朝食を済ませる。

閉め切った教室内は、まだ少し臭う。


俺ら6人は、椅子に座って相談してる。

アイトは不在だ。どうせ早起きして、例の部屋に入り浸ってるんだ。


「食べ物が傷んだ臭いかな」

「ちょっと違う気もするんだよな。ドブ臭い気がしたゼ」


「僕もそう思った。ひょっとしたら、下水道が機能不全を起こしてるかも知れない」

「ドブが溢れたって事か?」

「簡単に言えばそうだよね。地下化してるから、普段は意識してないけど」


「それで、どうする?」

「しばらく、様子を見るしかないかな」


「消臭」

「そうだね、莉々、買い出しに行こうよ」



たぶんそれがイイよな。

消臭剤もワンコインショップで買えるのかな。

まあ付いていけば、判るか。


「じゃあ僕らも一緒に行こう。ところでアイトの奴はどこだ?」

「まさかアイト君、消えちゃってない?」



いや、あいつに限ってそれは無い。


「俺、居場所わかってるから叱ってくるよ。皆さん行ってらっしゃい……」



教室を出て、階段で別れる。

俺はひとり、上階へ行ってアイトのジオラマ部屋に入る。


「こらアイト……うわ、めっちゃ仕上げてるよ」



一瞬、絶句してしまった。


昨日は、地形の起伏ができてる程度だった。

今日は、山に木々が生い茂ってる。(ふもと)に集落ができてる。


田舎っぽい駅に、列車が停まってる。

駅前はロータリーで、タクシーが停まってる。

俺のすぐそば、教室出口いっぱいまで、田園風景になってる。


「ナヲキ、足元に気をつけてよ?」

「判ってるよ。いっそ俺が怪獣になって、踏み壊してやろうか」

「冗談でもそんな事、言わないでよ」



俺じゃなくて、アイトが怪獣に見える。

山腹に植樹してる際中だった。巨大アライグマが山にへばりついてる格好だ。


「まだ仕上がりは、5パーセントって所だよ」

「そんな事ないだろ。えらくリアルなジオラマじゃないか」


「Nゲージの市販キットは再現度が高いから、こうして配置するだけでも相当な見映えだよね。でも風景の塗装も凝りたいし、自作パーツにも挑戦したい。本格的な製作はむしろこれからさ」

「はいはい、そうですかい」


「ところでナヲキ、また停電してるんだけど」

「秀治が発電機とめたんだろ。すぐ動かすだろ、冷蔵庫もあるし」



アイトは山の隣りで、天井を向いて嘆息してる。

かと思ったら、また語りだす。


「出発進行が待ち遠しいよ。ほら見て、駅で通過待ちしてる227系」

「だから系で言われても、わかんねーって」


「227系は西日本で活躍してる近郊型だよ。ステンレスのシルバーに深紅が映えるカラーを選んでみたよ。昭和の特急と比べれば洗練されてるけど、四季を通じて、朝から晩までの風景にも馴染んでくれる配色だよね」

「だよね、じゃねーよ」


「こっちのホームに、特急485系が通過するレイアウトにしたんだ。夢のあるコラボでしょ」

「その辺にしとけ。ところでアイト、窓を開けないのか?」


「窓?風が吹き込むと困るし、閉め切ってるよ」



そうか、アイトはジオラマに夢中で、気が付いてないな。


「窓、開けてみろよ。いい匂いがするから」

「いい匂い?まあ少し換気も必要かな」



アイトは器用に窓際へ移動する。カララッと開けて外気に触れる。

やがてクンクンと、鼻を動かす。アライグマの仕草そのものだ。


「わかったかアイト。いま、みんなが消臭剤を取りに行ってる」

「消臭か。たぶん、一時しのぎにしかならないよ」


「ん?でも無いよりマシだろ?」

「……遅かれ早かれ覚悟はしてたけどね。ナヲキ、学校生活はもう潮時だよ」



____________________________________




俺とアイトは教室へ戻り、みんなの帰りを待った。


消臭剤、というか芳香剤を大量に持って、秀治たちが戻る。

早速、教室のあちこちで良い香りを開封していく。


「女子部屋には、どれ置こうか」

「ラベンダー」

「シャワー部屋とかにも置かないとね~」



ムツミたちは忙しく働き、隣の教室へ移動していく。

俺ら男子は、教室に残って顔をつき合わせる。

アイトが口を開く。


「浄化槽が、詰まったり溢れたりしてるんだよ。学校だけじゃなくあちこちでね」

「じゃあどうする?俺らで捜索して、ドブさらいして回るか?」

「それ、キツイし、キリが無いと思うんだけど」



とても実行したいとは思えないプランだ。


「アイト、下水管が破断してる可能性もあると思うんだが」

「有りうるね。予測を立ててみなよ秀治。もし浄化槽や下水管が、修復不能になったら?」


「……悪臭は止まらない、害虫発生の温床になる、道路の陥没も起こる」

「三重苦かよ、やってらんねーな」

「これは、都市が放置されれば避けられない症状だよ。当分は悪化の一途だよ」


「逆に言えば、都会じゃなければ起こらないって事か?」

「郊外で、かつ人口の離散した地域なら、症状は散発的なはずさ」



ツトムンガーは腕組みしつつ聞いてから、アイトに確認する。


「つまりよ、お前は田舎に引っ越すのがベストだって言いたいのか」

「田舎は田舎で、暮らしが大変だと思うけどね」

「じゃあどうするよ?」


「僕は身軽に過ごすよ。旅に出ようと思う」

「おい、今度は旅人ごっこかよアイト」



つくづく勝手な奴だ、この不良アライグマめ。


「寝る場所も、食べ物も、うまく探せばどうにでもなるからね」

「しかしこの学校で築いた生活基盤を、今さら捨てる訳にはいかない」


「秀治、僕らは学校を生活圏に見立てただけさ。この幻想にずっとしがみ付く気かい?」

「そんな表現をするな!僕はみんなの為に努力してるんだ」


「まあ、まあ、落ち着いていこうや」

「うん、落ち着きましょ」



秀治とアイト、2人の反りが合わない事は、もう知ってる。

ここで衝突したって、問題は解決しない。


「ひとまずさ、全員で引っ越してみない?」

「ナヲキに賛成だゼ。ここに居ても(らち)が開かないんだろ?」


「そうすべきだね。悪臭に耐えたとしても、衛生環境はこれから悪化する一方だよ」

「……」



秀治は、ガチで深刻な顔だ。

無理もないよな、みんなを心配して、考えてるんだから。



「あのさ秀治、ここに俺ら7人がいるのって、奇跡じゃないかと思うよ」

「……それは確かにそう思うよ。周りでどれだけの人が消えたか、もう想像も付かない」


「だからさ、できれば全員で、病気とか怪我とか無いように、過ごしたいよね」

「僕だって、そう願ってるよ」



俺にしては、かなりうまい事を言えたと思う。

名台詞を決める俺って、カッコイイ。


秀治も気持ちを固めたようだ。俺たちの顔を見てくる。


「……止むをえないな。持ち物を整理して、移住先を検討しよう」

「うん、そうしようぜ」



結論が出た。これでいいだろう。


「ただいま~、フローラルの香り、ばらまいてきたよ~」



女子たちが戻ってきた。よし善は急げだ。

俺は声を張りあげる。


「みんな、引っ越しするよーっ!」


「な~に言ってるの?こっちは校内巡りして働いたんだけど~」

「ナヲキ、寝言は寝てから言いなさいよ」

「失笑」



罵声の3連発を受けた。女子の不興を買ってしまった。

ちょっと早まったかも。



それからの時間は、女子たちに事情を説明し、じっくりと相談する。

もちろん交代でシャワーも使う。

そうしないと気分が落ち着かないし、食欲も湧かない。


あまり相談したくない話題だったけど、意見はまとまった。

明日は引っ越しの準備をする事になった。


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